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GatePair: Link〜【いいね】で始まる異世界マッチング〜 (ゲートペア)  作者: 愛崎 朱憂


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16/21

[Side M/異世界]Link: エルフ-07

 朝は白い。

 白いのに冷たくない。

 木目の天井に落ちる光が、ここが私の部屋になってきたことを教えてくれる。


 私はベッドを降りて、指先で耳の後ろをそっと触った。

 痛みは薄い。

 薄いからこそ、昨日までの痛みが夢じゃなかったと分かる。


 窓を少しだけ開ける。

 森の匂いが入って来る。

 湿った木と、遠い火の名残。

 息を吸うと胸の中が静かになるのに、同時にここで生きる感覚も増える。


 机の上にiPhoneがある。

 黒い角の重さ。

 帰り道の輪郭。


 画面は見ない。

 見れば数字が減っている。

 減っていることは、もう知っている。


 私は水を飲んだ。

 飲んだだけで身体の中の乾いた部分が静かになる。

 ここに馴染むのが怖い気持ちは未だ消えないままだ。


 椅子に座って、少しだけ指を組む。

 指先が冷たい。

 冷たいのに、心臓は落ち着かない。

 私は昨夜、暮らしたいと言った。

 言っただけで、未だ何も決めていない。


 何も決めていないのに朝は来る。

 来るから、私は動ける。

 動けることが今日の救いだと思った。


 外へ出よう。

 昨日も私は外を歩いた。

 昨日の続きが出来るなら、今日も出来る気がした。


 外套を羽織る。

 服の重さが肩に乗る。

 その重さが部屋の中だけの私を少し外へ連れ出す。


 廊下へ出る。

 木の床が少し鳴る。

 その音はもう怖くない。


 庭へ向かう途中で私はふと思い出す。

──シルヴェーヌ。

 今日は会えるだろうか。


 会えたら、話をしたい。

 糖樹の蜜の味。

 私がここで暮らすと決めた時の胸の熱さ。

 それを誰かに聞いてもらうだけで、決断が現実になる気がした。


 庭に出ても彼女は居なかった。

 居ないことに、私は未だ理由を付けられる。

 隊長は忙しい。

 そういう仕事だ。

 それに、彼女はいつも居る訳じゃないことも知っている。

 居たら嬉しい、居なくても怒ることは出来無い。

 そういう距離だ。


 私は息を吐いて袖口を整えた。

 袖が整うと、心も少しだけ整う。


 だから私は別の目的に切り替える。

 花畑に居た、あの子。

 あの子にもう一度会って、エルフの森の話を聞きたかった。

 私が知らないこの世界を、私は少しずつ覚えて行きたい。


 歩き出す。

 石畳が土に変わる。

 土の湿り気が足の裏に馴染む。

 馴染む感覚が心地良いのに、その心地良さを許して良いのか分からない。


 森は静かだ。

 静かなのは、いつも通りだと思った。

 鳥の声が遠いのも、風向きのせいだと思った。

 遠い声の代わりに木が擦れる音だけが近い。


 道は細い。

 けれど迷わない。

 木の根が避ける場所を教えてくれる。

 同じ根を昨日も跨いだ気がして、私は小さく笑いそうになる。

 繰り返しがあると、人は安心する。


 私は自分が独りで歩けるようになっていることに気付く。

 それが少し嬉しい。

 嬉しいのに、胸のどこかが落ち着かない。

 落ち着かない理由は言葉にしない。

 言葉にした途端、私がここに居る理由が変わってしまう気がした。


 木の幹に細い縄が巻かれているのを見付けた。

 昨日は気付かなかった。

 気付かなかっただけで、昨日もあったのカモ知れない。

 何かの目印だろうと私は軽く考えた。

 森は森のやり方で整っている。

 私は未だ知らないだけだ。


 小さな小屋が見えた。

 木材を積む場所だ。

 昨日は誰かが居た気がする。

 今日は居ない。


 私は小屋の前で立ち止まった。

 耳を澄ます。

 斧の音も木槌の音も聴こえない。

 聴こえないだけで作業をしていないとは限らない。

 森は広い。

 音は遠くへ逃げる。


