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14.叫ぶ地龍

地龍:アースドラゴン

残酷な描写あり。




ドゴン!!


そこは森の深奥部。

樹木の一本一本が巨大で、久遠の時を生きてきたような風格がある。樹齢など計り知れない。直径十メートルはありそうだ。


……ミシッ……


秋になりかけているこの季節ですら葉を散らさないその樹に、どれ程の生命力があるのか。調べる方が野暮というものだろう。


ベキッ……


この付近は地龍(アースドラゴン)の巣になっていて、一部分だけ開けている。

強大な龍すらも子供のように見守るその木々には、自然界の老王の如き威厳すら……


ベキッ、ベキベキベキベキ!


威厳、すら……


ベキベキベキベキベキメキメキメキャ!!




どごーん……




そんな、自然の老王のような威厳すら、クロウの前では、ただの空気でしかない。


拳一発で倒木と化した。


「ピギャャャャャァァァアアア!!」


そして、巣の一部を破壊され、怒り狂う一匹の龍。


緑褐色の分厚い甲殻を持ち、首から尻尾の先まで十数メートルはある巨躯。

強靭な後ろ脚と、翼膜に似た翼を持つ前脚は、飛ぶ事よりも走る事に秀でているが飛べない訳ではない。

頭は鼻先に向けて鋭角的に尖り、突進を行ったら凄まじい事になるだろう。

尻尾の先の甲殻は刺々しく、振り回しを喰らったら体が千切れそうだ。


これが、Bランクモンスター、地龍(アースドラゴン)


もし出くわしたら? とクララベル教諭に聞いたら、彼女はこう答えるだろう。

「諦めろ。何をしても無駄だ」と。


しかしクロウは、人間ならそれだけで身が凍る地龍(アースドラゴン)の咆哮を聞いても、全く臆さない。

それはそうだ。

彼は毎日毎日毎日毎日、Bランクごとき(・・・)足元に及ばないバケモノの声を聞いているのだから。


「きひひひひっ。憎め。恨め。泣け。叫べ。俺と同じ苦痛を味あわせながらゆっくりと殺してやるから」


呵呵(カカ)呵呵禍禍呵呵ッ!>


クロウは自分の中でフェンリルが狂喜するのを感じる。

シルドゼルグに来てからもう一年近く、彼はフェンリルを解放してないのだ。

それにフェンリルは、『束縛』を酷く嫌う。


「グルルルルルルルルルル……」


アースドラゴンは襲い掛かって来ない。

なぜなら、足元には、一匹の幼龍がいるのだ。

生まれてまだ間もないのであろう数10センチしかない体で、クロウを見て怯えている。

地龍(アースドラゴン)は子供を守る為に、自分から攻める事は出来ない。(つがい)はエサでも採りに行ったのだろう。


「<我望むは黒き(イカズチ)

 <幾多の刃は雨の如く>

 <纏いし黒雷は万物を蝕む>

 <()は貫く音すらも>

 <アサルトナイフ>」


クロウの周囲に、黒雷を纏った幾多のナイフが現れ浮遊する。

以前アリオスト相手に使ったのと同じ魔法だが、込められた魔力のケタが違う。


威力も、数も、比べものにならない。


そして切っ先は、

幼い龍に向いていた。


「俺は龍が大っっっ嫌いでね」


数10ものナイフが、幼龍へと襲い掛かり、それを親龍が瞬時に第5階土魔法<ストーンウォール>で作った岩壁を幼龍の前に展開し防ごうとする。

しかし、それもほんの数秒だけだった。

岩壁はすぐに崩壊し、さらに大量のナイフが飛んで行く。

それを親龍が前脚で防ぐが、それでも防御力不足。

闇魔法の特徴は『侵蝕性』。それは魔法も魔力も……生物の体すらも蝕むのだ。

しかもクロウの<アサルトナイフ>は闇と雷の合成魔法。威力は半端なく高い。


やがて、本来第8階魔法でやっとダメージを与えられるはずの地龍(アースドラゴン)の甲殻はボロボロになっていき、一本のナイフが、幼龍の翼膜に刺さる。


「ピギィ!?」


バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!!


