一章 第二節
「つまりは小父様が次にこの街に来るまでの間、この子の面倒を見ろってことですか?」
そういって今はおとなしくテーブル脇の椅子にちょこんと座っている、先程初対面で言葉を交わす前に自分の女の象徴をいきなりもみしだくという前代未聞のとんでもない暴挙を行った少年をちらりと見ながら、クララは尋ねた。
ちなみにその少年はおとなしく椅子に座ってこそいるが、やたらキラキラした目で、宿の中のいろんなものに目を向けては宿の主人であるおじさんに、「おっさん、あれ何だ?」「じゃあ、あれは何だ?」としきりに質問をしていた。相手をしているおじさんがかなりもてあます程の勢いで。
大変そうだな~、と半ば現実逃避しかけたクララだったが、既に退路は断たれていたようだ。
「おう、そうだ。嬢ちゃんは話が早くて助かるぜ」
再び猛烈な引力のようなものが発生し、クララの意識は目の前に座る初老らしき大男に引き戻された。その顔に浮かぶのはなんとも言えない獰猛極まりない笑顔。そのあまりの迫力にクララの愛らしい顔は思わず引きつってしまう。
自分はこのまま食べられちゃうんじゃないだろうか? と普通なら考えもしないことを半ば本気で考えてしまうクララ。そんな非常に断りずらい雰囲気の目の前の男から、クララは今とんでもない頼み事をされているまっ最中。
(いまさらお断りします……とはいえないし。早まったかなぁ、私)
何だかなぁ、とクララは思うがそれでも彼女は怯まない。彼女は幸か不幸か、生まれついてからのこれまでのそれほど長くない人生で大変なことには慣れていたから。
彼女の生まれついた星がなせる事なのだろう。それとも彼女自身の魂が引き寄せた運命なのか。どちらにせよ後々振り返ってみるにクララ・アンセリシアという少女の人生は常に『苦労性』という言葉と不可分に結びついている。
そして、それが転がる石のように加速しだしたきっかけこそ、この男からのお願いである。後の彼女がもしこの時の彼女に何か伝えられるのなら、「今すぐ全力でお断りしなさい! 平穏に生きたいのなら!」と声を張り上げて叫ぶだろう。
しかしそんなことは起こるはずもなく、クララは突然目の前に差し出された形の超特大の飴と鞭に思わず、何でこんなことになっちゃったんだろう? と頭を抱えたくなった。
何とか頭を整理しようと今までの経緯を思い返すクララ。
――後に彼女は同じようにこの時のことを何度も振り返ることとなる。良くも悪くもあれが私の人生における最大の分かれ道だったと。
――――――――
「痛ってえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
冒険者の宿『竜の寝床』にはおさまり切らないほどの少年の大声が響く。そして頭を押さえるその少年に、先ほどからこちらも少年の大声に負けないほどの音量で大笑いしていた大男が声をかけた。
「おい、ヴァン。こっちこい」
「何だよぉ~、ジジィ~」
そうやってベソをかきながら大男に近づくヴァンと呼ばれた少年。そして――今度は大男のハンマーのようなげん骨が少年の頭へと容赦なく振り下ろされた。
「痛ってえぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ジジイ、何すんだよ! 痛えじゃねぇか!」
「ばっかもん! お前が突然その嬢ちゃんのおっぱいさわるような羨まし……もとい、馬鹿なことするからだろうが! そいつはやめろとこっちに来る前にちゃんと言い聞かせただろ、忘れたのか?」
「だって、男か女かおっぱいかちんこさわんねぇとわかんねぇじゃねぇかよ!」
「見りゃ分かるだろ、この馬鹿!」
そう言ってさらにもう一発鈍い音のするげん骨がヴァンの頭に直撃した。
