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チャリンコ・チャリオット  作者: 怠慢兎
第1章 ーワンパク ワンダー ワールドー
1/54

0. 死出の旅路 @

 キーン、コーン、カーン、コーン......


 チャイムが鳴り響いている。

 これから授業が始まるのだろうか。

 はて?

 高校はすでに卒業していたと記憶するが、ここは一体どこなのか?

 見た所、古き良き木造校舎の教室?


 と考えていたら白衣のポケットから水タバコがはみ出し、そこから延びる管を噛み締めながらモクモクと煙を纏った金髪ピアスの色々と強烈なお兄さんが部屋に入って来た。


「はーい、席に着いて~。ふぅ~。

 え~、初めまして私の名前は ヱルメス と申します。

 まぁ貴方達(・・・)と会うのは恐らく今日が最後なので憶えても憶え無くても結構です。すぅ~、んふぅ~」


 ヱルメスと名乗るこの男性はこちらへ向かって『貴方達』と言った筈だが周りには他の誰も見当たらない。


「えっと、貴方達は何の説明もされずにここに来たのですねぇ、大丈夫、これから順を追って説明する為に私が居ります。

 ん~ぷふぁ~


 まず始めに、貴方達は死にました。

 ここには肉体から解放され魂のみの思念体として存在して居ます。

 故にここには私を除けば三体の魂が存在し、それを認識出来るのは死出の旅路を案内する役目を持つ私だけとなりますね。すっぱぁ~」


 死んだ? 嘘だろ!?

 俺まだ20歳そこそこの大学生でこれから社会に出ようと考えていた真面目な青年だぞ!

 まだ就活始めてないけど…


「思う処は様々でしょう、本能であったり感情であったり、言葉を用いて整理するのも大事です。ですが、死ぬ直前の記憶は場合によっては精神に悪影響を及ぼしかねないので安全を考慮して封印しました。

 しかしアナタはどうやらそこら辺の記憶が無いが為に事実を受け止められないのでしょうね~。フッ

 参考までに死因だけでも教えましょうか?」


 このヱルメスは管の先の煙管を咥えたまま俺に向けて問いかけて来た。

 冷静に考えて確かに朝、布団の中で目を覚ましてからしばらくの記憶がごっそりと抜け落ちている。これがドッキリとかならば大掛かりだなあと感心するが、ここまでしてくれる、或いは可能な友人知人に心当たりはない。