 私はそのまま通り過ぎた。

 通り過ぎる時、木材の匂いが少しだけ濃くなる。

 濃さがあるから、誰かが触ったのは最近だと分かる。

 最近、という単語が急に現代みたいで、私は一瞬だけ息を止めた。


 誰とも擦れ違わない。

 昨日は子供が居た。

 今日は居ない。

 私は立ち止まって周囲を見る。

 誰も居ない。


 朝が早いだけカモ知れない。

 今日は何かの作業の日なのカモ知れない。

 私が知らないだけで、森には森の予定がある。


 私は歩きながら、花畑のあの子との会話を思い出そうとした。

 でも、思い出すほどに分からなくなる。

 冠の名前。

 役目の名前。

 それらは私の舌に馴染んでいない。


 だから私は目に見えるものを数える。

 木の幹の太さ。

 苔の色。

 道の端の小さな石の形。

 数えると、考えが薄まる。

 薄まる分だけ足が前へ出る。


 遠くに水の音がした。

 川だ。

 私は少しだけ寄り道をする。

 水を見れば、私はここが自然だと納得出来る気がした。


 川の縁には誰も居なかった。

 桶も洗い物も無い。

 私は手を浸すだけ浸して、直ぐに引っ込めた。

──冷たい。

 冷たいから、ここが現実だと分かる。

 冷たさが手首を伝うのを見て、私はまた歩き出した。


 花畑に着いた。

 前と同じ場所。

 前と同じ匂い。

 けれど、誰も居ない。

 子供達の声がしない。

 花で遊ぶ手が無い。


 私は花を一つだけ指で触れた。

 花弁が薄い。

 薄いのに、折れない。

 折れない強さが羨ましい。


 胸の中が少しざわつく。

 ざわつく理由を私は未だ言葉にしない。

 言葉にした途端、戻れなくなる気がしたからだ。


 私は花畑の端まで歩いた。

 端まで歩けば誰かが居る気がした。

 気がしただけで、誰も居ない。


 私は小さく呼び掛ける。


「誰か居ますか?」


 返事が無い。

──ただの屍のようだ。

 返事が無いのに、私はもう一度だけ待った。

 待つ間、風が花を揺らした。

 揺れる花はいつも通りですって顔をしている。


 私は息を吸って、吐いた。

 吐く音だけが自分の耳に戻る。

 それが少し可笑しくて、可笑しいのに笑えない。


 朝が早いだけだ。

 皆、どこかで作業をしているだけだ。

 私はそういう理由を、胸の中へ置いた。

 置かないと、静けさに名前が付いてしまう気がした。


 私は花弁から指を離した。

 薄いのに折れない。

 折れないまま揺れている。


 だから私は引き返そうとする。

 戻れば良い。

 戻って、部屋で過ごそう。


 その時、背中の方で枝を踏む音がした。 軽い音じゃない。

 急いでいる音だ。


「ミユっ!」


 名前を呼ばれて身体が跳ねた。

 声は知っている。

 知っているのに温度が違う。


 振り返ると、白い手袋が見えた。

 次に、顔。

 シルヴェーヌが息を乱していた。

 髪が少し乱れている。

 乱れ方がいつもの彼女じゃない。


「シルヴェーヌ。久し振り──」

「今直ぐ、帰るよ。外に出たら駄目」


 言い方が短い。

 短く命令の形をしていた。

 私は言葉の続きを探す。


「それはどう言う──」

「良いから」


 シルヴェーヌが私の手を掴んだ。

 白い手袋越しでも、異常事態なことが分かる。

 強い。迷いが無い。


 私達は走った。

 走りながら私は周りを見る。

 見て、そこで初めて気付く。


 静か過ぎる。

 静か過ぎるのに、空気だけが固い。


 さっきまで私は『朝だから』で済ませていた。

 でも今は違う。

 シルヴェーヌが焦っている。

 焦りが私の世界の輪郭を一気に変える。


「どうしたの?何があったの?何で皆、居ないの?」


 私は息を切らしながら言う。

 シルヴェーヌは答えない。

 答えないまま足だけが速い。

 速さが怖い。

 速いのに置いて行かれる気がする。


 私は声を上げた。


「ねぇ!シルヴェーヌ!」


 私は手を振り払った。

 止まらないと、私は置いて行かれる。


 シルヴェーヌが立ち止まる。

 私を見る。

 その目に苛立ちみたいな影が一瞬だけ走る。


 言えないんだろうか?

