表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GatePair: Link〜【いいね】で始まる異世界マッチング〜  作者: 愛崎 朱憂
第一章:エルフ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/40

ep.40[Side Y/異世界]Link: エルフ-13

 ヒュドラの九つの首が一斉に持ち上がった。


 空気が変わる。


 さっきまで僕一人へ向いていた殺意が、今度は明らかに目の前の二人を測っている。

 嫌な変化じゃない。

 寧ろ、初めてヒュドラが『同じ土俵の相手』を見た顔だった。


 ブランシュが一歩前へ出る。

 ルージュが肩を鳴らす。


 僕は遅れてその意味を理解した。


 ここから先は僕が粘る戦いじゃない。


 王が来たんだと思った。


 次の瞬間、ルージュが消えた。


 違う。

 消えたんじゃない。

 見えなかっただけだ。


 踏み込んだ音も、風を裂く音も無い。

 気付いた時には、森側に居た筈のルージュがヒュドラの懐へ潜り込んでいた。


 崖側に居たヒュドラの巨体が、不意に宙へ浮く。


 息が詰まった。


 浮いたヒュドラの胴体の真下。

 ルージュが拳を突き上げている。


 あの一瞬で森側からヒュドラの懐へ潜り込んだんだ。


──見えなかった。


 ヒュドラも何が起こったのか分かっていない。

 九つの首が空中でばらばらに揺れる。

 怒るより先に、理解が遅れている揺れ方だった。


「ブランシュ!こいつは俺が貰って良いか!」


 ブランシュは僕の傍で静かに剣を傾けた。


「お好きになさい。どうせ、あなたにはどうにも出来ません」

「はっ!面白いこと言うじゃねーか!」


 最高点に達したヒュドラへ、今度は重力が追い付く。


 巨体が落ちて来る。

 その落下の途中へ、ルージュの脚が跳ね上がった。


 高い。

 そして、速い。

 ヒュドラの胴体へ叩き込まれる。


 鈍い音が遅れて響いた。


 ヒュドラの巨体が真横へ吹き飛び、崖へ叩き付けられる。

 岩肌が砕け、黒い破片が雨みたいに散った。


 九つの内、左右の二本の首が痛みに耐えるみたいに軋みながら持ち上がる。

 そのままルージュへ喰らい付いた。


 ルージュは避けない。


 右から来た首を右手で。

 左から来た首を左手で。

 それぞれ真正面から受け止めた。


 指が鱗へ食い込む。

 そのまま二本纏めて地面へ叩き付ける。


 凄まじい音だった。

 大地が揺れ、森側に居る僕の足まで響く。


 ヒュドラが悲鳴を挙げる。


「凄い……」


 思わず言葉が漏れた。

 ブランシュは瞬き一つせず、崖側の戦いを見ている。


「アレでは倒せません」


 静かな声だった。

 崖側へ投げる声じゃない。

 僕にだけ落とす声だ。


「……うん。僕もそう思う」


 ルージュが千切り落とした先から、もう肉が蠢いていた。

 首元が、無いモノを埋めるみたいに膨らんでいく。


 それでもルージュの猛攻は止まらない。

 気付いた瞬間、背中が冷えた。


「派手にやり過ぎないで!」


 僕は崖側へ向かって叫ぶ。


「シルヴィと女の子が洞窟に居るんだ!」


 ルージュが戦いながらこちらを振り向く。

 振り向いたと言っても、顔だけだ。

 身体は未だヒュドラの方を向いている。


「おいおい、そう言うことは先に言えよ!」


 言った直後、ヒュドラの尾が唸る。

 ルージュはそれを拳で弾いた。

 弾かれた尾が崖へ叩き付けられて、岩肌がまた砕ける。


 その時だった。


 背後から何かが迫って来る。

 僕は咄嗟に振り返った。


 次の瞬間、柔らかい衝撃が胸に打つかる。


──シルヴィ。


「……ユウキ、良かった……」


 黒い髪が頬に触れる。

 息が近い。

 抱き締める力が思ったより強くて、それで漸く、シルヴィが本当に戻って来たのだと分かった。


「シルヴィ……女の子は?」

「大丈夫。安全な場所まで運んだ」


