2. I am me. @
エルドワーフの両親はなんとエルフとドワーフと言う珍しい組み合わせ。
母親のエルフはエリーと言う名の錬金術師、父親のドワーフはバウロと言う名の鍛冶職人で、二人一緒に日夜新しい道具の研究開発をしているらしいのだ。
「エルドちゃ~ん、ごはんですよー。今日のごはんは畑で採れた薬草のスープでーす」
エリーはとても研究熱心な方で、産まれた時から赤ん坊の俺でも食べられる料理を作ってはメモを取って紙束に纏めていた。
残念ながら味覚もまだ発達していないので何を食べても無味。
多少、嗅覚で愉しむことが出来るのは僥倖だった。
しかし今日のは青臭かった、眉をしかめるとエリーは残念そうな表情を浮かべてメモを取った。
因みに毒味をしているのはいつも水銀スライムのシルバーだ。
エリー曰く、「バウロはいつも酒を飲んで舌が馬鹿になってるからシルバーの方が信用出来るの」と愚痴っていたが、俺からすればそれ以前に自分で試す選択肢は無いのかとか、スライムに味が分かるのかと問いたい。
「エリー、シルバーを借りるぞ。エルド、ワシの跡を継ぐ為にもよく食べよく寝るのじゃよ」
バウロもまた仕事熱心な人で、普段は酒を呑んでは家の中を歩き回って仕事道具の手入れや素材の在庫確認をし、いざ仕事を始めると断酒して金槌を振るう。
まだ見たこと無いけど工房には相当な機材を入れてるそうで、よく自慢話をしてくる。
偶に自分が作った作品を見せてくれることもあるがまだ視力は弱いから見せられた所でよくわからん。
うにょ...うにょ...
そしてこの世界で見た中で一番異世界を実感させられるのがこの水銀スライムのシルバーだ。
岩山をくり貫いたこの家の北西には昔、辰砂鉱山があり、シルバーはそこでエリーが見つけたそうだ。
この水銀スライム、実は世界的に相当な需要があり、一匹居れば食うに困る事は無くなるほど貴重な資源なのだそうだがとてもそうには見えない。なんせ消化出来れば毒だろうが何でも食うのだ、俺が食べる物は果たして大丈夫な物だろうか?
その為、防犯の為に危険なゴブリンの森の奥地に住居を構えたそうな。
なんでそんなこと知ってるのかと言えば、全部エリーの入れ知恵だ。何か喋れば返事する俺に気を良くして色んなことを教えてくれる。
例えば魔法が存在していて種類があって、大雑把には自然魔法と才能魔法の2種類がある事だ。
特に明示しなければ、魔法と言えば火・水・風・土、雷や氷など、自然界に溢れる物質や現象を魔力と気力を引き換えに生み出す自然魔法を指す。
才能魔法は使えるかどうかは本人次第、強力な魔法からそもそも持っていないなどピンからキリまであり、例えばバウロの才能魔法は火の精霊魔法、エリーのは肉体強化だそうだ。
他にも1日は24時間で昼夜が入れ替わり、一月は約90日掛かり、一年は四月、つまり360日程で一周するとか。世界は違っても流れる時は同じなようでちょっとホッとした。
他には人間と魔人、動物と魔物、怪獣と魔獣の違いや薬草の知識、錬金術の秘術についてなど、役に立つ常識や赤ん坊にそれ教える意味あるの? と思うあれこれを教わった。
それにしても魔法を使えるかは正直不安に思っていたけど、話し振りから誰でも何かしらの魔法は使えるみたいで良かった。
その内魔法が使えるようになったらいっぱい練習しよう!
