表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/117

113:大将戦の幕開け

約半年ぶりの更新となります。大変長らくお待たせし、申し訳ありません。

新年が明けてからも、書き溜めた分を少しずつ更新する予定でおります。

 示し合わせたかのように、時を同じくして姿を現した各群れの長。三体の王級の登場によって、兵士たちの間に緊張が走る。戦況にも変化が生じ、大きく流れが変わった。


 ブレードランナー種はまだしも、ほかはこれまで烏合の衆といって差し支えない、稚拙な動きだった。それが種族間の統率が高まり、劣勢を覆し始めたのである。王が見ている前で無様は晒せないと、配下なりの矜持だろう。


 王級の登場は魔物側にとって、反撃の狼煙となった。とはいえ、さすがにいがみ合う他種族同士で手を組む展開はなく、逆転劇とまではいかない。あっさり劣勢を覆されてしまうほど、兵士側も慢心していないからだ。


 王級が登場すれば統率力が高まるであろうことぐらい、最初から織り込み済み。前線で戦う兵士もまた、事前に取り決められていた指示に沿って動き始める。


 彼らは各々が前もって割り振られた通りに、大きく分けて四つの集団に別れた。王級と直接戦う三つの少数精鋭部隊と、残る全ての人員で構成された部隊。後者は各群れの魔物をひと手に引き受け、雑魚処理を担う。


 王級の相手を任された部隊の代表者同士が、互いにイヤフォンで連絡を取り合う。俺たち狙撃支援班から伝えられた王級の位置情報を考慮し、彼らは誰がどの王級を対象とするか決定する。


 アリアの隊は人選そのままに、シュリとラヴァルのふたりを率いて一番近くに現れた刃蜥蜴の王ブレードランナーロードへと駆けた。

 ジルベール隊長率いる部隊は砂魔人の王(サンドマンロード)の相手を。

 副長の率いた部隊が、覇棘樹の王(サハラカクタスロード)を担当した。


 どの種の王級がどこから現れるかは、実際にそのときになってみないとわからない。つまりら彼らは、自分たちがどの王級と対峙するかは決まっていない状態だった。けれどいざ本番が訪れてもうろたえたず、冷静にそれぞれの部隊が最も近い位置の王級を狙い、淀みなく動いている。


 王級までの行く手を阻む群れの魔物を、雑魚処理を任された兵士が率先して排除しにかかる。彼らは王級のもとへ一目散に駆ける討伐部隊のため、全力で道を拓いた。俺たち狙撃支援班も、道を遮る障害の排除に力を注ぐ。


 周囲が尽力した甲斐あって、王級討伐を任された部隊は早々に王の御前まで辿りつく。道中で不要な戦闘をせずにすみ、彼らは万全の状態で挑めたはずだ。


 対峙した王級と対王級部隊。邪魔な横槍を防ぐため、彼らを隔離するように兵士が間に立ち塞がる。壁となり、王のもとへ馳せ参じようとする配下の魔物を遮った。


 ここまでは想定された通りで、順調にことが運んでいる。あとは対王級部隊が標的を討ち取れば終わりだ。


 王級を討伐するにあたり、鍵を握るのは勇者であるアリア。彼女が速やかに刃蜥蜴の王ブレードランナーロードを倒し、苦戦が予想される別の対王級部隊のところへと順次加勢に向かう手筈となっている。


 すなわち、アリアが如何に目の前の王級を早く倒せるかが重要となる。最小の被害で全てを終わらせられるかどうかは、彼女の活躍次第。勇者として、腕の見せどころとなる。


 ではアリアたち以外の対王級部隊はというと、彼らは討伐を第一とするのではなく、体力の削りと足止めに主眼を置いていた。


 隙あらば攻撃をし、反撃を受けないように心がける。徹底的にリスクを避け、深追いはしない。勇者が合流するまでの間にどれだけ弱らせられるかが主な仕事で、あわよくば倒せればいい程度の認識だ。


 アリアへの負担ばかりが大きく、随分と勇者頼りに思える。だがそう感じたのは俺や俺の仲間たちくらいなもので、周囲にとってはむしろ勇者が倒して当然といった空気であった。つまりはそれだけ、世間での勇者に対する信望が盲目的に厚いのだろう。


 凡庸な一般の兵士にとって、魔物の王級とは命を賭す覚悟で挑まねばならない強敵。数の利や戦術を駆使し、ようやく対等に戦える存在である。


 満足な下準備なしに軽い気持ちで挑み、痛いしっぺ返しを貰った者は数知れず。痛いで済めばいいが、多くは割に合わない代償を支払う羽目になる。例えば果敢にも魔鳥の王(アルバトロスロード)の討伐を試みた、あの冒険者パーティのように……。


