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47:次に成すべきは……

「ふぃ〜、さっぱりした」


 お湯で汚れを落とし、布で入念に身体を拭った。

 服も綺麗なものに着替えたし、これでもう臭わないだろう。


 部屋の外で待機していたトマスと連れたち、ギルドマスターのところへ。

 だが建物内では姿を見つけられず、受付嬢に尋ねることに。


「マスターはただいま今後の復興について、会議に出席されております。

 もうじき戻られるかと思いますので、しばらくお待ちいただけますか?」


「そうか。立場のある人だから仕方ないな」


「お部屋をご用意しておりますので、室内にてお待ち願えますか?

 お連れ様方も先にご案内しておりますので」


 先導する彼女のあとに続き、用意されていた応接室へ。

 室内にはイリスとシュリがおり、すでに椅子に腰掛けくつろいでいる。

 机の上には茶菓子があったのだろうが、ひとつ残らず全て食べつくされていた。

 犯人に予想はつくが、食欲があるようでなによりだな。


 入室した俺達に気付くや否や、シュリは席を立ち飛びついてきた。


「キリク様! ご無事でなによりです! ……くんくん」


「さりげに臭いチェックすんな。

 ちゃんと綺麗に洗ったし、服も着替えた。もう大丈夫だろ?」


「はい! 我慢できるくらいには……」


 うーん、やはり1回では落ちきらないか。

 にしても正直に言う奴だな。だがまぁ、我慢できるのなら問題ないってことだろ。


「さ、さすがシュリさんですね。ぼくの鼻じゃ、何も感じませんでしたよ」


「くんくん。……私の鼻も感じませんよー?」


 イリスとトマスには嗅ぎとれないか。まぁ時間が経てば薄れて消えるだろう。

 それまではシュリに我慢してもらうほかない。

 ……にしても、全員で俺を囲い臭いを嗅ぐのは勘弁してほしい。


 ちなみにこの場には居ないアッシュだが、まだ養生のため寝ているそうだ。

 イリスが目覚めたのだから、すぐ全快できそうなものなのにな。


 俺達も席につき待つことしばらく。

 ようやくギルドマスターが、1人の壮年な女性を伴い現れる。


「待たせて悪いな。会議が長引いちまってよ。

 あ、こいつはサリー。聖女様にかけられた術を解いた魔導士だ」


 なるほど、この女性が。

 木の杖を持ち、ぶかっとした黒のローブに身を包んだ、いかにも魔女といった姿。

 だが数少ない露出部である尊顔は、格好とは裏腹に落ち着いた大人の淑女。

 丁寧なお辞儀に恐縮しつつ、こちらも軽く自己紹介をすませる。


 なんでも、彼女は今朝ティアネスへと戻ったらしく、変わり果てた町の惨状に目を疑ったそうだ。

 すぐさまギルドへと行き事情を知り、それからイリスの容態を見てくれたのだと。

 起こしてくれたことに感謝し、俺からも礼を述べておく。


「んで、こいつを連れてきた理由だが……」


「マスター、私からお話いたしますわ。

 まず結論から申します。聖女様には、あなた様を眠らせていた昏睡の魔法以外にも、もうひとつ。

 私にも解除できない、強力な封印がかけられております」


「ふぇ!? 封印ですかぁ!?

 ……私のなにを封じているんでしょう?」


「なにをって、加護とやらじゃないのか?」


「ぼくが盗み聞いた話からして、間違いないと思いますよ」


 とはいえ、加護とやらを封じたところでどういった意味があるのか。

 そもそも加護の恩恵がよくわからん。


「本来ならば、聖女様が魔法で眠らされるなんてことはありえないはずです。

 毒を盛られようとも無毒化し、病気なんかにも罹りません。

 御身に危機が迫った際には、救いが差し伸べられるように運命を動く。

 それらはひとえに加護による賜物……と、先代の聖女様から聞き及んでおります」


 なるほど。そういった効果だったか。

 つまりあの日イリスと出会ったのも、加護による導きってわけだな。

 神に選ばれたといえば聞こえは良いが、実際は都合よく使われたって気がする。


「サリーさんは、隠居した先代様をご存知なのですか?」


「はい。同郷の馴染みでして。

 今は彼女の立場から疎遠となっておりますが、昔はよく遊んだものですよ」


「うわぁ! そうなのですか!?

 先代様との昔話、ぜひぜひ聞かせてください!」


 身を乗り出し、目を輝かせ催促するイリス。

 俺は先代の聖女は名前しか知らない。だが今代の様子をみるに、えらく慕われているようだな。


「ふふ。聖女様、また別の機会にゆっくりとお話ししてさしあげますわ。

 ……加護を封印されたということは、今の聖女様はただの人であるということ。

 恐らく、神の領域に達していた神聖術も恩恵がなくなり、今までのようにはいかなくなっているかと存じます」


「あ! だからアッシュさんに施したとき、効果が薄かったんですね……」


「でもさっきわたしが転んで膝を擦りむいたときは、すぐ治してもらったですよ?」


「そりゃ擦り傷程度なら、見習いのボウズでも治せるだろ?

 なにも使えなくなったわけじゃねぇんだからな。聖女様から、普通の神官に降格したって感じかねぇ」


「え、イリスは聖女じゃなくなったのか? じゃあもう敬わなくていいな」


「聖女ですよ!? まだ現役ですよ!?

