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glitter  作者: 高野薫
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嵐の前の静けさ

「でもさぁ、二日連続で追い出されるなんて、さすがに言った方が良いよ?」


3本目の缶を開けると、私は眉間にしわを寄せながら一口飲んだ。

お皿に山盛りだったキムチ炒めはほぼ空っぽで、その半分以上を食べたのは私。

ピリ辛キムチとチーズにお酒がよく合って、結局止められなかったのだ。


「今さら、奈菜には何を言っても聞かないだろ。別に俺は構わないし。」


ラブソファの上であぐらをかき、片手でビールの缶を開ける有斗。

整った顔と王子様な雰囲気におやじみたいな仕草が、全然合ってなくて笑える。

うっかり緩みそうになる口元を引き締めて、チューハイを一口飲んだ。


って、ちょっと待って。俺は構わないって…

・・・私は構うんですけど?


親友の弟とはいえ、男の子が入り浸ってるなんて彼氏が出来なくなる一方じゃん。

いやいや。それだけは、何としてでも阻止しないと。


「でも、有斗だって自分の部屋でゆっくり過ごしたいでしょ?」


ずいっと、身を乗り出してラブソファの足元へ滑り寄る。

少し動いただけで再び酔いが回り始めた体は、全部が心臓になったみたいに弾み始めた。

それに、舌も少し重くて話すのが億劫に感じる。


「それに彼女が出来たら困るじゃん?奈菜が自由に入り浸れるなんて。」


私としては精一杯、説得しているつもりだけど、酔っ払ってると真剣味に欠ける。

妙に舌っ足らずになってるし…

だからか、有斗の反応も全く聞く耳持たずって感じだ。

感情を見せないポーカーフェイスで、キムチ炒めを口にしながらビールを飲んでいる。


「・・・別に。」


なんて、あっさり切り捨てられちゃったし。

今度ばかりは私が、おもーいため息を吐く番だった。


「何でため息?」


微かに、微かにだけど、きょとんとした表情で有斗がこちらを見下ろしている。


そんな、さっぱり訳がわかりませんって顔されても・・・


全く話にならない有斗を恨めしく見上げた。

ものすごく彼氏が欲しいわけじゃないけど、もし好きな人が出来た時に有斗が入り浸ってるんじゃ話に成らないじゃない。

勘違いされても困るし、有斗が理由で上手くいかないっていうのも嫌だし。


「うぅー。」


どこにもぶつけられないモヤモヤが頭の中を渦まいている。

これは、もう飲むしかない。飲まなきゃやってられない。


そう思うが早いか、手に持っていた缶を一気に飲み干して、新しい缶に手を伸ばす。

より一層早さを増す鼓動とふわふわした感覚の中、やっとの思いで缶を開けて一口飲んだ。

ほのかに甘い、桃味のカクテル。


「はぁー。」


アルコールが回っていく感覚に思わずため息が漏れる。

さっきから擬音語しか発していない気がするけど、舌が上手く動かないんだから仕方ない。

それに身体も重くて、真っ直ぐ座っているのさえダルい・・・


もう飲むことさえ諦めて、開けたばかりの缶をテーブルに置いた。

頬も手の平も爪先も熱くて重たいし、頭の中は靄がかかった様にはっきりしない。

ちょうどいい高さにあるラブソファに手をかけると、そのまま突っ伏してしまった。


もうこのまま眠りたい、あと少しで夢の中・・・という所で、ぐいっと腕を引っ張られて上体を起こされた。

それでも睡魔の方が圧倒的に強くて、また意識が遠のいていく。


「ほら、ちゃんとベッドで寝ろよ。」


遠くで有斗の声とため息が聞こえた。

ふわりと身体が浮かび、ふかふかの布団に包まれる。

消えかかる意識の中、そっと唇に温もりを感じた・・・



次の朝、喉がカラカラに渇いて目が覚めた。思いっきり伸びをして、デジタル時計を見ると、まだ朝の8時。

あんなに酔っ払っても、滅多に二日酔いにならない体質に心の底から感謝だ。


ベッドから起き上がって、ラブソファを見ると、有斗はまだ眠っていた。