今度は声も出せずに悶絶するヴァン。相当痛いのであろう、床にうつぶせになって頭を抱えてもだえている。それはそうだろう、見ていただけの自分まで痛くなってきそうなのだからと、クララが思わず頭に手をやってしまう程の勢いであった。
そうして聞いているだけで馬鹿らしくなっている会話を切り上げて男はクララへと小さく頭を下げながら言う。
「いや、申し訳ねぇ。うちのせがれが大変失礼した。……何ならあと何発かぶん殴っとくがどうする?」
「いえっ! なんかもう、充分罰をうけたみたいですので! 気にしてないです!」
思わず直立不動になって答えてしまうクララ。無理もない、今までの十五年の人生の中で見た事がないド迫力の大男によるげん骨二連発の場面は、彼女が今まで冒険者という危険な職業につく為必要なことを学ぶ学園の授業で見たり体験したりした、どんなことよりも痛そうに見えたのだから。
もし、自分があれをもらったら……、と考えて思わず意識が飛びそうになる。
そんな光景を目の当たりにすれば、いかに自分の胸をもみしだかれるという衝撃的な体験であっても、生来のお人よしである彼女にさらなる哀れな少年への追撃の指示など出来るはずもなかった。
「ま、それならいいんだけどよ。おう、ヴァン。お前もこの嬢ちゃんにきちんと謝っとけ」
男がそう言うや、今までうずくまっていた少年はすくっと立ち上がり元気にこう言った。
「え~と、何かよくわかんねぇけど、スマン! で、お前名前なんて言うんだ?」
「えっと、クララよ。クララ・アンセリシア。君は?」
「オレか? オレの名前はヴァンだ! よろしくな、クララ!」
そうやってようやく遅ればせながら自己紹介を交わす二人。その様子を見ながら後ろで満足げな笑みを浮かべる男が声をあげた。肉親だからであろう、その声には隠しようのない暖かさがあった。
「すまねぇな、嬢ちゃん。そいつはどうにも馬鹿な上に俺がほとんど男手一つで育てたせいでどうしようもない世間知らずでよ。まぁ、そういうわけで態度がでかいのは勘弁してやってくれ」
「ジジイ! 馬鹿っていうな! 馬鹿っていうやつが馬鹿だって先生も言ってたぞ!」
「そういう馬鹿な事言ってるうちは馬鹿だってことだ、クソガキ」
そう言われたヴァンは頬を大きく膨らませる。そんな姿に不覚にもクララはかわいいと思ってしまった。実家で今も健やかに育っているだろうあの四つ下の弟――実の姉の自分から見てもあまりに賢すぎて物分りが良過ぎる腹違いの弟とは違い、この子は逆に手がかかって仕方のない代わりに、クララはその子供らしい男の子らしさと元気を新鮮に感じた。それに男に謝罪されたヴァンの失礼とも取れる話し方だってクララにはちっとも不快ではなかった。この元気な目の前の男の子には変に借りてきような言葉使いこそ似合わない。そう思った。
だから、クララは笑顔を浮かべていたのだろう。その顔を男は見逃さなかった。
思わず男の顔に先程までとは違う笑顔が浮かぶ。そして唐突に切りだした。
「おう、嬢ちゃん。突然で悪いんだが、俺の頼みを聞いてくれねぇか?」
「は? 頼み、ですか?」
声に振り向いたクララの顔に浮かんでいたのはなんだろうという困惑。それに構わず男は一気に切り込んだ。
「そうだ。あんた見たところ冒険者の卵だよな。その服は確かあの『ひよっこ』どもが着てた服と同じだから間違いねぇ」
そう言われて自分の服をあらためて見るクララ。それは学園指定の明るい茶色のジャケットパンツであり、胸には学園のシンボルである盾の上で交差する剣と杖が描かれていた。確かにこれ以上の王立アルモニカ修練学院の生徒である身分証明はなかなか存在しない。
よく見てる、この人。素直に感心したと同時に、これが初対面なのに『ひよっこ』とはいささか失礼じゃないだろうか? とクララは思わざるを得なかった。確かに目の前のこの人はすっごく強そうだけど、いきなりそれはないんじゃないかしら? そう男の言葉に対する反感が口をついて出そうになるが、ぐっと耐える。