 というかキリクさん、最初から私のこと敬ってなんかいないですよね!?」


 心外だという顔で抗議するイリス。

 いやまぁ、わかってて言ったんだけどさ。

 話を聞く限り、命には別状がないようなので良かったというべきか。

 しかし本来あるべき力を失っているというのは、決していい状態ではないな。


「冗談だって。たとえ聖女であろうとなかろうと、これからも態度を変えるつもりはないから安心しろ」


「ならいいんですけど。……ん? それもどうなのでしょう?」


 ぷんすかと頬を膨らませたかと思えば、今度は考え込むイリス。

 念のために言っておくが、一切敬っていないわけじゃないからな。

 彼女が態度を改めろというのならば従うつもりだ。……多分。


「それで、イリスにかけられた封印はどうやって解けばいい?」


「単純に術を用いて解除するのであれば、王宮にいる宮廷魔導士クラスならば可能でしょうね。

 ですが、王都まで行かずとも放っておけば解けますよ」


「なるほど、王都にって……は?」


「ですので、時間が経てば自然と解けるはずです。

 強力な封印術ではありますが、女神様の加護は比になりませんからね。

 しばらくの間だけ、力を抑えておくのが目的だったのでしょう」


 深刻に考えて損した気分。俺だけじゃなく、周りも同様のようだ。

 いっそ封印が解けるまで、山か森の奥地にでも身を隠そうか。


「あのあの! 時間はどのくらいかかるのでしょうか?」


「申し訳ありません聖女様。詳しくはわかりかねます。

 ですが、王都までかかる日数とそうかわらないかと思いますわ」


「ってことは半月以上はかかるってことだな。

 それまでギルドの総力をあげて護衛を、といきたいところだが。町の現状がなぁ……」


 被害を受けた町の復興のため、1人でも人手が欲しい状況だからな。

 どちらを天秤にかけるか難しい判断だ。

 部外者からすれば聖女様第一だろうが、町の住人達にとっては、復興が遅れることは死活問題になる。


「私も聖女として、怪我をされた方々の治療を施したいのですが……」


「そりゃ神聖術を使える人手は欲しいが、この町に留まり続けるのは危険だろう。

 領主が兵を動かせば、町の戦力じゃどうにもならん。隣領からの救援もまだまだ来やしないからな」


「ぼくは早く避難したほうがいいと思います。アルガードをでて、随分と時間が経ちますから。

 聖女様も目を覚まされたことですし、これ以上の長居は……」


「だな。ある程度の偽装工作はしたつもりだが、時間稼ぎにしかなっていないだろうし。

 すぐ準備を済ませて出発しよう。行き先は……とりあえずモギユ村でいいか」


「おいおい、あんな奥地でいいのか? 追っ手がきたとき、逃げる場所なんざないだろう」


「そんなことはないさ。

 もしもの時は森に逃げ込むつもりだ。村周りの森は俺の庭みたいなものだしな。

 不慣れな奴が案内なしに踏み込めば、悪戯に遭難するだけだ」


 狩猟を始めてから、散々探索しまわったんだ。あの森を知らない奴らから逃げ切るなんて容易い。

 ……現に遭難したことのある本人が言うんだからな。

 あの時は3日彷徨って、命からがら村に帰れたんだっけ。


「モギユ村ですと、確か近くに聖地の泉がありましたわね?

 泉の水で身を清めれば、より早く加護の力を取り戻せるかと思います」


「……なおさら丁度いいってことか。

 奴らも躍起になっているだろうから、王都や隣領への道は兵を配置して見張っているかもしれんしな。

 下手に動くよか、報せを受けた国や他領から人が来るのを待つべきか。

 ならばアルガードからの追っ手がこの町にきやがった時には、すぐモギユ村へ報せを出すとしよう」


「そうしてくれると助かる。……町が大変な時に力になれず、すまない」


「気にすんな。今は避難した住人達を呼び戻しているし、近隣の村へも支援を要請している。

 徐々に人手は増えるはずだから、こっちはこっちでなんとかなるさ。

 お前さんが居てくれたからこそこの程度の被害ですんだわけだからな。

 むしろこっちこそ、ろくに力になれずにすまねぇってもんだ」


 逆に謝られてしまった。

 俺としては安心して休息をとれたし、篭手まで譲り受けた。

 イリスだって起こしてもらえて、アッシュを死の淵から救ってもくれたんだ。

 これで不十分だと喚いたら罰が当たるってもんだろ。


 町が受けた被害は決して小さくないが、ギルドマスターは大丈夫だと断言している。

 ……こちらを気遣っているだけなのかもしれないが、お言葉に甘えるとしよう。


 日の高いうちに町をでたいため、話はここで終わりに。

 各々別れ、早急に支度を済ませる。

 洗濯された篭手の内部は乾ききっていなかったが、仕方がないな。


「それじゃアッシュ、先に行ってるな」


 ギルドを出る際、寝入っているアッシュへと別れを告げる。

 本当は無理矢理にでも連れて行きたいが、彼の身体を思えば酷なことだ。

 運ぶための馬や荷馬車も、今のティアネスに貸しだす余裕なんてないのだから。

 奴らの狙いは聖女イリス。ゆえに彼をここに残しても問題ないだろう。


 アッシュを除く全員が揃ったところで、俺達はティアネスの町を発った。

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