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GatePair: Link〜【いいね】で始まる異世界マッチング〜  作者: 愛崎 朱憂
第一章:エルフ編

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34/41

ep.34[Side M/異世界]Link: エルフ-10(前編)

 さっきまで、私は格子の隙間から手を差し出していた。

 吟遊詩人に言われたとおり待ってみても、誰も手を掴んでくれなかった。


 暗闇が怖くて、私は檻の隅で膝を抱えていた。

 足元に置いたiPhoneの画面だけが細く白く光っている。

 私はその明かりを頼りに石が光るのを待っていた。


 白い画面を最低まで落としても、暗闇の中では充分に明るい。


 その細い光の中で私の膝も震える指先も見える。

 見えるのにそこから先は何も分からない。


 静かだった。

 静か過ぎて洞窟の奥に広がる闇そのものが息を潜めている様に思えた。


 何も触れない。

 何も来ない。

 何も差し出されない。


 ふと嫌な考えが過ぎった。


──もしかするとこの石は私が思っているよりもずっと弱く光るモノで、iPhoneの明かりのせいで私が見逃してしまったのではないか?


 少し不安になる。


 私はiPhoneをその場に置いたまま、格子の方へ膝で躙り寄った。

 格子の直ぐ前で膝を抱え、光らない石を暗闇の近くで見詰める。


 石は沈黙したまま何も教えてくれない。

 不意に、視野の端で何かが動いた。


 チリン


 次の瞬間、檻の隙間から白い手が差し出された。

 胸が跳ねる。


──吟遊詩人。


 私は反射で身体を強張らせてしまう。

 それでも私は彼を信じてみようと決めていた。

 いや、『信じたい』と思っていただけなのカモ知れない。


 私は手を出して、彼の手に触れる。


──手袋?


 強く引かれる。


 格子の直ぐ前まで寄っていた身体が前へ持ち上がり、私は半ば引き起こされる様に立ち上がった。

 足が縺れそうになるのをその手が支える。

 檻の隅に置いたままのiPhoneの白い光が、差し込まれた手とその向こうの顔を淡く浮かび上がらせた。


 白い手袋。

 息を切らした横顔。

 細身の剣。


「シルヴェーヌ?」

「ミユ。大丈夫?怖かったでしょう?」


 囁くみたいな声だった。

 それなのに、その一言だけで胸の奥の何かが解けそうになる。


「シルヴェーヌ……」

「ミユ、もう【ブロック】して逃げて」


 私は石を握る。

 乾いた形はここにある。

 けれど、光ってはいない。


「……駄目。リュミエルから合図が来てない」

「今はそれどころじゃない。もうヒュドラが直ぐそこまで来てる」


 ヒュドラ。

 その単語がAEDみたいに心臓を強く叩く。


「駄目なの。リュミエルが合図してくれ──」

「合図なんて来ない!」


 シルヴェーヌが大きな声を出す。

 身体が一瞬強張る。

 叩かれる前の声と少し似ていた。

 これもきっと『苛立ち』だ。


 胸の奥へ真っ直ぐ突き刺さる。

 薄々勘付いては居た。

 ただ、それを真正面から受け取ることはもう出来無かった。


「だから、お願い。時間が無いの……」


 けれど、もう心は折れない。


「シルヴェーヌ、ごめん。言葉を間違えた。『駄目』じゃなくて、『嫌』なの」


 その言葉を口にした瞬間、さっきまで擦り切れるほど口にしていた音が私の中へ戻って来る。


──嫌。


「ノックを四回したのは遣いの女性だった。私、リュミエルにお礼を言えてない。リュミエルに『さよなら』を言えてない」


──勇者にも言えなかった。

 届かなくなった言葉は『後悔』になる。

 勇者からそれを学んだ。

 だから、ここだけは譲れない。


 シルヴェーヌは何かを言おうとして、口を閉じる。

 それから諦めたみたいに小さく息を吐いた。


「……もう、あなた達って本当に……」


 呆れたみたいに言うのに声だけは少し丸かった。

 同じ女の私にはシルヴェーヌが誰を思い浮かべているのか分かる気がした。


「『達』?」

「こっちの話」


 シルヴェーヌがiPhoneを指差す。


「それで鍵を照らしてくれない?」


 小さく抑えた声だった。

 でも、その声で現実に引き戻される。


 私は頷く。

 檻の隅に置いていたiPhoneを拾い上げ、バックライトを点けた。

 その白い光を、檻の扉の金具へ向ける。


 震える手の中で白い光だけが一点に集まる。


「凄く見易くなった。そこから動かないで」


 シルヴェーヌは腰の剣に手を添える。

 鞘走る音が短く一つ鳴った。


 次の瞬間、鍵の辺りで硬い金属音が鋭く弾ける。

 小さな何かが床へ落ち、遅れて重い閂の外れる鈍い音がした。


 最後に、刃が鞘へ戻る乾いた音が小さく残る。


 私には見えなかった。

 でも、檻が開いたのは分かった。


 扉が少しだけ軋む。


 シルヴェーヌの手が一度だけ私の頬の近くで止まった。

 腫れた場所に触れはしない。

 ただ、そこに傷があると知ったみたいに、ほんの一瞬だけ動きが止まる。


「行ける?」

「……うん」


 開いた扉の外は檻の中と同じ暗さのはずだった。

 でも、一歩目が直ぐには出ない。


「早く」


 私はシルヴェーヌが差し出した手を見る。

 白い。

 冷たい色なのに、不思議とその手だけは暗闇の中で生きているように見えた。


 私はiPhoneを持ったまま、その手を掴む。


 強く引かれた。

 檻の外へ身体が転がるように出る。

 足が縺れそうになるのをシルヴェーヌが支えた。


「歩ける?」

「……うん」


 シルヴェーヌの手の平が背中で温かい。


「その光、消さないで。前だけ照らして」


 私は頷く。

 iPhoneのバックライトを頼りに足元の石と壁際だけを照らす。

 白い光は細い。

 細いのに檻の中で見ていた時より少しだけ広く感じた。


 シルヴェーヌが前に立つ。


 私達は洞窟の中を進み始めた。

 今度は連れて行かれるんじゃない。

 出て行くために歩く。


 それだけで、同じ暗闇の筈なのに息の仕方が少しだけ変わった。

※同日22時に次話公開します。

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