 言えない理由があるんだろうか?

 私はその理由を勝手に想像しない。

 想像した途端に私の恐怖が先に育つからだ。


 シルヴェーヌは真っ直ぐ私の目を見たまま、何も言わない。

 言えない沈黙。

 沈黙の形だけが答えになる。


「……分かった。言えないんでしょ?私は戻れば良いのね」


 言い終えると胸が少し痛んだ。

 痛いのに私はそれを飲み込む。

 飲み込まないと走れない。


 シルヴェーヌの目がいつもの目に戻る。

 戻ったのに、焦りは残っている。

 その焦りが彼女の仕事中の顔だと、私は遅れて理解する。


「ごめん」

「ううん。私の方こそ、大きな声を出してごめん。行こう。急いでるんでしょ?」

「うん。急いでる」


 私達はまた走った。

 走って戻る道が行きより遠く感じる。

 そう感じるのは、私の心が追い立てられているからだ。


 門の内側に近付く。

 近付くほど気配が増える。

 増える気配は、人の気配だ。


 そこで私は、さっきまでの静けさが『静けさじゃなかった』と理解する。

 隠されていた。

 隠されていたというより、表に出さない様にされていた。


 建物の近くに兵が居た。

 昨日より多い。

 目線が鋭い。

 鋭いのに私を刺さない。

 刺さない代わりに通り道だけを作っている。


 ドアの前には見張りが二人居た。

 昨日は一人だった。

 私は数えてしまう。

 数えることしか出来ない。


 私の足音が少しだけ大きくなる。

 この森の静けさに私の音だけが浮く。


 ふと、思い出す。

 なぜ今頃になって思い出したのか自分でも不思議だった。


 ──ヒュドラは狙った獲物を逃がさない。


 その言葉が、意味を持って浮かび上がる。

 ヘリウムガスみたいに。

 私は未だ何も知らないのに、身体だけが先に怖がる。


 シルヴェーヌは私を部屋の前まで連れて行った。

 ドアの前で短く言う。


「今日は、なるべく出ないで。分かった?」

「……分かった」


 分かった、と言うしかない。

 理由が分からないままでも。

 私は彼女の焦りだけは分かった。


 シルヴェーヌはドアに手を掛けて、それから私を見た。

 いつもの目だ。

 いつもの目なのに、薄く疲れている。


「もし……ドアを叩かれても、回数が違ったら開けないで」

「回数?」

「四回以外は、開けない。私か、リュミエル様の合図」


 私は頷いた。

 頷くしか出来ない。


 シルヴェーヌは小さな石を、私の掌に置いた。

──転移石?

 私が知っているのと色が少し違う。


「これ、落とさないで」

「……これ、転移石?」


 シルヴェーヌは答えなかった。

 答えないまま私の指を軽く握って、直ぐに離した。


「ごめん」


 それだけ言って彼女は廊下の方へ走って行った。

 走り方がさっきと同じだった。


 ドアが閉まる。

 閉まったドアが私を守っているのか、閉じ込めているのか分からない。

 私は石をスカートのポケットに入れた。

 分からないモノをただ信じることしか出来なくなるほど、怖さが増える。


 ドアの外で誰かの足が止まる気配がした。

 止まって、直ぐに遠去かる。

 私は息を止めたまま、足音の数を数えた。

 数え終える前に音が消えて、私は自分が何をしているのか分からなくなる。


 私は石を取り出して、掌で転がした。

 乾いた手触り。

 軽いはずなのに、落としたら終わる気がする。

 終わるモノが何なのかは──分からない。


 部屋の中は静かだ。

 静かだから外の固さが余計に分かる。

 私はベッドの端に座って膝の上で手を握った。


 iPhoneに手が伸びる。

 伸びるのに、止める。

 数字を見たくない。

 見れば現実に戻ってしまう。

 自分がどこに居たいのかさえ、未だ分からないのに。


 私は【メッセージ】機能を思い出した。

 押せば誰かに助けを求められる。

 けれど、その誰かは──誰であるべき?

