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glitter  作者: 高野薫
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暴走

今頃、有斗とあの子は一緒にいるのかな。

さっきみたいに楽しそうに二人で過ごしてるのかな。


エントランスでの二人の姿が頭にちらつく。

すでに5本目の缶ビールを飲み干してため息を吐いた。

もやもやと胸の奥で何かが渦巻いている。


嫌だ。こんな状態の自分も、今の自分の状況も、こんな風にした有斗も。

やだやだやだやだ・・・もう!


トンっと缶をテーブルに置いて立ち上がると、一瞬くらっとした。

身体がアルコールに侵されているのが自分でもわかる。でも、べろべろに酔っ払ってはない。

右手に携帯を握りしめて、ゴミ捨てとか近くのコンビニに行く用にしているサンダルを履いた。


ふらり、ふらりとマンションの廊下を歩く。

廊下を流れる、ひんやりとした夜風が火照った肌に気持ちよかった。

けれども歩けば歩くほど、ふらつくのは酔いが回ってきているからかもしれない。


途中で倒れる前に引き返した方がいいのかもしれない。

こんな馬鹿なこと、今すぐ止めた方が良いに決まってる。

でも、気になるんだから仕方ないじゃない。


エレベーターに乗り、二つ上の階にある有斗の部屋の前まで辿り着いたのはいいけれど、次に何をしたらいいのかわからなくなって立ち尽くしてしまった。


チャイムを鳴らす?


携帯にかけてみる?


でも、それで有斗に会って何を話そう?


頭の中は色んなことが巡ってパンク寸前だ。


どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・


だからかもしれない。

気づいたら、チャイムを鳴らしたにも関わらず逃げ出して、自分の部屋に戻っていた。


やってしまった!どうしよう!


ふらふらする頭を抱えて、ベッドに突っ伏した。

酔っ払っているとはいえ、ピンポンダッシュするなんてストーカーじゃないんだから。


まずいまずいまずいまずい・・・


次、有斗に会ったら何を言われるかわからない。

もしかしたら電話をかけてくるかもしれないと、握り締めていた携帯を開いて電源を切った。


身体はまだお酒で火照って熱いけど、頭の中は嫌って程はっきりしている。

テーブルに置きっぱなしだったビールが目に留まり、思わず一口飲んだ。

少しぬるいけど、そのまま一気に飲み干す。パニックになったままより、いっそのこと酔っ払ってしまいたい。


今頃、有斗は既に私の仕業だって気づいてるかな。呆れてため息吐いてるかもしれない。

もしかしたら、あの子と不思議がってるか、私の事を二人で笑ってるかも。

それとも、もしかしたらもしかすると、有斗はあの子と出かけてて部屋にいなかったかもしれない。

それも何となく嫌だけど、でもそうであってほしいような・・・


もうこれ以上、やってしまった事も有斗の事も考えたくない。

電源が切れて鳴る筈のない携帯を傍らに置いて、もう一度飲み直すことにした。

幸い、コンビニ通いのお陰でお酒のストックは山ほどある。

いつものポジションに座って、リモコンに手を伸ばした。


でも、テレビ・・・っていう気分じゃないな。

音楽でも聴きながらまったり飲みたい感じ。


床に転がっていたコンポのリモコンを手に取って、CDの再生ボタンを押す。

入れっぱなしにしているお気に入りのバンドが始まると思っていたのに、スピーカーから流れ始めたのは、ずっと前に有斗が置いていったCDだった。


翌朝。


・・・ポーン、ピーンポーン。


何・・・?こんな朝早くに宅配便?


ピーンポーン、ピーンポーン、ピーンポーン。


瞼も体も重くて、ぴくりとも動かせない。

うーん。ま、いいか。宅配ボックスに入れておいてくれるだろうし、無視しよ・・・


ピーンポーン・・・


あ、やっと止まった。これでもう一回眠れる・・・


って、思ったのにすっかり頭が冴えてしまった。

でも、飲みすぎたせいか瞼が重くて開かない。それに顔の辺りがひんやりと冷たい。

重い瞼をうっすら開けると、うつぶせになっていたラブソファに濡れた跡があった。


私、眠りながら泣いてた?


テーブルの上にあった手鏡を取って覗き込むと、明らかに泣き腫らした自分の顔がそこにあった。


・・・やっぱり、泣いてたんだ。


でも、何でなのか思い出せない。勢い余って、有斗にピンポンダッシュしたとこまでは覚えてるんだけど。

まったく、酔っ払ってたとはいえ、何やってるんだろう私。


ため息を吐いて俯くと、有斗からの電話が怖くて電源を切ったままの携帯が目に入った。

恐る恐る電源を入れて、問い合わせをしてみたけど、誰からのメールも受信していなかった。


まぁ、そんなもんだよね。


『新着メール 0』の画面を閉じて、ずるずると体を引き摺るように起き上がり、ラブソファに座りなおす。

すると、途端に手の中で閉じたばかりの携帯が震えて着信音が鳴り出した。


まさか・・・もしかして有斗?!


ダラリと脱力していた体をがばっと起こして携帯を見つめる。

すっと息を吸い込んで、そろりと鳴り続ける携帯を開くと、着信相手を確認した。


そこには・・・


『奈菜』の二文字。


奈菜かよー!もう勘弁して、この姉弟。いつもタイミング良いんだか、悪いんだか。

よりにもよって、あんな夜の後のこんな朝早くに電話なんて。


相手の奈菜には見えないにも関わらず、私はしかめっ面を作って受話ボタンを押した。


「もしもし?」


「衣里?もしかして、まだ寝てたの?!今日はもう自主休講するつもり?」


ハキハキとした口調の奈菜の言葉に、私は眼鏡をかけて時計を見た。

そこにははっきりとデジタルで、『11:00』。


やばーいー!あと15分で授業始まるじゃん!しかも、自主休講しても余裕な教科じゃないのにー!


つぅっと背中を冷たいものが通った。


「衣里ってば、聞いてるの?とりあえず、代弁と課題だけはフォローしとくから、午後からはちゃんと来なさいよ。」


ああ、さっきまで女王様の命令みたいだった奈菜の声が女神様の様に聞こえる・・・


「ありがとー!これから用意して、すぐに向かうから!本当にありがとう!」


「はいはい、お礼楽しみにしとくよー。ははははは。」


奈菜は高笑いをしながら電話を切った。なんだか、ものすごーく恐く感じるのは私だけ?


いや!そんなことより、シャワーを浴びて準備しなきゃ!


それからスイッチの入った私は物凄い勢いで支度をして、1時間後には部屋を飛び出していた。

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