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GatePair: Link〜【いいね】で始まる異世界マッチング〜  作者: 愛崎 朱憂
第一章:エルフ編

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35/39

ep.35[Side Y/異世界]Link: エルフ-12(前編)

「どうやって?」


 僕は切り立った崖の洞窟を指差す。


「きっと、女の子はあそこに居る」


 ヒュドラは動かない。

 動かないまま、九つの首だけがゆっくり揺れていた。


「……うん。あそこに居る」

「だから、僕がヒュドラを引き付ける」

「それは駄目」

「ううん。大丈夫」

「私の方が強い」

「僕の方が男だ」

「男とか女とか、もう関係無い」

「関係ある」

「関係無い。命が賭かってる」

「違う。女の子に命を賭けるのが男だ。だからここは譲れない。何より、シルヴィより僕の方が──」


 ヒュドラが動く。


 僕らは左右に分かれる。


「格好良いから!!」


 僕はヒュドラに向かって走り出す。


「ユウキ!!」


 シルヴィの声が背中に刺さる。

 でも、振り返らない。


 振り返ったら足が止まる。

 止まったら死ぬ。

 死ぬのが僕だけなら未だ良い。

 シルヴィまで終わるのは嫌だった。


 ヒュドラの首が三つ、同時に持ち上がる。


 来る。


 僕は右へ跳ぶ。

 次の瞬間、さっきまで居た場所を紫の息が薙いだ。

 草が焼ける。

 岩肌が泡立つ。

 鼻の奥が痛い。

 肺が嫌がる。

 嫌がるのに、息を吸ってしまう。


「っ……!」


 苦しい。

 でも、生きてる。


 生きてるなら、未だやれる。


「こっちだ!!」


 叫ぶ。

 声が少し上擦る。

 格好悪い。

 でも、ヒュドラの首の一本が明らかに角度を変えた。


 もう一本。


 崖の方を見ていた首が、こっちへ戻る。


 それでいい。


 そのまま走る。

 真っ直ぐじゃない。

 右へ、左へ、半歩だけ戻って、また前へ。

 読まれたら終わる。

 終わるのに、身体が勝手に前へ出る。


 低い首が地面を這うみたいに滑って来た。


 速い。


 僕は半歩だけ前へ出る。

 逃げるんじゃない。

 向こうが来る線へ、剣を置く。


 怖い。

 普通に怖い。

 でも、今はそれを丁寧に感じてる暇が無い。


 刃が擦る。


 浅い。

 でも、軌道が逸れる。


 牙が服の端を掠めて通り過ぎた。

 風圧だけで身体が持って行かれそうになる。

 転び掛けて、足を捩じ込んで堪えた。


 その一瞬で、白い影が崖へ向かう。


 シルヴィだ。


 視線を追いたい。

 でも、追わない。

 追ったら足が止まる。

 止まった瞬間、首が洞窟へ向く。


 ヒュドラが吼える。

 空気が揺れる。

 耳の奥まで震える。

 九つの首が、ばらばらの角度で持ち上がる。

 さっき切り落としたはずの首も、もう当たり前みたいにそこにある。


 一、二、三、四、五、六、七、八、九。


 ちゃんと九つ。


 嫌になる。

 でも、数えてしまう。


 八じゃない。

 ヤマタノオロチじゃない。

 ヒュドラだ。


 尾が岩を叩き割る。

 砕けた石が肩を掠める。

 鈍い痛みで、逆に目が醒めた。


「来いよ……!」


 全然強そうじゃない声だった。

 それでも、ヒュドラはちゃんと僕を見た。


 首が四つ、同時に来る。


 左から二本。

 上から一本。

 少し遅れて、正面から一本。


 全部見たら死ぬ。


 だから一本だけ見る。

 目の前の一本だけ。


 呼吸をする。

 握り過ぎない。

 足を残す。

 振るな。

 通せ。


 首が落ちて来る。

 泡立つ唾液が糸を引く。

 光る牙の並びの奥に、一本だけ、嫌に真っ直ぐな筋が見えた。


 そこへ剣を置く。


 ヴェール=パッサージュ・リーニュ。


 抵抗が走る。


 浅い。

 でも、切れた。


 首が軌道を乱して、僕の脇を抉る様に通り過ぎる。

 次の一本が真上から来る。


 避け切れない。


 咄嗟に転がる。

 背中に土が張り付く。

 呼吸が潰れる。

 肺の中の空気が全部零れたみたいに苦しい。


 立て。


 立たないと死ぬ。


 身体を起こした瞬間、崖の方からシルヴィの声が飛んだ。


「ユウキ!」


 洞窟の入口。


 シルヴィが振り返っていた。


 その向こうは暗い。

 暗いのに、もう引き返すつもりの無い顔をしている。


 僕はシルヴィを見る。


 ヒュドラの首が唸る。

 未だ来る。

 未だ止まらない。

 でも、その一瞬だけ、僕の目はシルヴィだけを見た。


「生きてたら、直接してあげる!!」


──何を?


 そう思った時には、シルヴィはもう洞窟へ消えていた。


「は!?」


 間の抜けた声が出た。

 最悪だと思う。

 こんな時に何を言われたのかも分からない。

 分からないのに、胸の真ん中だけが一気に熱くなる。


 その熱を叩き潰すみたいに、ヒュドラの首が迫る。


「っ、ちょ……!」


 横へ跳ぶ。

 遅い。

 肩を掠める。

 服が裂ける。

 皮膚が熱い。


 でも、未だ浅い。


 未だ死んでない。


「何だよ、それ……!」


 笑いそうになる。

 泣きそうにもなる。

 こんなタイミングで置いて行く言葉じゃない。

 最低だ。

 でも、その最低さのせいで、死ねなくなる。


 死んだら分からないままだ。


 それは嫌だ。


 すごく嫌だ。


「……絶対、生きる」


 自分で言って、自分の声の情けなさに少しだけ笑う。

 情けない。

 でも、本音だ。

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