 寧ろ付き合いのある友達が……考えるのはやめよう。

 とにかく知って得するなら聞きたいが、精神を病むかもしれないなら遠慮しておこう。

 それにどうせコレは夢だから。


「それなら構いません。

 私も言語を扱える知能を持った魂と接するのは久しぶりですし、どんな魂にしろ発狂させてしまうのはいい気分にはなりません。つぅ、………ふぅ~。

 夢だと思ってもあながち、間違いではありませんしね~。


 では次に移りましょうかね。

 死んで魂になった生命達は本来ならば記憶をほぼ消してそれぞれの世界で生まれ変わります。

 これを転生と言います。

 ですが極々稀に、記憶を保ったまま転生してしまう魂が現れるのです。それが現在の貴方達です」


 創作物(フィクション)小説好きとしてはありふれたネタだと思ってしまう。

 まぁ、本当にそうであるとして、とりあえずは前世よりもマシな人生にしてみたいな、とは思う。


「ココからが重要なんですが、本来あり得ない魂が転生しようとすると事故が起きてしまうのです。

 それぞれの世界には輪廻と呼ばれる輪が存在し、通常なら輪廻を巡って転生の準備を整えますが、運悪く貴方達はその輪廻から弾かれてしまいました。

 そんな訳で貴方達は転生するべき世界を失いました。

 この世界はそんな魂の為の世界だと思って下さい」


 まるでカンペを見ているが如く一息に言ってしまうとまたタバコをふかし始める。

 輪廻云々はなんとなく理解出来たが、つまり俺はどこかの世界に転生すると言うことか? と考え、ヱルメスに目を向けると口から煙を輪っか状に吐き出し続きを話しだした。


「世界は次元単位で無数に存在して居ます。

 そんなたくさんの世界に対してこの世界と似た役割を持つ世界は他にたったの3つしか有りません。

 珍しいこととは言えあちこちから来られては流石に困りますし、管理する側としては留まるよりも流れに乗って貰いたい。

なのでぇ~、」


 ヱルメスがおもむろに白衣の胸ポケットから3枚の札を取り出した。


「コレは魂の次元通過証書(パスポート)です。

 貴方達は初回なんで無条件にここへ飛ばされて来ましたが、コレ無しで次元を越えようとすると最悪偉〜い方々に滅殺されます。

 逆に言えば、ここは次元の境界線上なので厳密には次元を越えていません。

 また、今の時点で貴方達は証書を所持していないのでこの場に於いて私以外の方は曖昧な存在で且つこの世界に存在する許可を得ていない魂、故にお互いを認識出来ていません。

 では早速授与しちゃいましょうね~」


 ポン、と普通に手渡しされた。

 手に持った瞬間、今まで感覚的にただ"視えていた"のが"地面に胡座かいている"状態になった。


「あ...…」


 当たり前にあるはずの手や足を今初めて目にしたような奇妙な感覚を覚えた。

 と、そこで斜め後ろにフワフワを感じて首を回すと子熊がいた。


「うわー、かわい~」


 と手を伸ばしたはいいがそのまま腕に食いつかれた。痛くは無いからそのまま愛でることにして、もう一つの魂を探したが見当たらなかった。


「お互いに仲が良くてよかったね~。では次~」

「その前にもう一人は?」

「小さすぎて視えてないだけで頭の上に居ますよ。アナタの世界で言う、ミジンコかな?」


 頭の上に意識を集中させるとなんだろうか? 弱々しい小さな魂を感じた。

 つか、人間、熊、ミジンコって変な組み合わせだな。


「続けます。

 貴方達は今、次元通過証書を所持していますが何の為に渡したかと言えばズバリ転生する為です。

 元の世界で転生は出来ないけど違う世界ならば可能であるからです。

 無論、その世界へ行く為には次元を越えねばなりません。

 因みに、その世界で死ねばきちんとその世界の輪廻に加われますので安心して下さい。

 で、運悪くここへ来た貴方達にはせめて前よりましな運命を歩んで欲しいので何か希望があれば出来るだけ叶えてあげましょう!」


 これは夢だと思ってもそんな事を問われるとちょっと考えてしまう。

 前世に未練はあったけど殆ど大したもんじゃ無い(彼女とか童貞とか)し、無いよ! 無欲と感じるかもしれないが咄嗟に頭に浮かんだコトを言ってみた。


「前世より長生きしたい」

「前世より強くなりたい」

「前世より大きくなりたい」


 子熊とミジンコ? が俺に続いて言葉を発した。

 喋れるの!? と驚いたがここは魂の世界、そんな事もあるかととりあえず一旦納得した。


「なるほど、成る程、判りました。では最後に、これが一番重要なんですが...」


 ヱルメスの纏う空気が変わった気がした。

 ほんの短い間だけ言葉を切ったのに水タバコのブクブクがとても長く五月蝿く感じた。

 こういう雰囲気の時にふざけて場を弛緩させたくなるが、今はやめておいた方がいいんだろうなぁ。

 一方で子熊は俺の背後に隠れやがった。ミジンコはわからん。


 なんだかよくわからないが、いつまで凄んでも顔色一つ変えない事に痺れを切らしたのか、ヱルメスは溜め息と紫煙を同時に吐き出した。


「アナタ結構図太いですね。肝が座って居ると言うか。はぁ、数少ない楽しみが......」

「中学の頃は睨まれたくらいでビクついてたら玩具にされるような学校だったからね。耐性はあるよ。何? 弄んだの?」


 ヱルメスがジト目で俺を睨むがどこ吹く風、続きを話すように促した。


「気を取り直して、えーと、次元を越えるに当たって次元通過証書や私の様な存在がいることから分かる通り、自らの意思で次元を越えることは原則認められません。

 かつてある世界を滅茶苦茶にしておいてヤバくなったら違う次元へトンズラする様な輩がたくさん居たんです。

 今は殆どぶっ殺したか懐柔していますので安心して下さい。

 そんな訳で事故とは言え貴方達は次元を半歩踏み越えた存在ですので、無いとは思いますが転生後にその様な能力を手に入れたとしても、ひけらかしたり迷惑な事をしない様にして頂きたいんです。碌なことになりませんから」