長い手足がブランケットからもソファからもはみ出ている。10月後半ともなると朝は冷えるし、ましてやブランケット一枚。

なんだか申し訳なくなって、さっきまで被っていた布団をそっと着せた。

息が苦しくならないように顔から布団を下げる。


「・・・俺を襲う気?」


くぐもった声が聞こえて、思わず布団から手を離した。

不意を突かれて高まる鼓動。一気に熱を持つ頬。


こんなの朝から質が悪い。


「なっんで弟を襲わなきゃいけないの!」


ばしっと思いっきり布団の上から叩いて、バスルームへ早足で退散する。


「いや、弟じゃ・・・」


背後で呟く有斗の声はドアを閉じる音で最後まで聞こえなかった。

顔を上げると、正面にある鏡に真っ赤になった自分が映っている。


何で有斗なんかにドキドキさせられなきゃいけないの。


そんな自分に半分苛立ちを覚えつつ、部屋着を脱いで浴室へ入った。

お湯を熱めに設定して、一気に頭から浴びた。


あっという間にバスルームは湯気に包まれ、泡立てたシャンプーの香りが広がる。

お気に入りのシトラスの香りに包まれて、すぅっと気持ちが落ち着いていく。

髪を洗っている時って、ただひたすら無心になれてリラックスできる癒しの時間。


それにしても、有斗の口から「襲う」なんて言葉が出るとは思わなかった。

そりゃ有斗だって男の子だし、そういうことの経験や興味だって人並みにあるだろうけど。

でも中学から知ってるし、そんな話はしたことなかったから・・・


まったく、突然あんなことを言い出すなんて、飲みすぎで頭が変になってるんじゃないの?!


膨らみ始めたイライラをシャンプーと洗い流して、トリートメントを毛先から揉み込んでいく。

変といえば、昨日は変な夢を見た。

誰なのかもわからない黒いシルエットに優しくキスされたんだけど・・・

優しく触れるだけのキスなのに、ふと苦い香りがした気がする。

何の香りなのかまではわからなかったけれど。


たぶん、眠る直前まで彼氏とか好きな人が出来たらって考えていたせいかもしれない。

それにしてもキスされる夢を見るなんて、欲求不満みたいで恥ずかしすぎる。

間違っても奈菜にだけは言わないでおこう。。。


身体をシャワージェルで簡単に洗ってからトリートメントを流し、するすると滑る様な感触になった髪をタオル地のシュシュでまとめる。


バスルームから出ると、有斗はラブソファの上でコーヒーを飲んでいた。

一瞬、有斗の部屋かと勘違いしそうになる自分が悲しい。

ここは私の部屋で、有斗が飲んでいるコーヒーもコーヒーが入ったマグも私のものなのに。

タオルで髪を拭きながら、背後から有斗が持っているマグを覗くと、カフェオレのいい匂いがした。


「二日酔いなんでしょ、有斗。」


「別に・・・」


無愛想な声で反論する有斗だけど、私にはお見通し。

いつもコーヒーはブラックしか飲まないのに、二日酔いの時だけはミルクと砂糖の入ったカフェオレを飲みたがる。

背も高くなって、クールで大人ぶってても、そういうとこは子供っぽい。


「そう?」


ちょっと茶化すように笑って有斗の横顔を覗き込むと、ふいっと目も合わせずそっぽを向かれた。

ありゃ、本当に機嫌が悪いみたいだ。

いつも私の方が遅く起きるから知らなかったけれど、もしかしたら有斗って寝起きが悪いのかもしれない。

復活するまでそっとしておこう。触らぬ神に祟りなし、だもん。


タオルを肩にかけて、キッチンで自分用の紅茶を淹れた。

ふんわり漂うアールグレイの香り。

その場で立ったまま一口飲むと、ため息が漏れる。

やっぱり朝は濃い目のストレートティーが一番だ。目も覚めるし、しゃきっとする。


もう一口飲んでから部屋へ戻り、お気に入りのポジションへ腰を下ろした。

マグカップをテーブルに置くと両手を上げて伸びをする。


「うぅーーーー。」


伸びをする時って自然と目を閉じてるから不思議。


「はぁ。」


小さなため息が聞こえて目を開けると、有斗がこっちを見ていた。

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