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4.初授業




結局あの後妙な空気のまま質問時間は終了し、クロウとクロナは廊下側の後ろの席に座っている。クロナの方が前、クロウが後ろで列の最後尾。そこにクロウは左手で頬杖をして座る。

クロナの隣は、金髪ショートヘアに大きな碧眼をした、活発そうな印象を受ける小柄な女子だった。

実際元気なようで、もう既にクロナと会話をしている。


楽しそうだな、クロ……


クロウはクロナが友人を作れるかどうか不安だった。今まで二人共ろくに人と接して来なかったためである。

しかし、クロウの前で顔に笑みを浮かべて会話をしている二人の様子からして杞憂なようだ。

しかしそれと同時に、クロナの横にすんなりと入り込んで来た少女に、クロウは少なくない不安を覚える。


こいつが薄情者だったらどうするか。

クロナを傷付けたらどうするか。


そして、今までずっとクロナと二人きりで生きてきたクロウにとって、ただの『異物』でしかないこの少女をどうするか。


「……邪魔になったら、殺せばいいか」


彼のその呟きは、誰の耳にも届く事はなかった。





今はクララベル教諭が新学期に関する説明や注意事項を説明しているのだが、今まで学校というものに通った事の無いクロウにはどのような話をしているのか全くもって理解できない。