おそらく彼は引退した名のある冒険者か何かで、もしそうだとしたら確かに自分は『ひよっこ』なのかもしれない、そう思ったからだ。
それでも心にわずかに残ったとげが、クララの返答をいささか反抗的なものにした。
「はい、おじ様のおっしゃるとおり『ひよっこ』ですけど何か御用でも?」
その何気ない反抗心が選ばせた言葉は何故か男を笑顔にした。同時に隣で聞いていた宿の主の顔を蒼白へと変えていたが。時の止まった彼女のおじさんが言葉を吐き出す前に再び男の笑い声が響く。それも先程以上に面白そうに。その声がクララの癇に障った。思わず声を荒げる。
「何がおかしいんですか!」
「いや、すまねぇ。馬鹿にしたつもりはなかったんだ。謝る、この通りだ」
そうして膝に手をついて頭を深々と下げる男に、主は蒼白から逆に真っ赤になり、ヴァンは驚きの声をあげた。
「クララすげえな! オレ、ジジイが謝るの初めて見たかもしれねぇ!」
ヴァンの言葉で再び大きな声で笑いはじめた男に、クララは一体これはどういうことなのだろうと頭を傾げるばかりであった。
――――――――
それからしばらくして。
「で、何の話だったか」
「依頼がどうとか、おっしゃっていませんでしたか? 確か」
既になんだか疲れ果ててしまったクララの声は投げ槍だったが、
「そうだそうだ、冒険者の卵である嬢ちゃんを見込んで一つ頼みっつうか、お願いがある。もちろん冒険者へのお願いなんだから、こいつは正式にギルドを通して発行される『依頼』だな」
という男の『依頼』という言葉に、力が抜けていたクララの背中は思わずしゃきんと伸びた。
冒険者ギルドというものは、基本的に様々な人々の『依頼』を集め、それを冒険者に仲介する為に存在する。いわば口入屋である。持ち込まれる依頼はまさに千差万別。ちょっとした街の仕事のお手伝いから、伝説級の魔物の討伐までピンからキリまでという言葉では収まらないほどの幅の広さだ。そして『依頼』には当然『報酬』が発生する。それがこの場合での『依頼』という言葉の表す意味だ。
つまりこの目の前のやたら迫力がすごい大男の口から出たのは、クララに対するお願いとやらを、彼女を一人の冒険者として認めて正式に『依頼』すると言った事と同じなのだ。
「もちろん、これはあんたにやってもらいたいから指名料もきちんとのせさせてもらうからな」
思い出したかのような男の一言に身がこわばる。しかも、受ける相手を指名して出す『指名依頼』だなんて、とクララの体と心が震えだす。恐怖ではなく、喜びで。『指名依頼』とは文字通り、依頼人側が冒険者ギルドに依頼を出す時に依頼される側の冒険者を指名するものだ。実力のみがモノをいう冒険者達にとってこの『指名依頼』を受けるというのは、ものにもよるが冒険者自身の実力の証明であり、また一人前の証と言ってもいいだろう。
人一倍自立心と向上心が旺盛なクララには、それが何より自分が認められた証に見えた。『依頼』、それも『指名依頼』だなんて! とこの場で小躍りしたくなったが、同時に彼女の冷静な部分がその気持ちに待ったをかける。
色々とおかしなことが多すぎるのである。そもそも自分は冒険者登録自体は済ませているとはいえ、本質的にはまだ冒険者であるとは言えない。学園の授業には、ギルドに集まるごく教師引率の元での薬草の採集などといった簡単な依頼をグループでこなしたり、実際の迷宮とはどんなものかという事を示す為に迷宮に入る必要があるため、学園と冒険者ギルドとの話し合いによって学生達に仮にギルド資格を与えている部分があり、クララ自身もこの範囲から一歩も出ていない。