と、刺さったナイフから、黒い雷が放電した。


「ピギャャアア!?」


幼龍が悲鳴を上げる。クロウはそこで<アサルトナイフ>を飛ばすのを止めた。

しかし、幼龍に刺したナイフの放電は止めない。

親龍が憤激の叫び声を上げる。


「さあ……もっと泣けトカゲ共。俺の憎悪は、憤怒は、苦痛は、そんなものじゃない」


「ピギャャャァァァアアアア!!」


今、クロウの機嫌は悪い。

人間が苦手なのに学園に通ってる事も、クロナといられる時間が減ったのも。


そして、せっかくクロナが『一緒にいよう』と言ってくれたのに、それを許可しないクララベル教諭にも。


クロウは、眼前のアースドラゴンを、痛め付ける気満々だ。八つ当たりだが。


親龍が魔法陣を展開する。

かなり早い。そして複雑で巨大だ。

第9階魔法<サウザンドニードル>。

クロウの周りの地面から、大きな岩の針が突き出してくる。

一本や二本ではない。

サウザンド……文字通り全部出し切れば千に届く。

それを、クロウは軽く跳んで避ける。

軽く……今だ<ベルセルク>を解いていない上にフェンリルを解放しているせいで、数10メートルは飛ぶが。

ベキャァと派手な音を立てて脚が壊れるが、それがすぐに再生される。

だがそこへ、更なる針が伸びて来た。


クロウは空気を踏んでまた横に跳ぶ。


フェンリルを解放すると、大気すら踏みしめる事ができる。。


「<(イクリプス)>」


避けながらも魔法陣を描き、<(イクリプス)>を発動させた。

魔法陣から真っ黒な狼が現れ、<サウザンドニードル>の魔法陣に向けて走る。食らい付くように突っ込むと、魔法陣は一瞬にして黒く染まり、霧散。針の放出も止まった。

そして、クロウも走る。一歩動かす度に脚が千切れそうな痛みが彼を襲うが、クロウがこの程度(・・・・)の痛みで止まる事はない。

一瞬にして地龍(アースドラゴン)(ふところ)に入ると、クロウは爪で龍の肩を掻き切った。


「ピギャャャャァァァァァァァァ!?」


すると、親龍の分厚い甲殻に覆われた肩から腕がもげ、大量の鮮血が周りに飛び散る。


神種であるフェンリルの爪で裂かれたのだ。Bランクごときに防げるはずがない。


「ピ……ギッ……」


そして、親龍の足元の幼龍は、<アサルトナイフ>のせいで既に虫の息だった。


「きひひひひひひひっ……大切なら、しっかり守りやがれ」


クロウは片腕を失い硬直した親龍の足元から、幼龍を引きずり奪う。

幼龍は抵抗しようとするが、クロウが首を少し(・・)強く掴むと途端に動けなくなった。

そして、親龍から離れる際に、無詠唱で二本の<アサルトナイフ>を作り、その内一本を突き立てた。


「ギギギガガァァァァアア!?」


そして、親龍から距離をとると、幼龍にもう一本の<アサルトナイフ>を突き刺す。

二本のナイフが刺さった事で、放電がいっそう強くなった。


幼龍はもう叫び声すら上げられない。


それを見た親龍が怒りに走り出そうとするが、片足に刺さったナイフのせいで激痛に襲われ、バランスを崩す。


「きひひひひっ……不様だな。守りたいんだろ? 助けたいんだろ? お前の子供を」


クロウは親龍に嘲笑を向ける。


「それとも……お前の覚悟はその程度なのか?」


「ピッ……ギャャャャャャャャャャャャャャァァァァァァァァ!!」


クロウはその身にフェンリルを宿している為、モンスターに声が届く。

クロウの言葉を聞いた瞬間、親龍が叫び、走り出そうとした所で、


「まあ、弱い奴に、何かを守る資格なんてねえよ」


そう言って、クロウは幼龍の頭を掴み、




グチャリ……




潰した。




「………………ギ……?」


アースドラゴンが目を見開く。


「……ピ……ギ……ッ……?」


「きひひひひっ。悔しいか?」


「ピ……ギ……ィ……ッ!」


「きひひひひひひっ。憎めばいい。恨めばいい。叫べばいい。暴れればいい」


「ピギィッ……!!」


「きひひひひ! だがまず最初に、

 弱い自分を恨みやがれザコ」


「ピギィャャャャャャャャャャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


クロウの言葉に、アースドラゴンが叫ぶ。

そして、突進してくる。

それは、アースドラゴンの最強の攻撃手段だ。


「おいおい、さっきは子供奪われても痛みに負けて走れなかったくせに、怒りに我を忘れたら走れるのか? 所詮、お前の子供への思いなんてその程度だったのか?」


アースドラゴンが我を忘れたのは、クロウに子供を潰された後、彼から馬鹿にされた時だ。しかし、子供を奪われた時は、そこまで怒り狂わなかった。


「大切なら、そいつの全てを背負う覚悟をしろよ。何を犠牲にしてでも、自分を犠牲にしてでも、守り通しやがれ」


クロウは動かない。


「……まあ、ザコに言った所で意味無いよな」


その身にアースドラゴンが迫り来る。


すぐ目の前に、龍の、ジャベリンのように鋭い鼻が迫る。


それを、クロウは片手で掴む。


「……ピ……」


アースドラゴンの、ついさっきまで狂的な怒りを浮かべてうた目が、今度は凄絶な恐怖に染まる。


ベキッ


クロウが龍の鼻をもぎ取った。


「ピィィギィィィィィィィィィ!?」


「うるさいな」


さらに、クロウはアースドラゴンの喉をけり潰す。

潰してから、軽く跳んで、まだくっついている片前脚を切り裂く。


更に、


切る。

裂く。


「きひひひひひひひひひ!」


千切る。

潰す。

壊す。


「きひひひひひひひひひひひひっ!!」


砕く。


「ギ……ギ……………------- 」


「って、死ぬの早えよ」


アースドラゴンはもう、呼吸すらしない。


「<我望むは深淵への扉>

 <音も光も時すらも>

 <其の中には存在しない>

 <この世にあらざる世界を紡ぎ>

 <永闇(とこやみ)の虚空を此方(こなた)に呼ばん>

 <死者しか通れぬその門を>

 <神すらも冒涜し>

 <(ことわり)を曲げて我は開こう>

 <アビスゲート>」


第9階闇魔法<アビスゲート>。

それは無生物と死体を収納する四次元空間の作成及び開門だ。


アースドラゴンの死体が横たわる地面が、まるで真っ黒な沼地のように変化し、その吸い込まれそうな程に深い闇から、圧縮された黒い魔力が障気の如く立ち込めた。


ズズズズズ……


と、引きずるような似た音を立てて、巨大なアースドラゴンの体が闇へと飲み込まれる。


「さて、早くクロの所に戻ろう」


クロウは跳ぶ。


後には、ボロボロになったアースドラゴンの巣の残骸が残った。




クロウの本気はまだまだこんなものではありません。

彼の本気が見たければ、異世界からチート勇者を召喚するか神種を呼ぶかしかないです。


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