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36:背負ったもの

 振り返っても、もう街が見えなくなるほどの距離。

 そこまできたところで足を緩め、やっと一息つく。

 消していたランプに火を再び灯し、夜道を照らしだす。


「……やっぱ光って偉大だな。

 こんな頼りないランプの明かりでも、あるだけで安心できるんだから」


 仲間が周りにいても、この闇夜のなかでは不安だった。

 これがもし1人ならば、どれだけ心細い事か。


「わたしは明かりのない暗い外を、ずっとロバートと2人で待っていたですよ?」


「お、おう。偉かったな、シュリ」


 こちらを見る目が、どうにも褒めて欲しそうだったので、再度頭を撫でてやる。

 読みは当たったようで、えらく嬉しそうだ。


「ふぁ〜……んー……。

 なんだか、安心してくると眠くなってきますね……」


「普通なら、まだまだ寝てる時間だからねー。

 どうする? ここらへんで仮眠のために、休憩でもとっちゃう?」


 確かに、疲労もあいまって少しまぶたが重い。

 トマスは当然ながら、シュリも眠たげだ。

 アッシュはおくびにも見せないが、本心は横になりたいだろう。


「そうだなー。

 あの宿場までまだかかるし……。

 少しぐらいなら……ん? あの光はなんだ……?」


 来た道の方向から、ちらちらと見える光。

 こちらが気付いたのと同時に、あちらも俺たちを発見したのだろう。

 途中で一度動きを止める光。


 次に再び動き出したかと思えば、先ほどまでとは倍以上の速度で向かってきた。

 近づくにつれ、徐々に聞こえてくる蹄鉄の音。


「……まずいな。追っ手かもしれないぞ」


「もう完全に捕捉されちゃってるみたいだね……?

 相手は馬に乗っているみたいだし、走ったところで追いつかれるよ」


「キリク様、どうするです!?」


 どうするもなにもないだろう。

 今更逃げても、ランプを消して隠れても、恐らくは無駄。

 ロバートがいなければ、隠れる選択肢は有効だったろうが……。


「追っ手なら迎え撃つしかないな。

 幸い、蹄の音からして数は少ないようだ」


「了解。トマス君は、ロバートと聖女様を頼むね?」


「わかりました! 皆さん、どうかお気をつけて!」


 意見が纏まったところで、迎撃の準備をする。

 アッシュとシュリに前に出てもらい、離れてトマス達。


 イリスにはあらかじめ布をかけてある。

 この状態は一見すれば、荷物のようにしか見えない。

 追手だとしても、シラをきればやり過ごせる可能性があるかもしれないからな。


 そして俺は1人離れ、茂みに身を隠した。

 交戦が避けられないとなった時点で、不意打ちをするつもりだ。


 こちらが配置についたとほぼ同時に、あちらさんも姿を現した。


「へっへへ……。

 な? 俺の読みが当たったろ?」


「さすがっすね、バスクさん」


 馬に跨り現れたのは、なんと例の元護衛。

 暗くて顔はよく確認できないが、聞き覚えのある声だ。

 少し前に教会内で聞いたのだから、間違いない。


 そしてもう1人は、彼の部下なのか後輩なのか。

 短めの槍を携えた若い声の男。

 そのたった2人だけであった。


 即座に敵と判別できるな。

 これならば遠慮はいらないだろう。

 そう思ったのだが、よく見れば彼らの体を淡い蒼光が覆っている。


「……おい、あれってまさか」


 以前にも見たことがある魔法に、よく似ている。

 確か、飛来する物理攻撃を完全に遮断する障壁……だったか。

 つまり奴らは俺の対策を、ばっちりとしてきたってことか。


「まんま、あの時と似たような状況だな……」


 右手に構えていた石を戻し、昔からの愛用ナイフに持ち変える。

 2本のうちの1本。

 こいつなら、あの障壁を割った実績がある。

 残念ながら相方のもう1本は、研ぎに出しておらず、いまだに大きく欠けたままだが。


「こんな夜中に、どうかされたのですか?」


 念のためか、アッシュが奴らに問いかける。

 無駄と思いつつも、可能であるのならば衝突は避けたいからな。

 奴らの纏う蒼光には、アッシュとシュリも感づいているだろう。

 俺の不意打ちには、期待できないかもしれない、と。


「どうされたかって?

 そんなもん、お前らが一番わかってるだろうがよ。

 誘拐された聖女様を、賊の手から救い出しにきたのさ」


 簡潔に応えながら、奴は馬から降り腰の剣を抜き放った。

 相棒であろう槍の男も同様に下馬し、手に持つ得物をアッシュ達へと構える。


 確定だ。奴らはこちらがイリスを連れていると、わかっていやがる。

 その瞬間、俺は茂みからあの時のように、愛用の頑丈なナイフを力一杯に投擲した。


 だが放たれたナイフは、前回のように障壁を突き破ることはなかった。

 石と同じように弾かれ、地面へと落下し突き刺さる。


「うおっと!?