さらに『指名依頼』というのは、割高な指名料が発生する為にその内容は非常に難しいことを要求されるのが多いのだ。そもそも『指名依頼』を受けるような冒険者というものは、名声や実力、そして経験を兼ね備えたベテラン冒険者たちがほとんど。間違っても本来駆け出し以前の彼女にまわって来るべき話ではない。少なくてもクララはそんな話を聞いたことがなかった。
問題はそれだけではない。
「……あの。ご存じないのかも知れませんが、私のような学園在学中の冒険者はあくまでも仮の資格を持っているだけで、『依頼』を受けるには先生やギルドの偉い方の許可がいると思うんですが……」
仮免のようなものだから、クララが『依頼』を受けるには彼女の意思だけでなく、ギルド担当者、それもそれなりに責任のある誰かの許可と、何より彼女を預かる教師達の許可が要るのである。それが危険を伴うようなものならば、クララにはとても許可が出るとは思えなかった。
だがそんな彼女の懸念は目の前の男には通じなかった。まるでクララの心を読んだかのように言う。
「ああ、嬢ちゃんは何も心配する事はねえ。大変な仕事だが特に危険はないはずだ。ギルドや、あ~と、学園だっけか? に話を通すのはこの俺が責任を持ってやるから心配すんな」
何でもないことのように言う男の一言に驚いたのはクララだ。何で私の考えてることが分かるの? とパニックになりそうになるが、再び何とかこらえて、クララはついに核心へと迫ることにした。
「……それでその私への『依頼』っていうのは一体何なんですか?」
そう言って身構えるクララ。心の中の彼女は既にやけっぱち気味になっており、女は度胸よ、もうこうなりゃ何でも来なさい! と大声で叫んでいる。
そして男はにやりと笑って――今まで以上に獰猛な笑顔で、ついに『依頼』の内容を告げた。
「実はな。こいつに『常識』ってやつを教えてやって欲しいんだよ」
そのあまりの内容に、クララは自分の耳がおかしくなったかと思った。「ジョウシキを教える? それって一体ドウイウ意味?」と。
――――――――
「さっきも言ったと思うんだが、こいつはほとんど俺が男で一つで育てたガキでな。しかも育てた場所がとんでもない田舎なもんで、こいつには他人との交流って奴が今までほとんどなかったんだよ」
そういって男は隣に座って水を飲むヴァンの頭を撫でる。その手が顎鬚に伸びた所で男は続きを話し始める
「……まぁ自分でいうのも何だが、俺もがさつで決して常識のあるほうだとは言えねぇ。見ただろ? っていうか嬢ちゃんは被害にあってたな。あれはな、俺が昔ヴァンに男と女の見分け方を聞かれたときに教えたんだよ。「男ならちんこがついてるし、女ならおっぱいついてるから分かる」ってな。……結果はご覧のとおりだ。別に俺はさわって確かめろっていう意味で言ったんじゃねえんだが、ある時訪ねてきた知り合いにこいつ、嬢ちゃんにさっきやったことと同じことやりやがってなぁ。おらぁこのままじゃ心配で心配でおちおちくたばることを考えることさえできねぇ」
そういって今度はクララのつつましげな成長途上の胸をちらりと見てから、天を仰ぐ。
「かといって俺じゃあこいつに何を教えたらいいのかすら分からん。小難しいことを考えるのは苦手だし、そもそも何が世の中で必要な常識なのかが分かんねえ。そこで思いついたんだ。代わりに誰かに教えてもらえばいいじゃねえかと。それで久々に懐かしいこのアルモニカまで来たって出てきたって訳だ」
ようやく混乱していたクララの瞳に理性の灯が再び灯る。だが導き出されたのはさらなる困惑だった。
「えっと、つまり冒険者としての常識を教えろってことじゃなく、一般の人の常識をこの子に教えるって言う意味ですか? それなら何も初対面の私に頼まなくてもお知り合いの方とかでどなたかピッタリの方がいるんじゃないんですかね?」
「無理だな。俺の知り合いでまだしぶとくこの世にしがみついてる連中は全員が全員どっかぶっ飛んでやがるからな。それにな、嬢ちゃん」