 だから必然的に、三体もの王級討伐のために集められた兵士はすべからく覚悟を固めている。聞くところによれば、身辺整理を済ませ遺書まで周到に用意した者もいるらしい。


 遺書まで用意するのはさすがに少数派だが、それだけ覚悟の重さが窺える。彼らにとって直前での勇者の来訪は、さぞかし奇跡に思えたことだろう。


 多くの兵の命を預かるジルベールにとっても同じ。部下が命を散らす不幸を回避するため、より勝利の確立を高めるために、勇者であるアリアに協力を求めるのは当然といえた。


 勇者に危険度の高い王級を受け持ってもらうことによって、本来戦闘に加わる予定であって兵士の数を減らせる。王級討伐から外された兵士は、雑魚討伐などの補助役に。王級と通常の個体、どちらと戦うほうが危険かは比べるまでもない。


 兵士たちにしてみれば、まさにいいことずくめだな。本来は自分たちが負うはずだった危険を、アリアに押し付けているって点を除けば。

 だからこそ、仲間である俺たちがしっかり援護してやらないと。アリアに圧し掛かった負担を、少しでも軽くしてやるのが俺たちの役目といえる。


「よし。では戦場の兵士に合わせ、俺たちも動きを変えるぞ。まず俺は、引き続き王級以外の魔物と戦う兵士全体の支援を務める。リコッタは副隊長の隊を援護だ」


「はいな。了解や」


「俺はどうすればいい?」


「君には勇者様とジルベールの部隊、彼らの援護を任せる。荷が重いとは思うが、君ならやれるだろう。俺の独断で決めたが、難しいかい?」


 まさか断りはしないよな? といった口振りで、エコーは俺に諾否を問う。なんともわかりやすい挑発だ。小ずるい目つきで、口元が若干ほくそ笑んでいやがる。


 当然、俺は迷いなく首を縦に振る。ここで断ったら、自分の腕に自信がないと怖気づいたも同然。挑発までされて、後に引けるかっての。


「問題ないね。というか俺より、戦場にいる兵全体の援護を受け持つエコーのほうが大変だろ」


「おや。君に負担を押し付けてやったつもりだったが、逆に心配されちまうとはな。ははは、頼もしい限りだ」


「相手する王級は違うけど、お互いがんばろなぁ! うちらの働き次第で戦況が変わるさかい、責任重大やでぇ!」


 両手で自分の頬を挟むように叩き、リコッタは気合を入れる。しかし少々強く叩きすぎたらしく、若干涙目になって頬をさすっていた。

 彼女の両頬はじんわりと赤くなっており、気合の入れすぎだとエコーは苦笑する。笑われたたリコッタは失敗したとばかりに舌をちろりと見せ、気恥ずかしかったのか逃げるように持ち場についた。


「さて、無駄話はここまでだ。俺たちも仕事に取りかかろう」


 エコーに促され、俺も持ち場に着く。まずは戦場を俯瞰し、現状の把握から。俺が支援を担当する二部隊はどちらも、すでに王級と接敵。戦闘を開始していた。


 まずアリアたちだが、意外にも苦戦を強いられていた。刃蜥蜴の王ブレードランナーロードを相手に、完全に速さで翻弄されてしまっている。


 アリアたちなら、俺が手を貸す必要はないんじゃないかと気楽に構えていたが、考えが甘かった。流石は王級だ。勇者が相手といえど、簡単にはいかないな。


 アリアたちが苦戦している主な原因は、細かな砂漠の砂にあった。砂上を好き放題、縦横無尽に走り回る敵に対し、アリアたちは砂に足をとられ思うように追いつけない。加えて舞い上がる砂塵が煙幕となって視界を遮り、一撃離脱を繰り返す刃蜥蜴の王ブレードランナーロードの姿を巧妙に隠している。


 上からの視点ならば楽に目で追えるが、砂が舞い上がっている地上では神出鬼没にも等しいはず。意図して効果的に砂煙を発生させているのだとしたら、魔物のくせして随分と知恵が回る。刃蜥蜴の王ブレードランナーロードは砂漠の特性を完璧に把握し、地の利を味方につけていた。


 また、刃蜥蜴の王ブレードランナーロードはほか二体の王級と違い、傍に四体の配下を侍らせている。この近衛の存在も大きい。見事なまでの連携の取れた動きに、防戦一方となってしまっている。


 アリアは虎視眈々と反撃の機会を窺ってはいるものの、巡ってくる好機を近衛にことごとく妨害されてしまう。王級側に主導権を握られ、彼女たちだけでの打開は厳しそうだ。


 アリアには刃蜥蜴の王ブレードランナーロードを速やかに屠ってもらい、ほかの王級とも戦ってもらわねばならない。それなのに開幕から足止めを喰らっていては困るな。


 放っておいても、アリアたちならそのうち打開策を閃くはず。もしくは痺れを切らしたラヴァルあたりが、危険を承知の上で特攻なりをしかけて道を拓くだろう。でもまだまだ後ろが控えているのだから、初っ端で怪我をされては後に支障がでかねない。出来る限り万全な状態で次に繋いでもらうためにも、早急に手を貸す必要がある。


