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GatePair: Link〜【いいね】で始まる異世界マッチング〜  作者: 愛崎 朱憂
第一章:エルフ編

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36/38

ep.36[Side M/異世界]Link: エルフ-10(中編)

 洞窟の中は暗い。

 けれど、完全な闇ではなかった。


 私のiPhoneの白い光が足元だけを細く照らしている。

 その少し前をシルヴェーヌの白い背が進む。


「足元に気を付けて」

「うん」


 自分の声が掠れているのが分かる。

 檻の中で縮こまっていた足は未だ頼り無く、少し速く歩くだけで膝が笑いそうになった。


 それでも止まれない。

 止まったら、またあの鉄の冷たさまで戻される気がした。


 足音が壁に当たり、返って来る。

 連れて来られた時はただ怖いだけだった反響が、今は遅れた足を急かす音に変わっていた。


「出口はもう直ぐだよ」


 シルヴェーヌの声が小さく飛ぶ。

 その声に押されるように、私はiPhoneを持つ手に力を込めた。


 やがて前方に灰色の薄明かりが滲む。

 洞窟の出口。

 外の光。


 胸の奥が一瞬だけ軽くなる。

 けれど、それは次の瞬間、直ぐに凍り付いた。


 洞窟を抜けた先。

 崖際の開けた場所に巨大な影が居た。


──ヒュドラ。


 呼吸が止まる。


 あの日の恐怖が蘇る。


 黒々とした巨体が湿った岩場の向こうで畝っている。

 何本もの首のうち、こちらを向いている二本がゆっくりと持ち上がった。

 目が合った気がした瞬間、全身の血が冷たくなる。


「こんなに近くまで……?」


 自分でも声になったか分からないほど小さい声だった。


 次の瞬間、シルヴェーヌに手首を掴まれる。

 白い手袋が今度は檻の外へ引くためではなく、生き残らせるために私を掴んだ。


「気付かれてる。森に向かって走って」

「え……」


 ヒュドラの首の二本が滑る様に揺れる。

 その動きだけで分かった。

 次に来る。


 シルヴェーヌが私の前へ出た。

 剣を構え、ヒュドラと私の間に立ち塞がる。

 白い背中があまりにも細い。


「シルヴェーヌ!」

「行って!」

「でも……」


 言い終わる前にヒュドラの首が二本、踊りかかった。

 空気が裂ける。

 岩を抉るような音。

 シルヴェーヌが剣を返し、その一撃を受け流す。


 その瞬間だった。


 少し離れた場所で持ち上がっていた三本目の首の口元が不自然に明るく見えた。

 湿った暗がりの中でそこだけが熱を孕んで膨らんでいく。


 ブレス。


「シルヴェーヌ!!」


 私は咄嗟に光らないままだった石を投げていた。


 狙った訳じゃない。

 ただ止まってほしかった。


 小さな石は真っ直ぐには飛ばない。

 それでも開きかけた目の縁を打った。


 ヒュドラが首を大きく振る。

 口内に溜まっていた光が乱れ、吐き出されるはずだったブレスが途切れた。


「ありがとう!ミユ」


 次の瞬間、シルヴェーヌの剣が閃く。

 白い軌跡だけが一瞬遅れて目に残った。


 二本の首がそこに在った形だけを残して掻き消えた。


──凄い。


 息を呑んだ、その直後。


 頭上に影が落ちる。


「上っ!」


 最後の首が上からシルヴェーヌへ襲い掛かった。

 シルヴェーヌは咄嗟に半身になる。

 避け切ったと思った次の瞬間、胸元の服が浅く裂けた。


「行けーーーっ!!」


 その声に身体が勝手に動いた。


 私は森へ向かって走り出す。

 走るしかなかった。


 後ろで何かが打つかる音がする。

 唸り声とも風の裂ける音ともつかないものが重なって、耳の奥を叩き続ける。

 振り返りたかった。

 けれど、振り返ったら足が止まると分かっていた。


 森の入口は暗い。

 洞窟の暗闇とは違う。

 木々が寄り合って作る、生きた暗さ。


 枝が服に引っ掛かる。

 足元の根に躓きそうになる。

 息が切れる。

 肺が焼ける。


 それでも走る。


 不意に武闘家が私の前へ出た背中を思い出した。

 あの時の私は何も出来ないまま逃げるしかなかった。


 あの時とは少しだけ違う。

 たった一度だけでも、私はシルヴェーヌを助けた。


 それでも最後に背中を向けて走るのは、また私だ。


 助けられるだけじゃない。

 けれど、最後まで隣に立てる訳でもない。


 木々の間を縫うように走りながら、その事実だけが胸の内側へ重く沈んでいく。

 でも今はその重さごと前へ運ぶしかない。


 シルヴェーヌがくれた時間を無駄にしないために。

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