 へへ……、石投げの餓鬼はそっちに潜んでやがったのか。

 だが残念だったな〜?」


 元護衛の、バスクと呼ばれていた男はそう言いながら、俺のナイフを拾い上げる。

 そしてそのまま、遠くの茂みへと投げ捨ててしまった。

 この夜の暗がりでは、探し出し回収するのは至難の業だろう。


「こいつはお前らが相手した、三流の魔導士が張った障壁とはレベルが違うんだよ。

 そう簡単にゃ、割れはしねぇっての」


「……なんであんたが、そのことを知ってんだ?」


 俺の投擲が通じない以上、1人仲間と離れ孤立しているのは危険だ。

 こんな奴と口を交わすのは面倒だが、気を逸らすためにあえて質問をする。

 相手側も恐らくはわかったうえで、会話に乗ってくれたようだ。

 投擲しかとり得のない俺は、いまは歯牙にもかけない存在ってことか。


「そりゃ、全部この目で見ていたからな。

 あの貴族の犬が乗っていた馬車。

 あれの御者をやっていたのは、なんと俺だったんだぜ?」


 ……そういえば、御者はいつの間にか逃げていなくなっていたな。

 まさかこいつだったのか。


 しかしなぜそんなことを……?

 いや、聞かなくともだいたいの想像はつくか。

 漁夫の利にでも授かって、イリスを横から攫うつもりだったのだろう。


「それにしても、あの4人は役立たずだったなぁ?

 貴族の坊ちゃんもケチらず、もっと腕のいい魔導士を雇っておけば成功しただろうに。

 俺もあれから逃げてよ、色々あったんだぜ?

 上の奴に怒鳴られたり殴られたり……」


 随分とお喋りなんだな、こいつ。

 聞いてもいないことまで語りだしたぞ。

 だがおかげで、前衛を担う2人の後ろにまで戻ってこれたわけだが。


 しかし、あのナイフでも障壁を割れなかった。

 頑丈さで劣る投擲用のナイフでも、結果は同じだろうな。

 ……つまり、現状俺にできることはない。


 白兵戦を挑もうにも、俺の腕前じゃ返り討ちに遭うのが関の山。

 魔法石をひとつ温存しておけばよかったか……。


「……キリク君、ちょっといいかな?」


 ぺちゃくちゃと、愚痴や苦労話を垂れ流すバスク。

 その間にアッシュは、俺へと小さな声で話しかけてくる。


「僕がこの2人を相手取るから、皆には逃げて欲しいんだ。

 幸い、あの馬達にまで術はかかっていないみたい。

 だから先に潰してしまえば、敵の足を無くせるよ」


 そっと目線を、奴らの後ろにいる2頭の馬へと向ける。

 アッシュの言うように、術の効果は及んでいない様子。

 少々可愛そうな気がしないでもないが、それならば俺の投擲が有効であり、即潰すことができるな。


「だけどアッシュ。それだと、お前が危険じゃないか?

 あいつ、俺から見ても腕が立ちそうな奴だとわかるぞ」


「うん、そうだね。

 今もずっと口を動かしてはいるけれど、決して隙は見せていないもの」


「なら駄目だろ。

 それに、奴らの障壁がいまも維持されているってことは、近くに術者がいるんじゃないのか?

 そいつを見つけ出して、先に処理しちまえば……」


「この暗闇のなかをかい?

 僕には見つけられる自信ないなー」


 ……ごもっともだ。

 何より、相手は術を維持し、隠れ潜むことに集中しているんだろう。

 そんな奴を、目の前の2人を相手にしつつ見つけるのは困難だ。


「そうだ。シュリ、お前の鼻で探せないか?」


 狼種の獣人であるシュリならばどうだろうか。

 獣化を使えば、より嗅覚は良くなるはず。


「……ごめんなさいです」


 耳をぺたんと伏せ、申し訳なさげな表情を浮かべてしまった。

 つまりは、一切嗅ぎ取れていないということか。

 獣化を試さずとも、見つける自信がないのだろう。


「こちらのことをよく知っていて、俺の対策をしてきているんだ。

 当然、獣人族であるシュリの対策もしてあるってことか……」


 臭いを消す薬品か、はたまた隠密系のスキルか術か。

 想像以上にこの男達は優秀なようだな。


「……キリク君。

 今は、聖女様を護りきることを考えなきゃ。

 宿までいけば女将がいるし、きっと力になってくれるはずだよ。

 あの人、もとはマスターとパーティーを組んでた、優秀な魔導士だったらしいから」


 ギルドマスターが現役だった頃の仲間なのか。

 ってことは、やっぱり結構年が……。

 いやそれは置いておいて、あのおっさん関連であり、かつアッシュがこう言うのだ。

 女将を頼りに、そこまで逃げ切るのが得策か。


 それに魔導士であるならば、この厄介な障壁をなんとかできるかもしれない。

 こいつさえなければ、一瞬で片をつける自信はあるんだ。


「……わかった。

 だがアッシュ。絶対に無茶はするなよ?

 やばくなったら、すぐに逃げろ」


「大丈夫だよ。

 僕だって、自分の命は惜しいからね。

 きりのいいところで逃げるって。

 逃げ足と隠れんぼには自信があるんだよ!」


 逃げ足、ね……。


「……それじゃ、俺が馬を処理する。

 それが合図ってことで」


「はいです……。

 アッシュ様、どうがご武運をです……」


「君達こそ、聖女様を頼んだよ」


 俺たちは互いに拳を突き合わせた。

 それぞれの役割を全うする、その覚悟を決めるために。

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[良い点] 投擲レベルの方が遥かに高いのに障壁突破できないんですね 主人公が本気て投げてないからなのかな⁈
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