表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/117

8:持ち主は誰か

 町へ辿りつく頃には、日も随分と傾いていた。

 真っ先に宿へと戻り、ひとまずはこの少女を休ませる事に。

 イリスの部屋を訪れ、彼女に少女のお守りを任せることにする。


「キリクさん、どうしたんですかこの子!?

 この首輪、まさか人買いを……!?」


 盛大に勘違いした聖女には、渾身のデコピンをお見舞いしてやった。

 イリスは強烈な痛みに耐えかね、デコを押さえその場にうずくまってしまう


「はぐっ!? あう~……ひどいですよぉ」


「事情も聞かず、勝手に勘違いするからだ。

 この子は森でゴブリンどもから助けた。ただそれだけだ」


「え、ゴブリンから……ですか!?」


「安心しろ、手を出される前に助け出したから。

 今は疲れて寝てしまっているだけだ」


「そうですか、それなら良かったですよぉ。

 ふっふふー。私の中でのキリクさんへの好感度、ぐんぐん上昇中ですよ?」


「なに馬鹿言ってんだ。

 ……俺はギルドへ依頼の報告に行ってくるから、しばらくこの子を頼んだ。

 体中傷だらけだから、治療も施してやってくれ」


「はい! 私に任せて、どうぞいってらっしゃいませ!」


 本当にこいつに任せていいものなのだろうか。

 一抹の不安を抱きつつも、女性同士のほうがいいだろうとの判断でベッドに少女を寝かせ、イリスに預ける。


 それから俺は宿を後にし、ギルドへと足を向けた。




 ギルドへと着いてみると、表にはなにやら豪華な馬車が止まっていた。

 入り口の真ん前に止めてあるため、入れない事はないが非常に邪魔だ。

 それを横目に建物へ入ると、男が受付でなにやら喚いている。


「まだ見つからんのか!? この無能共めっ!

 とっとと出せる人員を総動員しろ!!」 


 護衛を1人伴った、身なりの良い30過ぎほどの肥えた男。

 商人のボンボンか貴族の嫡男か。こいつがあの馬車の主なのだろう。

 受付嬢は困り顔で対応しており、他の冒険者達も遠巻きに腫れ物を見るような目で見ているな。


 関わると面倒そうな奴だ。

 対応する受付嬢も大変だろう。

 そう思いながら、俺は空いていた隣の受付へと向かう。


「あ、いらっしゃいませキリクさん。もう依頼は終えられたのですか?」


 ちょうど今朝の受付嬢がおり、彼女もこちらを覚えていてくれたようだ。

 おかげでスムーズに依頼の報告ができそうだな。


「ああ、ちゃんと調査してきたぞ。依頼内容で危惧されていた通りだった。

 小規模なコロニーが、ゴブリンロードを中心に形成されていたよ」


「やはりそうでしたか。ならばこうしてはおられませんね。

 ゴブリンロードまで確認なされているのならば、早急に手を打ちませんと……」


「あ、そいつは仕留めてきたぞ。

 コロニーも生き残りがいるかも知れないが、確認できる範囲で殲滅しておいた。

 念のため、再調査と残党狩りの準備をしたほうがいいだろうな」


「……へ? ゴブリンロードを仕留めて、コロニーも殲滅した……?

 あの、失礼ですがキリク様お一人ででしょうか?」


 あー、うん。

 まぁ普通そう思うよな。

 俺だって一人でやれるとは思っていなかった。

 報告だけして、あとは討伐隊に任せるつもりだったのだから。


「あいにく、俺は昔から個人主義でな。

 んで、こいつが証拠であるゴブリンロードの魔石だ。

 こっちがゴブリンの右耳。数が少ないのは、爆発で大半を仕留めたからだ」


 受付嬢へと得た戦利品と、討伐証拠である耳の入った袋を手渡す。

 彼女はそれらをまじまじと確認し、魔石を見てようやく納得したようだ。


「……確かに。しかし、よくお一人で挑まれましたね?