 対してもう一方の、ジルベールが率いる部隊。こちらもまた、アリアたちに負けず劣らずの苦戦っぷり。というのも砂魔人の王(サンドマンロード)が巨体すぎるため、彼らの攻撃が腰元までしか届かないのだ。


 王級も通常種同様、砂の体のどこかに急所となるコアがあるはず。だが攻撃が届かない高さに隠されているのであれば、お手上げとなる。


 彼らに唯一狙える機会があるとすれば、砂魔人の王(サンドマンロード)が大きく拳を振り下ろした後の隙。攻撃を空ぶった直後は上半身が地面から近くなるため、攻撃が届くようになる。つまり危険を冒して攻撃を誘わなければ、上体を狙える機会そのものを得られない。


 仕方なくジルベールの部隊は、攻撃が届く範囲に攻撃を集中させる。しかし斬っても斬ってもまるで手応えがないらしく、彼らは悪戯に体力を消耗するだけであった。かといって攻撃をせずに包囲だけに留めていると、砂魔人の王(サンドマンロード)はそっぽを向いて他所に行こうとする。


 結果として彼らは、アリアが合流するまでの時間、砂魔人の王(サンドマンロード)を留めるためにもちょっかいを出し続けるおく必要があった。けれど砂魔人の王(サンドマンロード)の攻撃は大味ながら範囲が広く、回避には大きな動きを強いられてしまう。


 疲弊してくれば、いずれ取り返しのつかない過ちを犯す。時間稼ぎをしている間だけでも体力が持てばいいが、あの調子では雲行きが怪しい。王級を相手にしているという緊張感が、精神的な負荷になっているのだろう。


 倒す倒さないに関わらず、敵の意識を釘付けにするためには攻めの姿勢を崩せない。ただでさえ砂に足をとられ、軽快に動くのが困難な地。土の平地と比べ、体力の消耗が激しくなる。大人しくアリアの合流を待っていては、ジルベールの部隊に損害が出る恐れがあった。


『――ザザッ……キリ君っ!! 相手の足が速すぎて、ちょっと厳しいかな!? 援護求むぅー!』


「わかってるよ。あのトカゲども、随分と愉快にはしゃぎ回ってやがるみたいだな。俺がヤツの足を止めてやるから、ちょっと待っとけ」


 両者の戦況を把握し終えると、頃合よくアリアから通信が入った。通話の内容は概ね予想した通り。こちらで手を打つとだけ返答し、通信を切った。すると続けざまに、今度はジルベールから通信が入る。


『――ザッジジ……キリク君、私の声が聞こえているかね? 我々だけではサンドマンロードを御しきれない。君の助力が必要だ。……頼めるね?』


「わかりました。隊長さんたちは可能な範囲で、無理せず戦っていてください。こちらですぐに対処しますんで」


 わざわざアリアの合流を待つまでもない。というか、待っていられない。あちらも苦戦しているのだから、砂魔人の王(サンドマンロード)は俺が貰い受けるとする。戦果が雑魚だけじゃ物足りないからな。


 なにより、アリアたちの負担を少しでも減らしてやりたいという思いがあった。ジルベールは三体の王級全てをアリアに討伐させる腹積もりでいるが、いくら彼女が勇者だからってさすがに酷だ。


 アリアが今戦っている刃蜥蜴の王ブレードランナーロードを討伐するまでに、俺が砂魔人の王(サンドマンロード)を倒してしまえば、その分だけ負担を減らしてやれる。残る覇棘樹の王(サハラカクタスロード)は分散した戦力が揃ってから畳み掛ければ、楽に終われるはずだ。


「……やれやれ、やることが多くて大変だな」


「仕事が繁盛するのは結構じゃないか。それだけ君の力が頼りにされているんだ、励めよ少年!」


 本人は激励のつもりなのだろう。エコーからバンバンと背中を叩かれ、思わずむせ返る。もう少し力を加減してほしいね、まったく。


 文句をつけてやりたいが、当の本人はとっくに戦場へと意識を移していた。真剣な顔で弓を引く姿を見せられては、大人しく不満を引っ込めるしかない。


 エコーもリコッタも、与えられた役割を黙々とこなしている。せっせと働く彼らを、俺も見習わねば。


 ポーチからいつもお世話になっている石ころを取り出し、右手でぎゅっと握り締めた。

皆さま、今年一年ありがとうございました。来年もまたよろしくお願いいたいます。


書籍版『必中の投擲士』①②、絶賛発売中です!

手軽な電子書籍版もございますので、ご興味がある方は是非!

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