 脅かそうという目論見が外れたからかなんだか投げやりになった気がする。

 それでも丁寧に説明してくれる辺り、見た目の割に真面目なんだろう。


 一際大きな煙を吐いてリラックスするヱルメス。


「今のを教える為に私はここに居ますから、もう私の仕事は終わりました。

 この後のスケジュールは、適当に眠りにつけば次に目を覚ました時には新たな世界に転生しています。ん~~ぷふぁ。最後に質問などありますか?」

「どんな世界へ行くか教えてくれない?」

「少なくとも前世には無い常識があるでしょうね。

 異国の文化とかのレベルじゃなくて、概念的な違いとかが有るのは確実です(でないと、異分子を受け入れてくれる容量の確保とか出来ないですしね)。

 アナタの世界で例えるならファンタジーな世界ですよ」

「異世界だからファンタジーなのはわかるから、どんなファンタジーかを聞きたかったのに」

「はいはい、えーと中世~近代みたいな感じかな?結構異転生者が多い世界だから発展はしてるんじゃないかな?」


 疑問形が多いのが気になるし範囲が広くて理解に苦しむけど、特に気になるのは異転生者。

 俺達と同じ様な奴ということなのだろう。

 小説とかでもあるにはあるし、そういう世界なのか。


 キーン、コーン、カーン、コーン......


 チャイムが鳴り響いた。

 耳に異様に響く。うるせえ


「では、次の方達が来た様なので私はこれで失礼します。

 良い旅を祈りましょう」


 と言ってヱルメスはペコリと頭を下げた。


「寝る前にここ、探索してもいい?」


 顔を上げたヱルメスはなんだか呆れた様な顔して答えた。


「起きて居られるならご自由に」


 意味有りげな言葉を残してヱルメスは教室から出て行った。

 とりあえず背中の子熊を見ると肩越しに目が合った。つぶらな瞳がかわいい。

 立ち上がると肩にしがみ付いて来たのでおんぶしてあげた。

 (*´ω`*)おぅふ、かわゆす。

 でも首に牙を立てられた。

 甘噛みかな? にしては骨まで達した様な音がする。痛くは無いからそのまま教室を出た。

 ミジンコはたぶん髪の毛の中。


 一歩教室を出ると強烈な眠気に襲われた。

 首に噛み付いてた子熊はコテンと眠ってしまったのでミジンコもだろう。

 だがこんなことで俺の探究心はめげない。

 伊達に夜更かしして無いからな!

 どうでもいいことだが、身長は寝ている間に伸びる。成長期の子供が夜更かしをしてはいけないのは、身長を伸ばす時間を削る行為に他ならないのだ。

 身長が伸び悩む子供はよく寝よう。


 教室から出たはいいがこの校舎、出口が無い。

 あちこち歩き回ったがヱルメスすら見当たらなかった。

 窓から外を眺めると他にも校舎は有るがやはり出入り口は見当たらない。

 拓けたグラウンドの方に目を向けて始めて気付いたが爺ちゃんの地元の小学校にそっくりだ。

 子供の頃の俺にとっては珍しい木造建築で強く印象に残っている。

 多分人によって見え方が違って、俺にはこう見えているならきっと子熊には別の、例えば故郷の森とか、ミジンコなら………何かに見えるのだろう。

 なんだかここはまるで檻のようだ、そう結論付けたところで俺は意識を手放した。

HermèsTriatā[エルメス三柱衆]・・・



神すら認識に難を要する界外の存在。超級思念体。

3柱衆の呼称通り、それぞれの個を保持する3柱の上級神であるとされる。


異なる世界間の行き来を管理する事を主命とし、3つの異なる界層にそれぞれ一柱ずつが担当になって管理をしている。


界層とは、「死んでも転生出来なかった魂の為の世界」、「自由意思で次元(異世界)を超えられる犯罪者を閉じ込め裁く為の世界」、「魂を超越した上位存在(神々等)の為の世界」の3つとされる。


どんなに個々の世界では強大な力を振舞う存在であっても逆らう事は不可能であり、どんなに矮小な一魂であっても誠実にその声に耳を傾ける。

時には願いを聞き入れ、迷える魂に新たな道を示したり、神々の慰安旅行先を斡旋したり、その影響力は絶大の一言でさえ控えめとされる。


_______________



 こんな感じで時々後書きに設定や挿絵を載せる事があります...偶に。

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