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41:頼れるおっさん

「ふぅ……。もう大丈夫。無事峠は越えましたよ!」


「本当か!? 良かった……」


「アッシュ様は助かったのです? わたしも嬉しいです!!」


 あれから何事もなく、無事に到着したティアネスの町。

 滑り込むような勢いでギルドに駆け込むと、ちょうど受付にギルドマスターがいたのだ。


 アッシュのこともあるので、彼にひとまず簡潔に事情を説明した。

 するとすぐに治癒士と部屋を手配してくれ、先ほどようやくその治療が一段落ついたところ。


「ただし! しばらくは安静にして、療養する必要がありますよ? たくさんの血を失ったわけですからね。

 アッシュさんが助かったのも、ひとえにトマス君が頑張ったおかげです。

 もしあの子がいなければ、彼は間違いなく力尽きていたでしょうから」


 その当のトマスだが、町が見えたところで意識を失い、ぶっ倒れてしまっていた。

 マナが底を尽き、欠乏症となったためだ。

 とはいえこちらは命に別状はないため、しばらく寝かせておけば大丈夫とのこと。

 さすがに、白目を剥いていたのには肝を冷やしたが……。


「お連れさん、助かったようでよかったでやすね。

 ではあっしはこれで失礼させていただきやす。

 あっしも馬も、十分休みをとりやしたしね」


「ああ。ここまでありがとな。

 宿に戻ったら、ファルミスさんによろしく伝えておいてくれ。

 女将さんにも、落ち着いたらロバートを引き取りにいくから、それまでの世話を頼んでもらえるか?」


「へい、わかりやした。お伝えしておきやす。それでは……」


 さきほどまで一緒に顛末を見守っていた、ファルミスの従者。

 彼は役目を終えたとして、ギルドからの護衛と共に宿場に戻っていった。

 いつまでも大事な荷馬車を借りていられないからな。


 鹵獲した馬だが、あいつはそのまま一緒に連れて行ってもらった。せめてもの謝礼のつもりだ。

 彼も主人が喜ぶと言っていたし、ありがた迷惑にはならないだろ。


「今回のイリスの件も含め、トマスは功労者だな」


「ですです! わたしも、トマス君が起きたら撫でてあげるです!」


 トマスの真っ赤になった顔が容易に想像できる。

 まぁ恥ずかしがるだろうが、嬉しいのは間違いないだろう。


「イリス様、ですか。まさかあのときの女性が、本物の聖女様だったとは……。

 ですがそれも納得のお力でしたしね。また、是非ともお話をしたかったのですが……」


 アッシュの隣のベッドで、眠り続けているイリス。

 解除系の魔法が使える魔導士だが、ここのギルドに所属はしているとのこと。

 ただ、現在は依頼で町を離れているそうだ。


 魔導士が戻るのが先か、イリスが自力で目覚めるのが先か。


 ギルドマスターはこれを、こともあろうに賭け事のお題にしようとしやがった。

 即座に受付嬢からきつく咎められていたが。


「しかし厄介事を持ち込んで悪いな。ほかに信用できて、頼れる相手がいなかったんだ」


「なぁに。うちに所属する冒険者を保護するのも、長たる俺の役目よ。

 聖女様にゃ気付いちゃいたが、そこまで大事になっていたとはなぁ。

 アッシュを付けたのは正解だったが、あいつだけじゃ足りなかったみたいだな。

 俺の見通しが甘かったぜ。すまなかった」


「あんたが謝ることじゃないって。

 保護を目的に目指したアルガードが、敵の拠点だったなんて誰も思わないだろ」


「そりゃそうだ。しっかしあの領主様がねぇ……。

 何度か顔を合わせたことはあるが、民思いの温厚な方だと思っていたんだがな。

 それも素顔を隠すための仮面だったってことか」


 眉間にシワをふかく寄せ、残念そうな顔を浮かべるギルドマスター。

 俺もいままで領内の村に住んでいて、領主の悪い噂などなにひとつ聞いたことがないもんな。

 聖女であるイリスがこちら側にいなければ、誰も信じやしないだろう。


「ま、王都や隣接する領主に向けて、伝令を出しておいた。

 報せが届けばすぐにでも動いてくれるだろう。

 問題はあちらもそれをわかっているだろうから、どう行動を起こしてくるかだな。

 大人しく、尻尾巻いて逃げてくれてりゃいいんだが」


「まったくだな。素直に諦めてくれることを願いたい」


 というかあの爆発で、領主は無事じゃ済まないだろう。

 むしろくたばっていてくれればいいんだが。

 だが領主はご臨終だったとしても、ジャコフ司祭は健在なわけだからな。


「やつらがなりふり構わず襲撃してきたとして……。

 また魔導士に、厄介な障壁を張られたらどうするか。

 なぁギルドマスター。なにかいい対策はないのか?」


「あん? 障壁って……あぁ、あれのことか。確かにお前さんにゃ、天敵みたいなもんだわな。

 対策つっても、あんなもんは近づいて術士本人をぶん殴ればいいだろが」


「それができたら苦労しないっての……。

 だいたい、後衛が前線に出張ってどうすんだよ」


 これだから脳筋系は困るんだよ……。

 なんでも力で解決しようとしやがる。


「がっはっは! そりゃそうだ!

 一般的には前衛か仲間の魔導士がなんとかするもんだからな。

 そうさなぁ……。単純だが、それこそ攻城兵器クラスの威力をだせばいいんじゃねぇか?