クララの提案を否定してから、男は今度は真摯な目でクララの深い海の色をした目を見て言った。
「今までこいつには周りに俺以外の人間がほとんどいなかったんだ。少しは自分と同じくらいの歳のやつと仲良くさせてやりたいとは前から思っていたんだよ。それに、こんなどうしょうもない世間知らずに育てたのは俺なんだが、まぁこれでも可愛い倅でね。親の責任放棄と言われるかも知れんが、だからこそ俺は俺の目で選んだやつにこいつを預けたい。
……どうだい? 受けちゃもらえんだろうか」
そうやって再び小さく頭を下げる男。
だがそのことよりも男の言葉と、そして何より目にクララは心を打たれた。こんなこの上なく真剣で真摯な目を自分に向けてくれる人を、クララは今まで母と奥方様の二人しか知らなかったから。そしてこの目を向けられた彼女には、既に『断る』という選択肢が存在しなかったのである。
「分かりました、お受けします。でも、報酬ははずんでもらいますからね!」
そう言ってにこやかに笑うクララを見て、男は安堵の息を吐く。
「ふ~、こんなに何かを人にお願いしたのは、もしかしたら生まれて初めてじゃねえか? 緊張するもんだな、こいつは」
「どんな人生なんですか、小父様の人生って。まぁいいです、それで私はなにをすれば?」
「難しい事は何もねえ。基本的にはこいつの保護者代わりとして、出来る限りでいいからこいつの側にいてやって欲しい、それだけだ。それでこいつが馬鹿なこと言ったりやったりしたらその都度ちゃんと教えてやって欲しいんだよ。貴族の家にいるだろ? 教育係とかいうのがよ。アレみたいなもんだと思ってくれりゃいい。もちろんそんなお上品にやる事はねえ。言う事聞かなきゃさっきみたいにぶん殴ってくれればいいぜ」
そうして意識は冒頭へと戻る。
要するに元気な子供の子守をするってことよね、と自分を納得させるクララ。整理した話を振り返りそう思うことで幾分気が楽になった。そして最後に大事な話に水を向けた。
「で、小父様。おいくらですか? 報酬」
クララはそう切り出す。正直冒険者の仕事ではないのではないかと思わなくもないが、依頼人が正式にお金を出してくれるというのだ。それに遠慮する事は逆に相手への侮辱になることを彼女は知っていた。
そして言われた方の男もそのクララの言葉に満足げに頷くと、
「そうだな。一月辺り金貨十枚でいいか?」
と言った。
「え? 金貨十枚?」
「お、足りないか?」
「いやいやいや! 何いってるんですか? 小父様! 金貨一枚あれば普通の人が一年生活できるんですよ? それを月に十枚? 明らかにおかしいです!」
そういって最後まで驚かされたクララ。同時に思った。「この人にも私は常識を教えなくちゃいけないようだ」と。
それから隣で座る少年の顔をもう一度見た。
まだまだいかにも子供といった感じのするやんちゃそうな顔に、キラキラと光る黒い瞳が踊るその顔を見て、「大変そうだなぁ、こりゃ」と思う。それでも、がんばりますか! と自分に一声気合を入れてクララはヴァンに言った。
「ヴァン! これからよろしくね!」
「おう、クララ! よろしくな!」
こうして彼女の記念すべき冒険者人生最初の依頼は、『子守』となった。まさか後々までへばりつくようにこの『子守』というスタンスが自分の人生にくっついてまわることになるとは、この時のクララは夢にも思わなかった。
ちなみに報酬は、もらう側の減額交渉と与える側の増額交渉という異常事態を発生させた後、最終的に月二枚という金額で話がまとまったことを付け加えておこう。
こうしてヴァンとクララの新しい生活が始まった。そしてそれはクララを思いもよらない波乱万丈の人生へといざなう第一歩だった。
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