そして10年が経ち、ようやく俺は立ち歩きが出来るようになった。
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エルフとドワーフのハイブリッドな俺ことエルドワーフはエルフとドワーフの種族的特徴を多分に持って産まれた。
その一つが成長の遅さ。
エルフとドワーフは共に所謂普通の人間達の10倍近い寿命を有する代わりに人間の10分の1の成長力しかないと言われる。
ただし頭脳はその限りで無く、あれこれ教えられたのはそういう理由だったようだ。既に文学作品くらいは読める。
まだ饒舌に話せるほどでは無いけど簡単な単語なら話せるくらいにも成長した。
エリーのことは、
「お母さん!」
バウロのことは、
「オヤジ!」
と、呼んでいる。
思いの外、本人達は満更でもない様子なのでそれで通した。
シルバーは心の中で念じるとやって来るので、何か魔法的な感覚があるんだろう。
人間は1歳くらいで歩けるようになる年頃だ。
8歳くらいになった辺りで急激に身長が伸びたが筋肉が追い付かず、結局10年間自由な移動が出来なかった俺にとって、立ち歩きが出来るようになったことはどれほど嬉しいことか!
寝返りだけでもある程度移動出来たが限界が有った。
ベッドから地面へと到る高低差、急な階段、行く手を阻む家具など小さな身体に取っては難儀な障害物で溢れていた。
何と言っても一番の脅威はシルバーだ。
服が汚れるから転がってる最中の俺を見つけたらすぐにベッドへ運ぶよう命令されていたのだ。
喜びも束の間、夕食の時間の事だった。
「まさかもう一人で歩けるようになるなんて思わなかったわ。
普通のエルフはあと4~5年掛かるのにね~」
「なに? そんな掛かるのか? ドワーフなら10年あれば両手斧が持てるぞ」
両親曰く、エルフとドワーフ、両方と比べても早いくらいの成長具合だとか。
同じ年頃だと、普通のエルフは筋肉が発達し切れてないし、ドワーフと比べれば身長が既に大人と同じ位になった。
言われてみて自分の手や腕を眺めて見れば肌は白くややほっそりした印象を受けるが触った感じ、車のタイヤみたいな硬いゴムに布を一枚被せた様な感触だ。
「それにしても不思議ね〜。
私達の子供だけど見た目が人間そっくりね」
そう、前世と同じ人間そっくりだ。
前世の俺はBMI値17の痩せ型で現在と同じ年頃の身長は140㎝弱、それに対してエルドワーフの見た目はほぼその時と瓜二つだ。顔も輪郭や鼻口はエリーに似て白くほっそりして目や眉毛はバウロに似てクリクリとした二重瞼をしている。
髪もクセの強いのがフサフサとしてシルバーにガラス板を押し付けた簡易鏡に映った自分の姿を見て、ちょっと工藤◯一に親近感が湧いた気がした。
特にわかりやすい例としては耳だ。
エルフは先端が尖り縦か横に長い、一方ドワーフはかまぼこ状に丸く広い、その中間的特徴を持つエルドワーフの耳は正に、人間の耳にそっくりだった。
生まれ変わっても俺は俺だった。
「もし寿命も人間と同じだと衝撃的な論文が書けそうね。
アーゲイン教も真っ青よ」
エリーは学者として優秀だが配慮に欠ける。
前世は人間だが今はエルドワーフだよ!
子供は自分と親との違いを見つけては一喜一憂するから、悪い方向に受け取るかも知れないよ!
俺の見た目は子供、頭脳は大人だから大丈夫だけど。
あとエリーの言う寿命は心配無いと思う。
普通の赤ちゃんはお腹の中に2年と半年も居たりしないから。
きっと自我の覚醒前も含めるともっと長いんだろう。
「滅多なことを言うな! とにかく歩けるようになったんだ、今日からワシの持つ鍛治工房で弟子としてこき使ってやろう」
「勿論、空いた時間にはお母さんが錬金術と魔法の訓練をしてあげるわよ」
二人は片目をつむりニコリと笑みを浮かべて親指を立てた。
BMI値とは
BMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))
このような計算により自分が肥満かそうで無いかがわかる数値です。18.5〜25が普通、それ以上は肥満、以下は痩せすぎです。センチでなくメートルで計算するように注意!
因みに、私のBMI値は 14.7 です(^q^)/ビックリ!