 魔導士個人が張る障壁なんざ、所詮は対人用だ。

 術士の力量で無力化できる上限は左右されるとはいえ、バリスタや投石器まで防げやしねぇからな」


「無茶言うなよ。投擲術に自信はあるが、俺はただの人間だぞ?」


 と言ったものの、それが一番現実的か。

 俺自身の筋力をあげて、威力を底上げすれば可能かもしれない。

 だが一朝一夕にはいかないな。長期的な案になってしまう。

 求められているのは未来ではなく、今なんだから。


「キリク、お前のどこがただの人間なんだっての。

 普通の人は、石ころを投げただけで頭を吹っ飛ばしたりしねぇ」


 うーん、それもそう……なのか。

 村では勇者になったアリアの存在から、俺がちやほやされることはほとんどなかったからな。


 アリアは凄い! さすが勇者様、我が村の誇りだ!

 キリクの投擲? ふうん、なかなかやるんじゃない?

 と、村中こんな認識だった。

 せいぜい、将来いい腕の猟師になれるなくらいのもの。


「俺が思うに、お前は装備が足りてなさすぎんだよ。戦闘を想定するなら、普通は防具やら揃えるもんだぜ?

 それなのに、ただの服を着てるだけだろ?

 ま、これもちょうどいい機会だ。お前にいいもんをやるよ」


 そう言うとギルドマスターは、こちらの返事を待たずして部屋をでていってしまった。

 ただの服じゃなく、余所行きのちょっといい服だっての。


「いいものって、なんなのです?」


「さぁな? 装備が〜って言ってたから、まさかの筋肉増強剤とかはないだろ」


「……あのギルドマスター様みたいに、キリク様がムキムキになったら嫌です」


 同感だ。力に憧れはするが、マッチョになるのは俺も勘弁願いたいね。

 実家の親父や兄貴も暑苦しかったし。


 しばらく待っていると、どたばたと足音を響かせ、ようやくギルドマスターは戻ってくる。

 その手には、なにやら黒色のボロい代物を抱えて……。


「待たせたな。ほれキリク、こいつだ」


 弧を描くように放り投げるかたちで、こちらへと渡された物。


「これは……篭手? 腕にはめる防具か」


 指先から肩までを覆う、漆黒の篭手。

 主な素材は魔物の皮だろうか。

 全体的に傷だらけで、所々ほつれもできている。


「おう。だがただの篭手じゃねぇぞ? そいつは魔装具だ。

 俺がまだ駆け出しのヒョロガリだったころ、運良く遺跡で見つけた昔の愛用品よ!

 おっと、遠慮はしなくていいぜ? いまの俺には小さすぎて入らんからな! がはははは!!」


 豪快に笑いながら、両腕の力コブを見せつけるおっさん。

 確かにあの太い腕じゃ、こいつは入らないだろうな。


 目で「さっそく着けてみろ」と指示してくる。

 だがこれ……その……ちょっと汗のすえた臭いがしてだな……。

 ボロさもあいまって、着けるのに躊躇われるのだが。


 狼種の獣人であるシュリは、無言で3歩後ろに下がっていた。

 笑顔を浮かべてはいるものの、その表情は引きつっている。


 あとで絶対に洗おう。傷みがひどくなっても仕方がない。

 そう心に決め、意を決して右腕に装着する。


「おぉ、ちょうどいいサイズだな。

 そんでこいつはどういった篭手なんだよ?」


「そう焦んなって。ちゃんと説明してやっから。

 そいつは名を『鬼人(おにびと)の篭手』といって、装着者のマナを与えることで、力に変換する。

 いまのお前が求めているものを、補ってくれる代物ってわけだ」


 おお、それはありがたいな。

 ムキムキマッショにならなくて済むんだから。


 しかし魔装具なんて初めて聞いたが、世の中にはそんな装備があったのか。

 鎧どころか防具そのものすら身に着けず、武器は石。

 ……自分でいうのもなんだが、どこの原人だよってな。


 途中投擲ナイフを兵装に加えたとはいえ、それまでほぼ裸一貫みたいなものだった。

 思えば確かに、よくそれでここまでやってこれたってもんだ。


「……こいつがあれば、障壁を割れるか?」


「さぁな。そいつは試してみんことにはなんとも言えんな。

 だが俺の見解じゃ、いけると踏んでるぜ? その篭手さえあれば、お前さんなら大木でも薙ぎ倒せるはずだ。

 宮廷魔導士なんかの天上クラスは保証できんが、そこいらの魔導士相手に遅れはとらんだろ」


 そういえば以前、木を相手に投擲を試して貫通できなかったっけな。

 いまなら可能かもしれないのか。


「よし、早速試して……おっとと」


 気分を高揚させ、部屋を出ようとしたその時。

 足がもつれふらついてしまった。

 とっさに後ろについていたシュリが支えてくれたため、転倒せずに済んだが。


「すまん、助かったシュリ」


「……キリク様、お疲れなのではないです?」


「お前らここまで無茶してきたんだろ? 少し身体を休めたほうがいいんじゃねぇか?

 試すのは起きてからでもできるんだからよ」


 気持ちとしては今すぐ試したいのだが、身体は正直ということか。

 ここはギルドマスターの言葉に従い、大人しく休むことにしよう。


 この部屋のベッドは埋まってしまっているので、空いている別の部屋へ。

 そこに設置されている簡素なベッドに身を投げる。

 シュリも隣のベッドで同じように横になり、すぐに可愛らしい寝息を立てていた。


 ちなみに篭手はシュリの提案で、臭いが漏れないよう布に包んでおいた。

 これでお互い安眠できるってもんだな。

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