1.Prologue
月も星も出ていない暗い夜。
病院の様な姿をしたその建物の中に満ちているのは、重く、全てを押し潰そうとしていかのような闇と――
――無理矢理鼻へと入って来る、生温かくて湿った、鉄サビに似た鮮血の臭いだ。
その闇の中を、病人服のような物を着ている14か15歳程の少年が、全身を黒ずんだ赤色に染めながら歩いていた。
少年に傷痕が無い事と、その手に持っている二本の真っ黒な長剣から滴り落ちる赤い液から、彼が纏う『赤色』が全て返り血であると解る。
瞳に暗い感情を湛えた、異常な少年。
そしてその後ろから、少年と良く似た少女がついて来ていた。
彼らは暗い廊下を歩く。
やがて彼らは『中央分析室』と書かれた金属製の扉の前に立つと、少年片手に一本ずつ持った二本の漆黒の長剣を軽い動作でヒョイっと振るう。
およそ子供には扱えないような長さをもっているその長剣は、しかしいつの間にか振り切られていた。
そして、刹那の間を開けた後、金属製の重厚な扉が、何をどうやったのか、粉微塵になる。
室内は光属性の魔法を込めた魔石によって煌々と光が満ちていて、それが流水のように廊下へ溢れ出した。
室内には6人の白衣を着たニンゲンがいて、扉が粉微塵になった事に驚愕しながら振り向き少年の存在に気付くと、彼らは一瞬その顔を恐怖に歪ませたが次の瞬間皆一様に、何百回も切り裂かれたかのような原形を留めない肉塊と化した。
ソレを行ったであろう少年はいつの間にか部屋の奥にいて、表情を微塵も崩す事なくその部屋を出る。
「クロ」
部屋を出た少年は、待っていた少女にそう呼びかけ手を差し延べる。
先程まで握っていた長剣は霧のように消えていた。
「………」
少女は何の躊躇いもなく少年の手を握り、それを確認した少年は再び歩き始める。
ピチャ…
と床に広がる血の海の上を歩くその体には、乾きかけて褐色に変化した血の上に、また新しい真紅の血が乗っていた。
それはもう、赤くない所がないのではないかというくらいに……
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界歴1215年。
世界から『都市国家アルトリア』が姿を消した。
お読みいただきありがとうございます。
作者は豆腐メンタルなり