 胸の真ん中が一気に軽くなる。

 軽くなった直後、崖側でまた凄まじい音がした。


 シルヴィが僕から離れ、崖側を見る。


「アレは……ルージュ様!?」

「私も居ます」

「ブランシュ様!!」


 驚きと安堵が同時に混ざる。

 そんな声だった。


 その間もルージュは一人で戦っていた。


「おーい!ブランシュ!コイツ面白いぞ!」


 崖側から張り上げられた声が飛んで来る。

 ルージュの声だけが距離を越えてちゃんと届く。


「ブラン、前のヒュドラはどうやって倒したの?」


 どさくさに紛れて、『ブラン』と呼んでみた。


「『面』で細切れにしました」


 剣王に『ブラン』を通した瞬間だった。


「あいつも細切れに出来る?」


 ブランは一拍だけ黙る。

 透き通る刃を見下ろしてから、静かに答えた。


「……いえ。正直に言って、想定外の大きさでした。本来の剣なら話は別ですが、生憎、今日はこの一振りしか持って来ていません。あの大きさだと、同時に七本が現実的です」


 そう言って、見えない剣を鞘から抜き出す。

 光が刃を照らしたんじゃない。

 そこに刃が在るから、遅れて光の方が輪郭を思い出したみたいだった。


 僕は切り立った崖の黒い口を見る。

 ヒュドラの後ろ。

 あの洞窟だ。


「そっか……じゃあ、あそこの洞窟に」


 僕は崖を指差す。


「胴体ごと押し込めばいい」


 シルヴィが息を呑む。

 ブランの目が、ほんの少しだけこちらへ向く。


「首を落としても再生するなら、外で再生させちゃ駄目だ。洞窟の中へ押し込んで、そのまま崩せれば……」

「封じ込められる、かも知れません」


 ブランが静かに継いだ。


 崖側で、ルージュがまたヒュドラを殴り飛ばす。


「おい!何か面白ぇこと思い付いたのか!?」

「胴体を洞窟に押し込める?」

「はっ!そりゃ簡単だ!」


 簡単じゃない。

 でも、ルージュが言うと簡単に聞こえる。


「じゃあ、残りは僕とシルヴィで──」

「うん!一本ずつ」

「良し!やろう!」


 シルヴィが僕を見る。

 その目の強さで、もう迷っていないのが分かる。


「ユウキ、私……さっき『面』を通した」

「へぇ、中々やるじゃん」

「意地っ張り」

「僕も通したよ」

「へぇ、中々やるじゃん」


 シルヴィの口元がほんの少しだけ上がる。


「じゃあ──」

「どっちがまた通せるか──」


 その先は言葉にならなかった。


 ルージュがヒュドラの胴体を殴り上げる。

 崖側の巨体がまた宙へ浮く。

 九つの首が一瞬だけ、全部ばらばらの高さへ引き剥がされた。


 僕とシルヴィの『面』が重なる。


 一枚の面がもう一枚の面へ重なる。

 重なった瞬間、そこに薄い厚みが生まれる。

 線でも面でもない。

 僅かな深さを持った、刃の届くべき領域。


 ヒュドラの先。

 崖をくり抜き、何物も存在しない空間。

 その空白を箱みたいに掴んだ気がした。


 何が起こったのか分からない。


 ヒュドラの首が七本、消えた。


 落ちたんじゃない。

 斬れたんじゃない。

 そこに在ったものが、そのまま在れなくなったみたいに消えていた。


 思わず、シルヴィを見る。

 シルヴィも目を見開いて僕を見ていた。


──残る首は二本。


 僕とシルヴィの間をブランが駆け抜ける。


「……成る程。面を重ねて、立体へ届かせますか」


 小さな声だった。

 多分、その言葉は僕達にしか届いていない。


 次の瞬間、ブランの『面』が閃いた。


 透き通る刃が残った二本の首だけじゃなく、首と首の間にある世界ごと細く消した。


 遅れて、遂に九本が落ちた。


 血が噴き出す。


「今だろ!!」


 ルージュが吼える。


 巨体の脇へ潜り込み、両腕を胴へ叩き込む。

 無理矢理持ち上げる。

 浮く。


 首の無い胴体が嫌な音を立てながら宙へずれる。


「行けよ、化け物!!」


 ルージュの会心の一撃が今度は胴体へ叩き込まれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