Sync(3)
精液の通学路、デンドロカカリヤの種を蒔こう。
雨はマルキストのよそおいで
濡れた小熊のおみあしに
そっと括りつけておき
あしあとはふかい森に
葉を匿おうとした。
文字たちは
水べにあふれ
河を埋めつくした
うねる文字列を
小瓶につめて
躍る羽根ペンの先にのせて
空売りレターをとばそう。
ゆれる穂をつぶす
渇いた拡声器のように。
そのときのラジオは
達郎が
空をとぶ微粒子の名をよんだ。
海べにはジョナサンが
丘にはアリサが
くぐれる扉をたたくと
ルーベンスと名乗る
したり顔のルーデンスがいる。
事実。そう。
口ずさむスティング、
詰めるカナ、肌にナード。
どこにいる。
ダールに飼い馴らされた
六百族の、ときおり口を揃えては
ロールズとセンをよぶ
阿修羅は。
はたして言魂は
うまれいでて排泄して
ベイズ遂行された。
それはおよそ透けるナッシュ解。
ミッドタウンの夜景にゆれる
アドバースセレクションのカクテル。
水溶性の文字たちが
饐えた臭いに化かされていく
ああ、夜が更け
顎は下へとほとばしる。
ほら種は
汚泥の通学路、
眼球騨の栞。
逢瀬のあとのページをつなぐ
たとえば乾いていたとしても。
注:
デンドロカカリヤ…安部公房『水中都市・デンドロカカリヤ』新潮文庫より。
達郎…山下達郎。歌手。
空をとぶ粒子…山下達郎の曲「アトムの子」。
ジョナサン…リチャード・バック『かもめのジョナサン』新潮文庫より。
アリサ…ジッドの『狭き門』の登場人物。
ルーデンス…ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』中公文庫より。「遊ぶヒト(種)」の意。
ルーベンス…バロック期を代表する画家。
スティング…歌手。「イングリッシュマンインニューヨーク」はPVともども有名。
カナ…西野カナ。歌手。
ダール…米の政治学者。権力についての考察はしばしば引用される。
六百属…ポケットモンスターの個体値。第七世代にはサザンドラ(悪/ドラゴン)という三つ首のモンスターがいる。
ナード…ナードコア。曲のジャンルとしてハードコアとの対比で用いられる。
セン…アマルティア・セン。厚生経済学や規範哲学を主に扱う経済学者。ノーベル経済学賞の受賞経験がある。
ベイズ遂行…社会選択理論での用語。
ナッシュ解…ゲーム理論の用語の1.
ミッドタウン…六本木にあるミッドタウンのこと。
アドバースセレクション…契約理論の用語の1。
眼球譚…ジョルジュバタイユ『眼球譚』河出書房より。
※従前は,「無題の毒メント」として投稿していたもの。