 リンクしている相手に弱音を吐くべきか。

 別の相手に相談するべきか。

 そもそも異世界同士が同じ世界なのかも分からない。


──吟遊詩人。

 私は一昨日の夜、自分の中の軽さを嫌った。

 嫌ったから、今も指が止まる。


 机の上に朝のパンが置かれていた。

 いつの間に置かれたのか分からない。

 分からないことが少し怖い。

 でも、食べないと身体が動かない。


 私は小さく千切って口に入れた。

 噛む音が部屋に響く。

 響く音が外の固さと繋がっている気がした。


 外で足音が増えた。

 増えて、遠去かる。

 遠去かって、また増える。

 私は窓へ近付こうとしてやめた。

 見れば、見た分だけ恐怖が形になる。


 代わりに部屋の小ささを数えた。

 机、椅子、ベッド、窓。

 四つだけで生きて行けるかを試すみたいに。

 試すほどに、私は生きている。


 時間が過ぎた。

 過ぎたのに、私は時計を見ない。

 iPhoneを見れば時間も分かる。

 分かるのに見ない。


 だから私は、呼吸を数えた。

 一つ、二つ、三つ。

 数え方は正しくない。

 正しくないのに、私はそれに縋る。


 木の外で短い合図みたいな音が鳴った。

 笛なのか、木片なのか分からない。

 分からない音が今日の恐怖だ。


 ドアが二回、短く叩かれた。

 私は動かなかった。

──四回じゃない。


 静かになってから、ドアの外で物が置かれる音がした。

 何かを引き摺る質量のある音。

 私はドアに近付きたいのに、近付けない。

 近付けば開けたくなる。


 暫くして足音が遠去かる。

 私は漸く息を吐いた。

 無意識に息を止めていたことにハッとする。


 私はベッドの縁に座った。

 座ると、身体の重さが分かる。

 重さがあるから、私は未だここに居る。


 ドアが叩かれた。

 四回。

 私はポケットの中の石の形を確かめた。

 石は左のポケットに黙って隠れている。


 ドアを開けると、リュミエルが居た。

 光の中に居るのに、影が深い。

 深い影のまま、視線だけが真っ直ぐだ。

 外套の裾に、森の露が少しだけ付いている。


「中に入っても?」

「……どうぞ」


 リュミエルが私の部屋に入る。

 ベッドで介抱してくれた時以来だ。

 その事実だけで、胸が少し熱くなる。


 彼は部屋を見回さない。

 見回さないのに、全部を把握している気がする。

 私は居場所を見透かされるのが怖い。


「ミユさん。この世界に残るか、決まりましたか?」


 想定外の角度からの質問に、私は戸惑った。

 リュミエルに答えを求められることは、初めてに近い。


──ここに居たい。

 言いたいのに、言えない。

 言えば、戻れなくなる気がする。

 戻れなくなるのは怖い。

 でも、戻りたいのかも今はもう分からない。

 私は『分からない』の檻の中に居る。


 沈黙が落ちる。

 沈黙は部屋の中で大きくなる。

 私はその大きさに耐えられず、口を開いた。


「……未だ、決め切れていません」


 リュミエルは頷いた。

 頷きは責めない。

 責めないのに、逃げ道も作らない。


「強制切断──その意味を考えたことがありますか?」


 リュミエルは問う。

 声は淡々としている。

 淡々としているから、逃げられない。


「……私が帰れなくなる?」


 私の返事にリュミエルの表情がほんの少しだけ変わった。

 柔らかい、に近い。

 でも、優しいとは違う。


「いいえ。あなたが『戻れるかどうか』だけが、意味ではありません」


 リュミエルは一拍置いて続けた。


「期限があるから、人は決めます。期限があるから、相手は待てます。期限が無ければ、待つ側の心は摩耗します」


 何かが、掴めそうな気がする。

 私が気付いていない……何かが。


