ハーピィさんの走り幅とび
タッタッタっと軽快な音を立てて彼女はグラウンドを走る。日本人ではありえない緑味を帯びたブロンドの髪をなびかせ、彼女はまだ足跡の残る砂場へと向かって駆けていった。彼女を包むような旋風が見えたのも錯覚ではないだろう。
彼女は素足で走っていた。ここは砂地のグラウンドに関わらずだ。僕の知り合いにも裸足の方が走りやすいと言っている人もいたが、この様な陸上競技では靴を履くのがベターだろう。いや、寧ろ履かなければ何が落ちているかも分からないグラウンドを走るのは危険だし、もしかしたらガラスの破片で怪我をするかも知れない。だが、彼女の脚は僕たち『人間』の足とは少々違う、異質な脚をしていた。灰色の鱗に覆われた怪鳥の脚だ。この脚ならば例え、ガラス片を踏みしめても怪我はしないだろう。
「せいやっ!」
彼女はその異質な脚。人間とは違う、鳥類の様な脚で砂場に向かって跳ぶ。彼女はハーピィだ。海外の妖怪変化の一つ。モンスター。人面怪鳥。ハルピュイアとも呼ばれ人間の上半身と鳥の下半身、両腕の代わりに翼を有した亜人さん。彼女はその子孫であり、その身体は空を飛ぶ事に特化している。骨は鳥類の様に軽く空洞になっており、人型という空での生活に適さない身体を空に羽ばたかせる可能にする為の黄土色の大きな翼も持っている。身体は華奢だが、その脚は空を飛ぶ勢いを付ける為に強靭である。
鳥の足が地面を蹴り、バネのような力を発揮する。手の翼は使わなくとも人とは違う強靭な脚で生み出される跳躍力は凄まじい物であり、僕が付けた足跡を裕に跳び越し、何の足跡も残っていない綺麗な地面に着地する。
しかし、彼女の身体は勢いを殺しきれなかったのか、軽い身体のせいなのか、そのまま地面に突っ伏してしまう。受け身すらも取れずに顔を砂に突っ込んでしまった。思わず僕は顔をしかめる。石膏を流し込めば始祖鳥の化石が出来上がりそうなクレーターが出来上がりそうだった。
彼女はふがふがと起き上がろうと翼をはためかせる。しかし、彼女は飛行に特化した人外のハーピィである為、両腕が翼になっていて立ち上がるのに悪戦苦闘する。
ここからが、いつも通りの僕のお仕事。
砂だらけになる前に彼女を起き上がらせる、その為には脇に手を突っ込まないといけないので少々恥ずかしいが我慢する。立たせた後に翼についてしまった砂を手で払い落とす。髪の毛に付いた砂を手で拭うと彼女は少し嬉しそうに目を細めた。
「いっつもありがとね。ん、じゃあもう一回いっくよー!」
彼女は心からの笑顔を浮かべると助走の為に向こうへ駆けていく。跳ぶのと飛ぶのに違いはあれど、やっぱり彼女は楽しそうだ。その姿を見れる、それだけでも、僕がここにいる価値があるというものだ。
思い返せば、彼女がここに来てくれたのは僕に走り幅跳びを教えてくれるはずだったんだけど……。僕は苦笑しながら失礼にもこんな風に思ってしまった「彼女は、鳥頭なのだろうか……」って。
別に記念しなくてもいいような一作目です。これが今の全力。