序幕
「30分だけ。30分だけ、私の些細な夢、叶えさせてもらえますか? こんばんは。午前1時のシンデレラ、ステファニー・アームストロングです。今宵もどうぞお付き合いください」
「早いものでこのネットラジオ、『今宵、星降る時間』も今日7月1日でまる六ヶ月経ちました。最初はとても自分で自分をシンデレラと口にする事が恥ずかしくて仕方なかったのですが今では自称シンデレラとして名前売っています。素敵な王子様を探し求めて。ふふふ」
「えーそれはともかく。何よりこうして六ヶ月も続けて来られたのは本当に。ここ強く言いますね。ホン・トウにっ! リスナーの皆様のおかげです。毎回色々と応援メッセージを頂いたり、時にはお声を直接いただいたりと、私たちの方がたくさんの元気、勇気をいただいてきました。本当に感謝いたしております。これからも私、自称シンデレラのステファニーと番組制作スタッフの面々……と言ってもスタッフは私以外一人しかいないんですけどね、ふふ。そしてリスナーの皆様と一緒に、突っ走って行きたいと思いますのでこれからもどうぞ応援よろしくお願いします」
「さて、皆さん。月が変わりまして7月です。もう熱帯夜間近か! と言うような暑さが続いていますけれど、みなさんは夏って好きですか? それとも嫌いですか? よく夏と冬はどっちが好き? 暑いのと寒いのどっちが良い? なんて話をしたりしないですか? そんなとき私は決まって夏と答えます。寒さは着込めば耐えられるなんて言いますけれど私は寒いのが、ほ~んと苦手で、すぐ手足の指先が冷たくなって辛いんですね。あら、私の手を温めてくださりますか? どうもありがとうございます。ナイト様たちから一気にコメント来ましたー。ありがとうございます」
「それで夏の話に戻りますけど夏はやっぱりですねぇ、暑いとかそういうのは横に置いて、とにかく晴れた日の眩しすぎるくらいの日射しが好きなんです。私。気持ちもしゃんとするような爽快感と言うのでしょうか? そんな風に私は感じるんですね。名古屋の夏は特に蒸し暑いとよく言われますが住めば都。遠くにお住まいの方で名古屋の夏を知らない方、お見えになりますか? そんな方、よろしければ一度味わってみてはいかがでしょうか? まだ梅雨明けではありませんが、ちょうど今週末には私達の劇団、まほろば一座の第二十回公演もありますからね。お時間ある方はどうぞいらしてください。まだチケットあります! 間に合います! と、軽く宣伝を入れたところで今宵の一曲目と参りましょう。一曲目はですね、私の顔見知りのバンド。この場でも何度か紹介させてもらっていますSalty DOGさんの新曲です。今日この番組が音源初公開だそうです。宇宙初公開だと言っておいてくれと言われております。ジャケットにはですねぇ、このように、美しい満天の星空の写真となっております。流れ星は……見当たらないかな? ふふ。でもこの番組にもピッタリなジャケットですね。ではでは、Salty DOGの皆さーん、聞いてますか? 言いますよ? それでは、今日、2059年7月1日火曜日、最初の曲は、宇宙初公開となります! Salty DOGで、Night Train」
駆け出すように聴こえて来たのは軽く歪めたクランチ・サウンド・ギターによる16ビートカッティング。7小節の刻みが続くとそこへ硬く芯のあるベースと同時に4つ打ちアクセントのドラムで勢いがつき曲は一気に疾走感帯びたイントロダクションとなって明けた。そしてそのリズムサウンドをバックにきらびやかで伸びのあるギターのメロディが滑らかに入り躍動感を付け足す。全16小節のイントロダクション。
そして湿り気を帯びた艶やかな男の歌声が始まりを告げた――
逃げ出す様に去ることを望んだのは僕だけど
今までの時間放り出し 出て行くことを決めたくせに もう……
偽りない明日を探し見つけるためにと嘯く僕
心は側にあるからと呟いた僕を星たちは笑う
嗚呼、そうだね 全部
独りよがりの感情
これ愚かに
たしかに純情
嗚呼、戸惑い落ちて行く
あまつさえ遠ざかって行く 揺れることのない君の心
未だ見えぬ明日へ向かう 揺られているのは僕の心
輝く君に近づけば
誰かを蹴散らす勇気も萎えて
愛した事 置き去りにできず
みすぼらしく成り果て去る