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glitter  作者: 高野薫
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答え合わせ

有斗が私を好き・・・?ずっと前から??

そんなのありえない!だって、だって・・・


「で、でもっ、あの彩ちゃんって子は?」


「はぁーーーー。」


耳元で響く大きなため息に背筋がぞくっとして、全身がむず痒くなる。

このままずっと耳元で話し続けられると、気がおかしくなりそう。


「今、そんな話したいわけ?」


低く響く有斗の声が胸を掬う。それは初めて感じる、切なくて甘い感情。

とろりと溶けてしまいそうな思考をギリギリで引き止めて、有斗の目を正面から見つめた。


「したい。だって、説明してくれなきゃわからないもん。このままじゃ、やだ。」


「はぁ・・・わかった。」


そう何度目かのため息を吐いて、有斗は腕を解いた。お互いの身体が少し離れた分、少しの肌寒さと寂しさが襲う。

離れたくない。不覚にもそう思ってしまった。


「彩は大学で同じクラス。で、今は課題のパートナー。締め切りが迫ってるから、うちで課題をやってただけ。」


「本当?」


「嘘吐いてどうすんの?彩に聞きにいくか?」


声のトーンと眼差しから真剣さが伺える・・・というよりも、怒りが見え隠れしてるから、それ以上は突っ込まないでおこう。


「ううん、いい。じゃあ、奈菜と甲斐くんが悪いって言うのは何で?」


私は至って真剣。なのに、有斗はくくっと笑って小さくため息を吐いた。


「衣里、本当に全部聞かなきゃ気が済まないんだ?」


それから有斗は、今日一日で判明したことを説明し始めた。


昨夜、奈菜が有斗に彼女がいるのかとメールしてきた事。それを見た有斗は私に電話を掛けたけれど、着信を見た奈菜が私と甲斐くんがいい感じになっていると有斗に嘘を吐いた事。そして、甲斐くんが有斗に私と付き合うと宣言した事・・・

何て、紛らわしい・・・


「じゃあ、さっきの電話の相手は?」


「甲斐・・・」


有斗はそう呟くと私の手をぎゅっと握り締めた。眉間には微かに皺が寄っていて、相当苛立っていることがわかる。

こんな風に苛立ちを見せるなんて今までなかった。どうすればいいのかわからなくて、私は有斗の手をそっと握り返す。

すると、有斗はそれに気がついたのか、ふっと表情を緩ませて話を続けた。


「あいつ、付き合ってはないけど諦めないって言いやがった。」


「へ?!」


「今日、告白されたんだろ。」


「・・・うん。」


そう頷いた瞬間、有斗の目がすっと細まった。


こ、怖い・・・


「ちゃんと断ったんだろうな?」


うわぁ、有斗の周りに青い炎が見えるんですけど!

こんな状況で曖昧にしか断ってないなんて言えないよ。言ったら殺されそう。。


「私の、気持ちは伝えたよ・・・?」


それなのに、有斗の表情は変わらない。

それどころか、細めた目で私をじっと見つめている。


「な、何?」


沈黙に耐えかねてそっと尋ねてみる。

すると、有斗は握っていた手を離して、私の頬をそっと撫でた。


「衣里の、気持ち?」


そう囁いた有斗の声は掠れていて、色っぽくも怖くもあった。


「甲斐に、何て返事したわけ?」


有斗はそう言いながら、私の頬から唇まで静かに撫で続けている。

くすぐったいような、何かを押し上げるような感覚に一瞬くらりとしてしまう。


「衣里・・・」


そう呼ばれて外していた視線を上げると、すぐ傍まで迫っていた見慣れた端正な顔と向き合った。


「・・・?!」


驚く間もなく、有斗は顔を近づけると、私の唇すれすれにキスをした。

嬉しくも、もどかしくもある、むず痒い感情が体中を駆け巡る。

思わず、その感情に全てを預けてしまいそうになる。


このまま・・・でも・・・まだ・・・


「有斗。」


頬から首筋に感じる有斗の唇が止まったのにも関わらず、体中の熱は冷めるどころか高まっていく。

無駄なことだと分かっていても、大きく深呼吸をせずにはいられない。

簡単な事。ただ自分の気持ちを伝えるだけ。

それだけなのに唇は震えそうだし、指先は有斗に縋りたくて堪らない。


でも、伝えなければ何も終わらないし始まらない。

しばらく目を閉じてから有斗を見つめ直すと、素直な言葉を搾り出す事ができた。


「有斗が、好き・・・」


「知ってる。」


そう耳元で囁いた有斗の声に不覚にもどきっとした瞬間、私の身体は全て有斗に包まれていた。

ぎゅっと力を感じる肩、熱く鼓動が伝わってくる胸と胸。


「有斗・・・」


「衣里。」


呼びかけられたのか、それともただ声が漏れたのか。

どう理解していいかなんてわからないほど、有斗しか見えなくて苦しい。


「有斗が、好きなの。」


もしかしたら、これが生涯ただ一度の告白になるかもしれない。

それくらい想いは切羽詰って、溢れそうで、爆発しそうなくらい高まっていた。


「知ってる・・・」


微かに漏れた有斗の吐息と共に、昨日念入りに手入れをした髪はふわりと宙に舞い、意識は遥か遠くに追いやられた。

そっと追い上げていく有斗の指先がじわじわと私を追い詰めていく。

呼吸をするたびに有斗の主張しすぎない香りが肺を、身体を支配していった。


「有斗・・・!」


その一言がきっかけだったかのように、有斗は動きを早めて私は深みへ堕ち意識を失った。



大好きだと伝え合って一晩中抱きしめられて眠った翌朝、目を開けると有斗の寝顔を間近に見つつ穏やかな時間を過ごす・・・


なんてロマンティックなことは欠片もなく、以前のように掛け布団を奪われ起こされた私。


「衣里。」


冷たい声で呼びかける愛しいはずの人・・・

でも、きっと声と同じくらい冷ややかな視線が私を狙っているに違いない。


「もう、少しだけぇ・・・」


そんな視線を遮る様に枕を頭に被せて抵抗する私。

あと5分・・・無駄だと分かっていてもしちゃうんだよね。

すると、するっとした感触が背中を這った。


「ぅきゃ!」


思わず枕を外して飛び起きると、有斗の顔が目の前に迫っていた。


「ぅわっ!」


大声を出すと同時に降り注ぐお決まりのため息。

それが耳元を擽るから全身が一瞬で熱くなる。


「もう少し色気のある声出せよ。」


有斗が熱くなった頬に唇を近づけて囁いた。


そっちこそ、もう少し色気を抑えてほしい・・・


なんて、口が裂けても言える筈ないんだけど。

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