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橙空が見下ろす決意

引き続き読んでいただきありがとうございます。

「力を、貸してくれないか?」


 夜が明けてから、ディックは村の外に出た。

 その目は真っ赤に腫れていて、昨日とは別人のようだ。

 夕方に燃え盛り、夜もちらほらと明かりを残していた村の火はもう完全に消えている。

 アリア、ベルナ、そして金髪の男は村の入り口で座りこんで何やら話をしていた。

 しかし、ディックが呟くような小さな声で話しかけると、一斉にディックの方を見る。


「おう、何でも言ってくれ」


 金髪の男が優しく笑いかける。


「ちょっとーリカルドさん、何でもは無理でしょ。すぐ安請け合いするの止めてよね!」


 ベルナが金髪の男、リカルドに食って掛かる。

 そして、リカルドは飛び回る虫を追い払うようにベルナを軽くあしらっている。

 ディックはそれをただ呆然と眺めていた。

 目の前の会話が耳に入っているのかも怪しい。

 それに気付いたアリアが、ディックに声をかけた。


「何を手伝えばいいの?」

「埋めたいんだ……、村のみんなを」

「……分かった、俺は手伝うよ」


 リカルドはそう言って立ち上がり、ズボンに付いた砂を払った。

 アリアもリカルドをが立ち上がるのを見て続いて立ち上がる。

 そして、二人は村の中に向かおうと歩き出した。

 それにディックもならって歩きだすが、ベルナがリカルドの背中に抱き着いて、三人が村に行くのを妨げる。


「えー、ベルナ、行きたくなーい。ねー、死んだ人間なんてどうでもいいじゃん」


 ベルナは、大きな胸をリカルドの背中にぎゅっと強く押し付けながら、甘えた声を出す。

 しかし、リカルドはベルナを軽く振り払って、再び歩き出した。


「じゃあ、ベルナは留守番でいいよ。あと、そういうのやめろって言ってるだろ。俺には効かないからな」


 冷たくあしらわれたベルナは、あっさりリカルドから離れた。


「あーあ、やっぱリカルドさんは、つまんない。もしかしてリカルドさんってそっち?」

「別につまんなくていいよ。で、お前はどうするんだ? 留守番ならアリアの荷物でも見といてやれよ」

「えー、留守番は嫌だし……。もー、しょうがないから私も手伝ってあげるよ」


 ベルナは、不満げな顔で少し先の三人を小走りで追いかける。

 しかし、ディックの隣に来るとディックの顔をじっと見つめた。

 そして数秒経ってから、スッと目を細めて口角を上げる。


「まっ、あなた可愛いし、恩売っとくのも悪くなさそうだしね、ベルナ頑張っちゃう!」


 ウインクをしながらそう言うベルナに、ディックは何の反応も返さなかった。

 ディックの目は、ベルナの向こう、焼け落ちた村を見ていた。

 ベルナの声はディックに届いていなかったようだ。

 無反応のディックに再び不満そうな顔をしたベルナは、もうディックに話しかけようとしなかった。




 村の中ほどにある広場まで来ると、先頭を歩いていたリカルドが立ち止った。


「ここなんてどうだ?」


 リカルドが後ろを向いてディックに尋ねる。


「あぁ……、ここにしよう。丁度いいと思う」


 広場を見渡しながら答えるディック。

 広場付近にも死体は転がっており、それが目に入るたびにわずかに肩が跳ねている。

 それを見たアリアは背負っていた大きなリュックからスコップを取り出してディックに半ば強引に手渡した。


「これで穴を掘ってて」


 ディックは渡されたスコップを見て、それからアリアを睨みつける。


「なんで俺が穴を掘るんだよ」

「死体を埋めるなら、穴を掘らないといけない。お願い」

「そうじゃなくて、俺はみんなを探す方に……」

「無理でしょ。そんなにビクビクしてるんだから」

「そ、そんなこと……」


 アリアに図星をつかれ、言い淀むディック。

 その様子を眺めていたリカルドは、さらに言葉を続けようとするアリアの肩を叩いて止めた。

 そして、アリアに代わってディックに話し始める。


「ここの地面固そうだし、男がやった方がいいだろ? 村人の大体の場所は俺が覚えてるから、お前はここで穴を掘ってくれると助かる」


 そう言われたディックは、悔しそうにしながらも小さく頷いた。

 たぶんアリアの方が力は強い、死体を運ぶのにも力がいるから男手はあった方がいい、言い返そうと思えば言い返すことはできた。

 それでもそれをしなかったのは、リカルドの心遣いを無下にできなかったからだろう。

 ディックがスコップで穴を掘り始めたのを見て、リカルドとアリアとベルナは、村人の死体を回収するために出発した。




 太陽がてっぺんに昇る頃には、広場には大人一人が入るくらいの穴がいくつも並んでいた。

 そして、その全部に死体が入っており、入りきらない分は、広場の端に並べられている。

 ディックは必死に穴を掘るが、死体が運ばれてくるスピードが速くて全く間に合っていなかった。

 そして、死体を回収する三人は今、ディックから見える所まで来ている。

 リカルドが、焼け崩れた柱を押し上げ、そこからベルナとアリアが死体を引っ張り出す。

 スムーズな動き。慣れている。

 穴を掘っていたディックは、少し手を止めて三人の動きに見入る。


「何者なんだよ、あいつら……」


 変わり果てた姿の村人たちが、次々と運び出されていく。

 ディックが未だに直視できない死体を、三人はまるで荷物を扱うように運ぶ。

 今、アリアが死体を担いだ。

 そのまま広場の方にやってくる。

 そして、それを見ていたディックと目が合うと、首を傾げた。


「何?」

「い、いや、何か慣れてんなって思って……」


 アリアが抱える死体から目をそらしながらディックが答える。


「こういうこと、何回もやったから」

「死体の処理を?」

「そう」


 何でもないことのようにそう言って、アリアは死体を下ろし、持ち場に戻ろうとした。

 しかし、アリアの後ろにはいつの間にかリカルドとベルナが立っており、アリアは戻る必要がないことを察して、その場に留まった。


「これで全員だと思う」


 リカルドがディックに報告する。


「これで全員? 少ないような気が……」

「人の形がある分はこれで全部だよー」


 ディックの疑問には、ベルナが明るく答えた。


「そうか……」


 笑顔を浮かべるベルナに怒る気力もないのか、ディックは力なく呟いた。

 

 


 それからは、アリアが取り出した追加のスコップを使って四人で穴を掘って、死体を埋めた。

 埋め終わる頃には、夕日が空をオレンジに染めていた。

 墓石も何もなく、少し盛り上がった土がたくさん並んでいる広場。

 それに手を合わせてからアリア、ベルナ、リカルドは広場を後にした。

 しかしディックだけは、まだ広場の端の方にしゃがみこんでいる。

 そこには、まだ土が被せられていない死体が二つ。

 ディックの父と母だ。


「父さん、母さん、俺のことは心配しないでゆっくり休んでくれ……」


 ディックはそう言って二人に土をかける。

 そのディックの目に涙はなかった。

 昨日散々泣いて枯れてしまったのだろう。

 そして、ディックは、盛られた土の横に膝をつき、笑顔を作る。


「さよなら。行ってきます」


 両親に別れを告げたディックは、立ち上がると村の外へと走り出す。

 その間、一回も振り返ることはなかった。


読んでいただいてありがとうございました。

次回は今までと曜日が変わりまして、

11月18日(土)に更新する予定です。

次回も見ていただけると嬉しいです。

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