3:6年ぶりの……
「あのあの! もし良ければ、ステータス鑑定をしてみませんか?」
イリスからの、突然の提案。
ステータス鑑定だって?
あぁ、10歳の時に受けたあれか。
でもあれって、10歳と20歳のときに受ける二回だけはタダで、それ以外は金が必要なはず。
だからこそ俺も今までしていないわけで。
「あ、鑑定紙は私が持っておりますので、安心してください!」
「あそう。ってことはタダでやってくれるのか?」
「はい、タダです! 無料です!
庶民の方々は、この言葉が大好きだと聞き及んでおりますよ!」
すかさず聖女にデコピンをかます。
「あイタっ!? あう~、なにするんですかぁ〜……?」
あ、ちょっと強すぎたか。
涙目になっちゃった。
頼むから泣くなよ?
「庶民をバカにしたイリスが悪い。ったく、この世間知らずの箱入りが」
「ふぇぇぇ……ごめんなさい……」
そして横から飛んでくる親父の鉄拳。
盛大に椅子から転げ落ちる俺。
「このバカ野郎! 聖女様泣かすんじゃねぇっ!!」
「痛ってー!? なにしやがる糞親父!?」
「うっせぇぞバカ息子が!!」
「ふぇぇぇ……やめてくださいぃ……!」
今にも親父に飛びかかろうとする俺の頭に、さらに強烈な衝撃が襲い掛かる。
痛みで頭を押さえ、床を盛大に転げまわった。
ふと横を見れば、親父も同じように転げていた。
どうやら俺と親父の頭を、母さんが鉄鍋でぶん殴ったようだ。
「「痛ってぇ!!」」
「ちょっと落ち着きな! 聖女様が困ってんでしょうが!!」
「「はい……」」
母は強し、か。
「……で、俺のステータス鑑定をしてくれるんだって? タダで」
「あ、はい! そうです! 私にお任せください!」
「ま、6年もやってないからな。丁度いいし、お願いするか」
「はい! では、この鑑定紙を持っていて下さいね。早速始めますよ!」
イリスは俺に紙を一枚手渡すと、すぐになにやら呪文を唱え始めた。
たしか、神聖術とやらで鑑定するんだったか。
学の無い俺からしたら、何を言っているのかちんぷんかんぷんだ。
彼女が呪文を唱えていくうちに、手に持った鑑定紙に文字が浮き上がっていく。
あ、文字はちゃんと読み書きできるぞ?
小さい頃に神父様から教わったからな!
そしてイリスが呪文を唱え終えると同時に、紙に全ての文字が記された。
「……はい、これで完了です。ではキリクさん、見せていただけますか?」
「ん」
「「どれどれ……」」
イリスが紙を受け取ると、彼女と共に家族全員が覗き込む。
――――――――――――――――――
名前=キリク・エクバード
年齢=16
性別=男
Lv=20
HP=720
MP=250
力=89
守=73
精=87
技=173
速=161
《魔法》
なし
《技術》
投擲術Ⅹ
隠密Ⅴ
見切りⅢ
遠投Ⅳ
短剣術Ⅱ
解体術Ⅴ
《固有》
必中
《加護》
なし
――――――――――――――――――
「ふぇっ!?」
「おぉ、思ったよりすごいじゃねーか?」
「あら、まぁ」
「へ、へー? 結構頑張ったんじゃね? まぁ、俺の弟だし?」
「なんだその反応は。んで、魔法は使えないのわかったか?」
なしって書いてあるんだ。
バカでもわかるだろ。
「え、あの、え? え〜?」
「なに? なんか変なとこでもあったのか?」
イリスの様子を見ると、心配になってきた。
なんでこいつは戸惑ってんだ?
「あ、あのですね、投擲術Ⅹってどういうことなんでしょうか……?」
「どういうことって、そのまんまだろ?」
「……Ⅹって、その道の天才が生涯を費やしても、到達しえない領域なんですよ? 化物クラスですよ?」
「……は? なにそれ、まじで?」
「えっとですね、スキルのレベルというのはですね――」
Ⅰ〜Ⅲ=初級者レベル
Ⅳ〜Ⅵ=中級者レベル
Ⅶ〜Ⅸ=上級者レベル(天才が一生を費やし鍛錬しても、ここが限界)
Ⅹ=化物の領域
「――というふうに、大まかに区分けされているんですよ……?」
え、Ⅹってそんな凄いものだったの……?
ってことは俺って、投擲術に関しては天才を超えた化物なわけか?
「あー、俺はなんか納得だわ。
こいつの投げる石、気持ち悪いくらいに外れないしな」
「そうね、ここ一年くらい外したところを見てないわねぇ?」
「お、よく見れば固有スキルまであるじゃねぇか!? さすが俺の息子だ!」
「え、どれどれ? ……必中? これのおかげで外さなくなったのか?」
スキル名的にそうなる、よな。
「はい、恐らくはそうかと……。それに、キリクさん結構レベルも高いですね?
若い人は大抵、年齢=レベルくらいあればいいほうなんですが」
「あ、それは多分狩りばっかしてたからかもな。たまに魔物とか魔獣も狩ってたから」
「ちょ、キリク!? あんた、そんな危ないことしてたのかい!?」
「……俺、今初めて弟が恐ろしく思えてきたぞ」
「息子よ、強くなって父ちゃんはうれしいぞ……!」
「うん、決まりですね! これだけの強さがあれば、私も安心できます!
どうか護衛を引き受けて貰えませんか?」
えー、どうしようかな……。
俺としては、生涯この村でのんびり狩人生活で良いんだが。
報酬とかにはそんなに興味ないし。
うん、決めた!
「やめておき――」
「行け、キリク」
「……面倒だし嫌だ」
「行け」
「だから、い――」
「なら出て行け?」
マジかよこの糞親父……。
そこからはどこぞの幼馴染のごとく、とんとん拍子に話が進んでいった。
翌朝ベッドから起きてみれば、俺の私物が入ったリュックが置かれてあった。
寝ている間に旅支度をされていたらしい。
朝食も豪勢なもので、家族の会話も村を発つこと前提の内容だった。
さらにはいつの間に話が広まったのか、村中の人が見送りに来やがった。
……多分、親父と母さんの策略だな。
途中で投げ出したりしないように、帰りにくくしやがったんだ。
「キリク、聖女様を頼みますよ。聖女様、キリクは粗野な一面もありますが、誠実で優しい子です。
どうか信頼してあげて下さいね」
俺が親よりも信頼している神父様からの言葉。
はぁ、こうなったら覚悟決めるしかないか……。
「わかりました神父様。誠心誠意、全霊をかけて聖女様を守ると誓います。
……では、行ってきます」
「神父様、村の皆様、短い時間でしたがお世話になりました。
皆様に、女神ミル様のご加護がありますように……」
村総出で見送られるなか、聖女イリスと共に村を出発した。
目指すは、アルガードの街。
この地方を治める、ヘルマン・アルガード伯爵が住む大きな街だ。
その街にはこの地方最大の教会があるため、そこまでイリスを連れて行けば俺の仕事は終わりだ。
街までは徒歩で1週間ほど。
頼むから、それまでなにも起きませんよーに!