「摩耗した心は、ある日突然折れます。折れたことに気付けないまま、笑ってしまうこともある」


 私はその言葉が怖かった。

 怖いのに、否定出来ない。

 待つ側の痛みは、待たせた側には見え難い。

 見え難いから、私は今まで見ない振りをして来たのかも知れない。


 私は息を吸った。

 摩耗、という言葉が現代みたいで、怖い。

 でも、意味は分かる。

 分かってしまう。


「昨日、私の決断の方法を聞いて、どう思いましたか?」


 私は息を整えた。

 合っているかは分からない。

 でも、感じたままに言う。


「周りの皆を安心させるために、リュミエルが責任を引き受ける」


 リュミエルは頷く。

 頷きが小さい。

 小さいのに肯定だと分かる。

 私は恐れず続ける。


「だから、もし決断が間違っていても、悩んでいた人は傷付くことは無い。そのために、リュミエルが決めてる」


 私は言いながら、自分の胸が少し熱くなるのを感じた。

 その熱さは羨ましさに近い。

 私は決められない側だからだ。


 リュミエルは微笑んだ。

 微笑みは短い。

 短いから、意味が残る。


「やはり、あなたは美しい」


 褒め言葉はいつも突然だ。

 私は受け取り方が分からない。

 分からないまま、逃げないで居ようとする。


「例えば、強制切断が無く、いつまでも悩んで居られるとしたらどうでしょう?」

「……私なら、いつまでも決められない」

「えぇ。その間、私はどういう思いで待ちますか?」


 その瞬間、私は理解した。

 私が決めないことは、私だけの問題じゃない。

 決めない時間が、リュミエルの心を削る。


 長い時を過ごしていても、いつブロックされるか分からない。

 ほんの些細な衝突で、ブロックされて二度と会えない。

 その不安を、私はリュミエルに渡したままになる。


 私は、昨夜の自分の言葉を思い出す。


──『ここで暮らしたい』。


 言っただけで、相手の未来を揺らしていた。


「分かりましたか?あなたは、ずっと私の心を壊すスイッチを無自覚に掴んでいるんです」


 私は手に持ったiPhoneの重さを確かめるように握った。

 黒い角が掌に当たる。

 当たる痛みが今日の現実だった。


 私が決めないことがリュミエルの不安を増やしていた。

 私は遅れて気付く。

 気付いたから胸が痛い。


 私は決断した。

 決断は大きな音を立てない。

 でも、私の中で確かに固まった。


 ただ、最後に一つだけ確かめたい。

 確かめないまま言えば、私の決断が『逃げ』になる気がした。

 私は自分の人生から逃げたくない。


「最後に一つ、質問させてくれませんか?」


 リュミエルは頷いた。

 エルフは嘘を吐かない。

 だから頷きが重い。


「どんなことでも」


 私は呼吸を整えた。

 私なら言える。

 そう思わないと、言葉が折れる。


 リュミエルの指先が僅かに動いた。

 それが私の質問の重さを量っているみたいに見える。

 私は目線を逸らさない。

 逸らした瞬間、私の決断が崩れる気がした。


 私は一度だけ瞬きをして、肺の奥まで息を入れた。

 吐く時、肩の力が少しだけ抜ける。

 それでも、怖い。

 怖いまま言う。


 静寂は時々、知ったか振りの表情をする。

 私はその表情に騙されないように、言葉を落とす。


「私を選んだ理由を教えてください」

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― 新着の感想 ―
単純に凄いなと感動しました。 強制切断が出て来て、どういうリスクなんだろうと思って読み進めていましたが、それはリスクではなくお互いに対しての平等のシステムだった。 ミユにとっては、悩むための時間であ…
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