 それだけの実力があれば、すぐに上のランクを目指せますよ」


「だといいけどな。ある程度稼げるならどのランクでも構わないさ。

 で、今回の報酬はどうなる?」


「ああ、失念しておりました。申し訳ありません。

 ……今回の依頼は調査と、可能ならばゴブリンの討伐、となっております。

 ですので申し訳ありませんが、ゴブリンロードの討伐と、コロニー壊滅に対する報酬は想定されておりませんので……」


 ああ、くそ。

 やっぱりそうなるか。


「……出すぎた真似はするもんじゃないな。

 それじゃ、正規の報酬をくれるか? それと、その魔石を買い取って欲しいんだが」


「キリク様の功績に対する、満足なお支払いができず申し訳ありません。

 調査報酬とゴブリン討伐報酬25体分、あわせて銀貨7枚と銅貨5枚となりますね。

 では、こちらがその報酬となります。ご確認下さい」


 受付嬢は、申し訳なさげに報酬を受け渡してくれた。

 俺はそれを受け取ると、軽く数えてから財布である小袋へとしまいこむ。


「そして魔石ですが、これはあちらの買取カウンターにてお願いいたします」


 彼女は離れた場所にある、別のカウンターを指差し示してくれた。

 あそこが買い取りのカウンターか。

 この魔石が、損失分を多少なりとも補填してくれるだけの額になればいいんだが。


「……あぁそうだ。もう一つ戦利品があってな。

 獣人の少女を保護したんだが、その娘はどうしたらいい?」


「はぁ、獣人の少女ですか? そうですね――」


 この話題を切り出した途端、隣でいまだに喚いていた男が反応する。

 こちらに近寄り、俺と受付嬢の会話へと無遠慮に割り込んできた。


「おい小僧。その獣人の少女というのは、銀髪で首輪をつけたやつか?」


「? あぁ、そうだが」


「ならばそれは私のものだ!

 私が、行商の奴隷商から買い取った奴隷に違いない。今すぐ返せ!」


 すごい剣幕でまくし立て、こちらに掴みかかろうとする男。

 つい反射的に受け流し、肥えた身体を床へ転がす。


「ぐあ!? き、貴様! 一体なにをする!?」


 盛大に床へとダイブした男。

 護衛は慌てて彼を引き起こすと、こちらに睨みを利かせてくる。

 二人の受付嬢はこの状況に、どうしていいものかと困惑の表情だ。


「あんたがいきなり掴みかかってくるからだろう? 少しは落ち着ついてくれよ」


「なんだと? この私、イースリ家次期当主たるハイネル様になんという!

 ……まぁいい。私は寛容だからな。

 それで、先ほども言ったようにその奴隷は私の物だ。返してくれるか?」


 やはりお貴族様だったか。

 奴隷を買うような身分だ、予想はついていたが。

 ……咄嗟の反応だったとはいえ、ちょっとやばいことしちゃったか。


「そうだったか。無礼を働いてしまい、申し訳ない。

 だが、あんたの奴隷だという証拠はあるのか?

 首輪には主従の印が刻まれていなかったが」


「それは契約の直前に逃げられたからだ!

 あの犬娘め、印の書き換えの隙を突いて暴れだしやがって……。

 その際、商人が連れていた他の奴隷共も一緒くたになって暴れて、おかげで完全に見失ったんだ!」


 なるほど、他の奴隷達が一丸になってあの子を逃がしたわけか。

 となると身売りで奴隷になったという可能性は低そうだな。


 んー、どうしたものか。

 このまま素直にあの子を渡してもいいのだが、そんなことをすればイリスがなんて言うか……。

 せっかく逃げ出してきたというのに、必死の努力が無駄になってしまうというのもな。

 そもそも違法な形で奴隷とされていたのだとしたら、この手の輩に引き渡すのは気が引ける。


「おい餓鬼、なにを黙りこくっている!

 お前はさっさと、見つけてきた奴隷を連れてこればいいだけだろう!?

 もちろんちゃんと謝礼は支払ってやる! それでも不満があるのか!?」


 この男、自分で寛容だと言っていた割には随分とすぐに癇癪(かんしゃく)を起こすな……。

 汚い顔が近いし、唾が飛んできてもの凄く不快なのだが。

 対応していた受付嬢の気分がよくわかるよ……。


「おいおい、こいつは一体なんの騒ぎだ?」


 対応に困りあぐねている所に、背後からこちらへ向けて声がかけられる。 

 声の主を見ると、額から眉間を通り頬にまで届く大きな傷の入った、いかつい壮年の男だった。


 誰だか知らないが、助け舟となれば有り難いのだが……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