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6.ある2-A生徒の視点


設定;貴族はミドルネームを持ち。







シルドゼルグ総合技術学園戦闘科高等部2年A組所属のカタリナ・モモ・スライアは、過去に昨日程驚いた日など無いと断言できる。


王侯貴族の公爵家の、年が同じ御令嬢に使える事になったと知らされた時よりも。

国王陛下にお会いした時よりも。


昨日は、心臓がバクバクした。




+++




夏休み明け始業式の翌日。

担任のアリシス先生から、今日は新入生がこのクラスに二人も入る事になったと、朝のホームルームで言われた。

高等部に新入なんて珍しい。

カタリナはそう思いつつも、ピン、と伸ばした背を丸めたりはしない。

彼女の家であるスライア家は子爵家だ。

貴族の階級は上から

公爵

侯爵

伯爵

子爵

男爵

となっており、スライア子爵家は代々騎士の家系である。


「カタリナ、新入生って、どのような方だと思うかしら? 少なくとも、Aクラスに来るくらいなのだから、無能ではないわよね」


カタリナの横の席の女子生徒……カタリナの主であるセシリア・フォン・ヴィッセルが問うてきた。


「……戦闘しか能の無い者、という可能性もありますが」


「あら、それもそうね」


カタリナの言葉に、セシリアは優雅にふふふと笑った。


ガララララ……


と音を立てて入って来たのは、兄妹と思われる一組の生徒だった。

シルドゼルグでは見たことがない、漆黒の綺麗な髪と、澄んだ黒い瞳。対照的に肌は白く、コントラストを描いている。顔も整っている方だ。

カタリナは思わず、見とれてしまった。


兄と思われる男子の、あまりに隙の無い歩き方に。


幼い頃から騎士として育てられたカタリナには、それが良く解る。いつでも飛び出せる体重の掛け方だった。

多分、クラスの人間のほとんどは、その容姿に見とれていたのだろうが。


そこで少年の方が不快そうに顔を顰める。


不躾(ぶしつけ)な視線を向けすぎたかと思って、カタリナは目を背けた。


その後、彼ら……特に少年の方が素っ気ない自己紹介と呼べるのかどうかすら怪しい紹介をして、質問タイムになった。


「戦闘スタイルは?」


カタリナも一つ質問をしてみたが、その他大勢の質問に埋もれてしまったようだ。

しかし、彼女の主であるセシリアから、意外な質問が飛んで行った。


「想い人はいらっしゃいますか?」


その声は、良く通った。

それは彼女がクラス委員長や王侯貴族だったりする為だろうか。

しかし、新入生の二人……クロウとクロナが素早く返事をした事により、クラスは気まずくなる。


「クロ」


「お兄様です」


『………』


その後、色々と気まずい雰囲気になりはしたが、「何故倫理的にアウトなんです?」と妹さんが言い、二人で首を傾げている様子を見るに、カタリナは……というかクラス全員の心と考えが一つになった。


