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glitter  作者: 高野薫
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小悪魔な彼

バタン、とメニューを閉じて甲斐くんを睨む有斗。

そんな様子をおもしろそうに眺めている甲斐くん。

そして私はというと、そんな二人の様子は無視することにして、何をオーダーするか真剣に悩んでいた。


「衣里さん、でしたっけ?かわいいですね。彼氏はいるんですか?」


甲斐くんは何気なく、オーダーした覚えのないカシスオレンジを差し出している。しかも、あのキラキラ笑顔で。


何で私の好みがわかるの…!


そう思いつつ、グラスを受け取る私。こんな風に持て成されるのって悪くないかも。。

特にこんなかわいい年下の男の子なら。


「今のところ探し中、かな。甲斐くんはどうなの?そんな感じだとモテるでしょ?!」


「いやー、そう簡単には見つからないですよ。」


「甲斐、俺は生中ジョッキで。」


唐突に、私と甲斐くんの会話とぎるように割り込んでくる有斗。

それでも甲斐くんは軽く受け流すようにオーダーをメモして微笑んでいる。


「衣里さんはカシスオレンジでいいですか?」


その言葉に笑顔で微笑むと、甲斐くんは一礼して消えていった。

間もなく別のスタッフがやってきて、有斗のオーダーしたビールとつきだしのゴマ和えを置いていった。

明らかにカシスオレンジには合わないゴマ和えを一口食べる。

合わなくても、おいしいものはおいしいから気にしないけれど。


「いつもあんな感じなの?」


さっきの有斗と甲斐くんのやり取りを思い出して尋ねた。

既にジョッキの半分を飲み干している有斗。


まったく、未成年なのにお酒強いってどうなの?

私だって弱くはないけど、有斗のペースに合わせてるとすぐに酔っ払ってしまう。


「甲斐?あいつは昔からああやって、ふざけてばっかりなんだよ。」


またジョッキを傾けて、ビールを飲んでいる有斗。もうほとんど空っぽになっている。

私も負けじとカシスオレンジを飲み干した。それを見ていたかのように甲斐くんがやってきて、私にはカシスオレンジを、有斗には中ジョッキをそれぞれの前に置く。


「なになに?また俺の話?」


そうニコニコ顔で問いかける甲斐くんは小犬みたいだ。尻尾を振りながらじゃれつく、小型犬を思い出させる。


「お前はいつもふざけてばっかりだって話。」


逆に、そう言ってにやっと笑う有斗は黒猫のように冷ややかだ。こんなに正反対の二人なのに仲がいいんだから、男の子同士の友情って不思議。

そんな事を一人、頭の中で分析しながらカシスオレンジをちびちび飲んでいた。


「そんな事言って、俺がいなかったら高校生活つまらなかっただろ。そう思わない?衣里さん。」


「へ?」


またも、不意をつかれて抜けた声を出す私。それを聞いて、ため息を吐く有斗。

結局こんな調子で、甲斐くんのエンドレスなトークとカクテル。そして有斗のペースに飲まれて、2時間後にはすっかり酔っ払っていた。


頭はふわふわぼんやり、心臓は大きく跳ねている。

ドク、ドク、ドク、ドク・・・


そして、気づけば私と有斗は店の外にいた。

ほかほかに火照った頬に夜風が気持ちいい。

周りには、まだ夜はこれからと言うように店に入っていく人、家路を急ぐ人、騒ぎながら歩く団体…とごった返していた。


「帰らないの、衣里。」


有斗が2歩先で、ぼんやり突っ立っている私に気づいて振り返った。

私はこんなに体全体で酔っ払っているのに、有斗はいつもと何一つ変わらない涼しげな顔をしている。

歩こうとした瞬間、ふらりとしたけれど、有斗に悟られないように平気な顔をして歩き始めた。

いつもより大きな歩幅で、あっという間に有斗なんて追い越して。

すらりとした有斗のシルエットを追い越した時に、例のため息が聞こえたのは言うまでもない。

だけど、私は構わずに家へと向かった。


一つだけ、自信があること。

私は、どれだけ酔っ払っても迷わずに家へ帰れる。

いくら、部屋に入って鍵をかけた瞬間から記憶がなくても、ちゃんと何も失くさずに帰ってこれるのだ。

もしかしたら、帰巣本能ってやつかもしれない。って、私は動物か?


街頭やコンビニの光に照らされた道をひたすら一人で黙々と歩いた。

そして見慣れたマンションが見えてきた頃、ぐいっと急に後ろから手を引っ張られた。


もちろん手を引っ張るなんて、後ろを歩いていた有斗しかいないんだけど、それでも突然すぎて思わず体が固まってしまった。


「な、なに?!」


「俺のこと、忘れてただろ。」


はぁ、と深いため息を吐いて有斗は私の腕を放した。

キレイな切れ長の目が、冷たく射るように私を見つめている。


「まさかぁ。そんなことないよ。ちょっと歩くのに必死だっただけで…」


「別にいいんだけど、それは。」


別にいいんなら、無駄に驚かせないで欲しい。。。

さらっと髪をなでた夜風が冷たくて、少し身震いをした。さっきの驚きと風の冷たさで酔いが一気に引いていく。


「多分、姉貴がまた来てると思うから、衣里んちに寄ってっていい?」


そう言って、有斗は自分の部屋がある辺りを見上げた。私もつられて見上げると、そこには明るく灯りが点いている。


そうだ。今日の奈菜の様子から、私もそうじゃないかと予想してたんだった。


それにしても、好き勝手キングの有斗が先に聞いてくるなんて珍しい。いつもなら、当然の様にうちにやってくるのに。


「しょうがないなぁ~。おねえさんが面倒見てあげましょう!まだ飲み足りないしね。」


有斗の態度に気を良くした私は、うっかりそんな事を口走ってしまっていた。

先に部屋に入った有斗は、自分の部屋のように当たり前に冷蔵庫を開けて、おつまみを作る為の食材を選び始めた。


キムチ、ソーセージ、チーズ…有斗は既に何を作るか決めているみたい。

その間に部屋着に着替えて、おまけに化粧まで落とす私。

ここまで来ると、本当に家族みたいで気楽だ。


一通りスキンケアを終えた後、ぺたぺたと裸足でキッチンへ行って、冷蔵庫から買い置きしていたチューハイを取り出す。


「もう着替えてるし。」


プシュッと缶を開ける音と有斗のため息が重なる。

ため息を吐きながらも、着々と料理を仕上げてお皿に盛り付けている有斗。

その隣でごくごくとチューハイを飲む私。


色気も何もないよね。まぁ、元からないんだけど・・・


「だって、くつろぐ時はゆったりした格好したいんだもん。化粧も落としたいし。」


「そういう事じゃなくて…」


出来上がった料理をテーブルに運ぶ有斗の後を、缶チューハイを両手について行く。

何を作ったのかわからないけれど、おいしそうな匂いが部屋を満たしている。

定位置のラブソファに座る有斗に缶チューハイを渡し、私もお気に入りの場所に座った。


「何作ったの?」


目の前に置かれた料理に箸を伸ばす。

キムチとソーセージと野菜の切れ端の炒め物の上にチーズがとろけている。


「冷蔵庫の中にロクな物がなかったから、有り合わせで炒めただけ。」


「ロクな物がないって失礼な・・・っていうか、おいしい!」


さっきまで居酒屋で散々食べたり飲んだりしていたのに、まだ食べられる自分が恐ろしい。


こんな時間にたくさん食べたら太る…


そんな事を呟きながらも止められない私を見て、ため息をつく有斗。

その口元がわずかに微笑んでいるように見えた。


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