勉強をした事が無い訳ではない。むしろアルトリア第二魔法研究所でかなりの魔法知識・理論を叩き込まれている。

アルトリアはシルドゼルグに比べ、日常生活用の魔法技術はあまり進んでいなかったが、戦闘用魔法技術なら、シルドゼルグの上を行っていた。

そして研究所で『兵器』として育て上げられたクロウもクロナも、魔法知識がほとんど戦闘用に偏っている。


目の前で自分以外の生物と仲良くしているクロナを見て腹の中に黒い感情を蠢くが、ソレをクロナに気付かれないように必死で抑えた。


戦闘中に心を乱したら、死ぬ。


そう叩き込まれていたため、心を殺す事にも、彼は慣れていた。


「あのー……」


クロウがどす黒い感情を抑えると、左横から控えめな声が掛かってきた。

クロウがそちらを首を動かさず目だけを向けると、小柄な男子生徒がいた。

薄い茶髪に同色の瞳で、背の低さも相まっておとなしくまるで弱気な小動物のようだ。


「……何?」


「ええと、僕はアルト・ミリグリア。よろしく、クロウ君」


「………」


アルトの自己紹介に、クロウは何の返答もしない。

する気にならない。いや、たとえその気があったとしても、どう答えるべきかなんてクロウには解らない。

アルトは気まずそうな表情をするが、やがて諦めたかのように前を向いてクララベル教諭の話に集中した。

とりあえず今学期の行事等の説明は終了したようで、今は本日の日程等を話している。

ちなみに、始業式は昨日の内に終わっていて、今日からは普通授業日程だ。

教育内容は、

初等部が基礎教養を学び。

学科ごとに別れる中等部からは一般教養と学科別専門科目が少し入り。

高等部にもなれば殆ど専門科目授業ばかりとなる。普通科除く。


「今日は第一訓練所で模擬戦を行う。これから速やかに移動するように。アルト、リルラ、クロウとクロナを案内してやれ。以上」


どうやらクララベル教諭の話は終わったようで、彼女はスタスタとポニーテールを靡かせながら教室を去って行く。

途端、喧騒に満ちる教室。


「お兄様」


クロナが椅子を反転させてクロウの方に体を向ける。


「一緒に行きましょう?」


「ん」


クロウが返答すると、彼女は嬉しそうに右手をクロウの左手に絡ませる。

いわゆる恋人繋ぎである。


「じゃあ、ボクが案内するよっ」


そこでクロナの隣の席の女子生徒……リルラが快活に案内を申し出た。


「はいっ。よろしくです、りーちゃん」


それにクロナは親しげに言葉を返す。

既に愛称で呼んですらいた。


「ええと、じゃあ、僕も一緒に行くよ」


アルトも参加した。


「………」


クロウは思う。

いきなり生活がやかましくなった……と。




+++




学園内にはコロセウム型の円形訓練所が三つある。大きいのが一つ。一回り小さいのが二つ。

大きいのが第一訓練所で、主に戦闘科高等部が使用する。

一回り小さい内の第二訓練所は戦闘科中等部が使用し、第三訓練所は多目的使用だ。

訓練所内には特殊結界が張り巡らされており、内部で身体的損傷を受ける事は無い。痛覚は普通に働くが。


「……ロストマジック(失われた魔法)の結界か」


訓練所に着くと、クロウはそう呟く。

ロストマジックは、過去に失伝し現在では使用されていない魔法で、まれに古代遺跡の魔石に封印されているものがあり、それをそのまま使用したものだ。

オーバーテクノロジーなため、現在の人間で扱える人間はいない。

魔石は魔力や魔法を保存する石で、モンスターの体内にある。


「へえ。クロウ君、結界見えるんだ……すごいね」


先程クロウが零した言葉に、アルトが驚いたようにそう言った。

魔力は詠唱したり魔法陣を用いてプログラムを組み、指向性を与える事で、魔法として様々な現象を発現させられる。

そのため、魔法を扱う為には魔力を感じる必要があるのだが、それは漠然とした感覚に過ぎず、まして魔力を「見る」なんてことはかなりの技術かセンスを必要とする。

しかしどちらにしろ、大規模な魔法でもないのに魔力を見るなど、学生のレベルではない。


魔法はその規模によって階位が決められている。


1階魔法ならマッチ程度の火や水を出し。

2階、3階と階が上がると、魔法陣なら大きく、複雑に。詠唱なら長く、繊細になっていき、威力や範囲が変化する。


一般人なら会得出来て2階、高くても3階。

学園の戦闘科、魔法技術科なら高くて7階。

熟練の騎士やハンターでも最高8階。

一生を魔法研究に費やした人間でも、9階を習得出来る者は恐ろしく少ない。


そして、魔力が視認できる程高密度になるのは第7階魔法からだ。

訓練所に張ってある結界は、魔石に保存されて地下で厳重管理をしているためか階位まではクロウでも解らないが、多分6階程度のものだろう。

ロストマジックは現代魔法よりも遥かに効率が良く、現代でなら第9階魔法の部類されるものでも、6階程度で使用出来たりする。だが例え現在第9階を使える人間がいたとしても、この複雑な魔法を使える人間もいない。

恐らくこの結界も、ロストマジックでなら第6階魔法なのだろう。


そして、さほど魔力の密度が高くない魔法で作った結界を見破った事から、クロウが高い技量を持っている事が伺える。

そのためアルトはクロウを称賛したのだ。




「君がクロウだね?」




突然そんな声を掛けられた。

クロウ達四人がそちらを見ると、優男っぽい男子が一人いた。


「僕と手合わせしてくれないか?」


これから模擬戦を行うのである。別にこの男子の言葉は何らおかしくはない。

だが。


チラリ。


そいつは一瞬、クロウの腕に絡み付いているクロナへ一瞬視線を向ける。


ささっ。


しかし視線がクロナに触れる前に、彼女はクロウの後ろに引っ込んだ。

目の前の男子はそんなクロナを見て微笑みを浮かべる。


クロウは目の前の男を排除したくなった。


背は高い。顔も悪くない。

しかしその瞳に浮かぶ、クロナへの好意が酷く気持ち悪い。

模擬戦で自分の良い所を見せようとしている下心が丸見えのその目が物凄く気持ち悪い。


「ああ、いいぞ」


クロウは戦闘の申し込みに応えた。

勿論、目の前の男を潰す為に。




+++




「では、二人一組になって模擬戦を行おう……と考えていたのだが、まずクロウとアリオストの戦闘を全員で見る事にする。新しくクラスの仲間になった奴の技量を知るといい」


クララベル教諭の言葉により、現在、訓練所にはクロウとアリオスト(さっきの優男)を残して、全員観客席にいた。


「だいじょーぶかな、クロナちゃんのおにーさん。アリオストくんの成績は平均的だけど」


「大丈夫です。むしろ怒っているお兄様と戦う彼に私は哀れみをすら覚えるのです」


観客席のリルラが言った台詞に、その隣のクロナが苦笑いを浮かべてそう言ったのがクロウに聞こえた。


「おにーさん、無表情で怒ってるよーには見えないよ?」


リルラが不思議そうに言うが、クロナはそれにクスクスと笑うだけで、何も言わない。

ちなみにアルトはリルラの隣にいる。どうやら彼はクロウを見て本能的にクロナの隣に座ったら危険かもしれないと感じたようだ。




その判断は間違っていなかったと、アルトは後に体を震わせながらそう語る。




「では二人共準備は良いな」


「ああ」


「ええ、いつでもどうぞ」




クロウはいつもと変わらぬ自然体で。

アリオストは彼の武器……マジックウェポンであるスタンダードな剣を構えて。




「試合開始!!」




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