15.未知との遭遇
スミマセン、タイトル全然良いの浮かばないです。
って何時もですけどね。
クロナはテントを作り終えた時にふと気付いた。
彼女の中のバケモノが酷く怯えている事に。
「まさか……お兄様、フェンリルまで出したです……?」
クロナは小さく呟く。
彼女の宿したモンスターはあまり強くない。
Dランクモンスターの下級悪魔だ。
その為、クロウがフェンリルを解放すると、そのあまりに強大な力の影響で、少しくらい離れていても、下位のレッサーデーモンなど怯えてしまうのだ。
ただ、久遠の森はかなり広大だが。
しかし、神種であるフェンリルを宿し、<ベルセルク>を使ったクロウからすれば、さほど遠くもないだろう。
「クロナさん、次は炊事ですわよ」
セシリアが言って来る。
「あ、はい」
それにクロナは返事を返すと、セシリアの元に駆け寄った。
+++
クロウは移動中にフェンリルを己の内に抑え込んだ。
今はもう、人間の姿である。
目は金から闇色へと戻り、狼のような耳や尻尾、手足と爪は溶けるように消え、人間のそれになる。
それと同時に<ベルセルク>も解いた。
フェンリルを解放して空気を踏まなければ、<ベルセルク>の最高スピードは出せない。地面が陥没して、上手く踏み込めないからだ。
「<エンフォース>」
代わりに、第1階の身体強化魔法を掛ける。
<ベルセルク>には遠く及ばないが、移動はこれだけで充分だ。
「きひひっ、これで、クロと一緒にいる許可貰えなかったら、あいつ殺す」
クロウが狂的な笑みを浮かべて言う。
『あいつ』とはもちろん、アリシス・クララベル教諭だ。
「きひひひひっ。というか、クロ以外、周りの生き物全部殺そ」
思いっきり八つ当たりだ。
「そもそも、クロと一緒にいるのに許可が要るというのが間違ってる。これ以上邪魔したら苦痛の海に沈めて殺してやる」
クロウの目から光が消える。
……元からあまり無かったが。
「きひひひひひひっ、いっそ、こんな世界壊した後、<アビスゲート>を改造して小世界造って、クロとずっと二人きりでにゃぁにゃぁしよう」
段々とやろうとする事が大きくなっていく。
「……でもそんな事したら、クロに嫌われるだろうし……」
クロナは『普通』の生活を、幸福を、安寧を望んでいるのだから。
<妹ヲ殺シテ貴様モ死ネバ良イ>
ちゃっかり、フェンリルが意見を言った。
<ソウスレバ、永久ニ一緒デアロウ?>
「黙れ負け犬。お前の意見など聞いてない。あと俺はクロと一緒に色んな事がしたいんだよ。旅とかにゃーにゃーとか」
ちなみクロウが言う『にゃーにゃー』とはじゃれ合いの事である。クロウの口から出ると半端ではない違和感があるが。
そこへ、Eランクモンスターのブレイドマンティスが、草むらから飛び掛かってくる。
ブレイドマンティスはニメートルはある、鋭い鎌を持ったカマキリだ。
カマキリが飛び掛かって鎌を振り下ろして来るが、クロウはカマキリの腕の関節部分を掴み、握り潰す。
「ギシェエァッ!」
さらに、もぎ取った鎌で、カマキリを真っ二つに切り裂いた。
クロナは虫が嫌いな為、<アビスゲート>で回収したりしない。クロウは鎌をぽいっと捨てると再び走り出す。
既に日が傾きかけており、もう少しで夕方になるだろう。だが、クロウはまだベースキャンプに帰らない。
この辺りで、食料になるモンスターを狩って持ち帰るつもりなのだ。
とそこで、クロウの耳に、何かの足音が入り込んで来る。だいぶ離れた所にいるのだろう。
足音の重さからして、Cランクはありそうだ。
クロウはそちらへ向けて走る。
そして見つけたのは、良く解らないモノだった。
四足歩行で、鈍重そうな体。甲殻は地龍並に堅そうである。
どこか、アルマジロ系モンスターに似ているかも知れない。甲殻のせいで刺々しいが。
しかしその背中から、木が一本、寄生するように生えていた。
そこから小ぶりなメロン程度の大きさの果実が一つ成っている。
「………」
クロウでも、こんなモンスター見た事が無い。
しかし。そんな事はどうでもよかった。
クロナは、果物が好きなのだ。
「……クロ、喜ぶかな?」
クロウはその顔に笑みを浮かべる。
先程まで浮かべていた狂的な笑みではなく、まるで褒められる事を想像した子供みたいに、無邪気な笑み。
クロウは跳ぶ。謎のモンスターの背中に向けて。
「モガー……?」
アルマジロ(仮名)が面倒くさそうに背中を見るが、けだるげに体をゆっさゆっさ揺らすだけで、それ以上は何もして来ない。
モンスターにしては大変珍しく、大人しいタイプなのだろう。
クロウはアルマジロの背中の木の果実に手を伸ばす。
アルマジロを殺したら、果実が傷付いたり割れたり血が付いたりするかもしれない為だ。
そして、クロウは果実をもぎ取り、あらかじめ用意していた<アビスゲート>の中に入れた。
瞬間、
「ブモォォォォォォォォオオア!?」
いきなり、アルマジロが暴れ出した。クロウは素早く反応し、跳んで逃げる。
何故いきなり怒り出したかは解らない。多分、果実を採られたせいだろうが。
ますます謎なモンスターである。
突進しようてしてくるアルマジロ。
しかし。
ずしゅ……
クロウは一足で距離を詰めアルマジロの目に手刀を突き刺した。
「ガ………」
脳まで貫かれ、絶命するアルマジロ。
クロウは大量の返り血を浴びるが、気にしない。
むしろクロナへのお土産が手に入った為上機嫌だ。血を浴びながら嬉しそうに笑っている。
死体を<アビスゲート>に入れて、ベースキャンプに向かって走る。もう帰るつもりだ。
もう彼の頭には、クロナに彼女の好物(果物)をあげる事しか無い。
途中何度もモンスターに遭遇した。
行きは膨大な威圧感を持つフェンリルを解放していた為あまり襲われなかったが、今はそうでない。
気配を殺して行ってもいいのだが、それだと暴れ足りないのだ。
「クロ、喜んでくれるかな?」
モンスターに遭遇する度、それを素手で瞬殺して行く。
クロウはどんどん返り血を浴びるが、気にしない。
帰ったらクロナの水魔法で流してもらえばいいのだから。
帰り道のクロウは、行きとは逆に、かなり嬉しげであった。