『この二人、子供の出来方とか知らないんだろうな……微笑ましいから手を出さず見守ろう』と。


これは数分後、クラスで暗黙の了解となる。

一人の空気読めない馬鹿男(アリオスト)を除いて。




「今学期の行事は、都市外合宿と学園祭だの二つだ。毎年恒例だが」


アリシス·クララベル先生のホームルームが再開し、行事についての説明がされる。

学園祭は毎年サプライズでイベントがあったりするから、今年は何をするのか、ほとんどの生徒は楽しみだ。


「今日は第一訓練所で模擬戦を行う。これから速やかに移動するように。アルト、リルラ、クロウとクロナを案内してやれ。以上」


先生はそう締めくくると教室を出て行った。


「ねえカタリナ、あなたはあの二人、どう思うかしら?」


「隙がありませんね、特にお兄さんの方が。妹さんもなかなかできそうですが、お兄さんの方はもう、染み付いてるんですよ。……戦場の空気というか、血の匂いが」


「そこまでですか。……あの少年の戦う所、早く見たいですわ」


ふふふ、と、セシリアは目を細めて笑った。




+++




「僕と手合わせしてくれないか?」


「あのアホめ」。

クラスのほぼ全員の内心である。

A組の生徒達には、さっきホームルームが終わってから暗黙の了解が出来た。


『あの兄妹には自分達から出来るだけ過度な干渉をしない。見守ろう』


と。

二人が持っている神秘的な空気や、クロウが醸し出す人見知りオーラを考慮した結果である。

しかし空気読めないアリオストが下心丸見えでからんで行ったのだ。まあ、アリオストが空気を読めないのはいつもの事であるが。


そして結局、彼ら二人の模擬戦を全員で見る事になったのだ。


「まあ、こんなに早く彼の戦闘を見れるなんて。あの無能(アリオスト)もたまには良い仕事をするではありませんか」


カタリナの隣で、彼女の主が楽しそうに笑う。


「そうですね」


カタリナも、あまり表には出さないが、クロウの戦いを見てみたい。

それは騎士として。

そして生徒として。

はやく彼の戦いが見たい。




しかし、それから始まったのは、戦い等というものではなかった。


「試合開始!!」


アリシス先生がそう言う。

次の瞬間、カタリナは驚愕する。


速い……


加速も何も無しに、初速で半端ではないスピードを出したクロウを、彼女はほとんど視認出来なかった。

次の瞬間、アリオストはスタート地点から大きく離れた場所で空に打ち上げられている。

しかし、それが理解出来たのはカタリナだからこそだ。

一応、カタリナはこのクラスでトップレベルの戦闘技術と経験を持っている。

他の生徒は、アリオストが落下して所でやっと二人を視界に入れた所なのだ。


クロウが詠唱と同時に、左手で魔法陣を描く。


生徒の誰かがそれに驚愕の声を上げるが、カタリナにはそれが耳に入らない。


クロウの手に現れる闇属性の長剣二本。

それを、彼はナイフでも振っている様に凄まじいスピードで乱舞する。


すごい。速い。剣速も、魔法の発現も。


洗煉されたようなクロウの動きに、カタリナはいつしか魅入っていた。

クロウがアリオストを蹴り飛ばし、更に詠唱を始める。

流れるような戦闘運びだ。

詠唱が終わり彼の周囲に十数本のナイフが現れる。

闇属性と雷属性の合成魔法だろう。

それをクロウは次々と撃ち込んでいく。

その目には何の躊躇(ちゅうちょ)も無い。


どうやったら、あんなに躊躇い無く、たかが模擬戦で人を痛め付けられるのだろう。

どんな生き方をしたら、16才(多分)の少年が、あんな熟練した動きを、まるで日常の一コマのような表情で戦闘を行えるのだろう。

そして、どれだけ剣を振り続ければ、あれ程洗煉された剣術を扱えるようになれるのだろう。

そのくせ、魔法技能まで高い。高過ぎる。



思わず口から笑みすらこぼれる。



カタリナは幼い頃からずっと剣を振って生きてきた。振らなかった日などない。

スライア家の英才教育によって実戦慣れもしている。

剣を振り始めてから二年後にはセシリア・フォン・ヴィッセルと出会い、以後友人で、主従であり、忠誠を誓っている。

今ではカタリナは、ヴィッセル家近衛騎士隊の副隊長だ。

だからこそ解る。

クロウの強さの異常性が。

いったいどれだけの才能と経験があればあれ程強くなれるのか、彼女には全く想像がつかなかった。


「カタリナ、楽しそうですわね?」


「ええ、とても」


隣のセシリアが彼女に話掛けて来るが、普通ならありえない程素っ気ない返事をしてしまう。

それにセシリアは少し拗ねたような表情になってしまうが、カタリナは気付かない。

それ程までに、クロウの戦闘を凝視していた。




+++




翌日の朝。

カタリナは日の出と共に起床し、軽く体を伸ばして制服に着替え、腰に長剣を二本差して訓練所へと向かう。素振りと魔法の鍛練の為に。

彼女は朝一番に訓練所へ向かう。それはそうだ。日の出直後から剣を振る学生などいるわけがない。セシリアはたいてい、カタリナが体を温め終わった頃にやって来る。


が。


訓練所に着いた彼女は、目を見開く事になる。




なぜならそこには。

初めて。

先客がいたから。


そして、彼女はつい昨日出来たばかりの暗黙の了解を、アリオストの次に破る事となる……




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