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「引き受ける人」の名前  作者: straycat
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第2話 直訳してはいけなかった言葉

ここから先は、

辞書に載っている意味ではなく、

もしこの言葉が、そのまま使われていたら

という想像の話になります。


史実の検証でも、

正しい翻訳を決める話でもありません。


ただ、

言葉が社会に置かれたとき、

人の役割や負担が

どう見え方を変えるのか。


そんなことを、

少しだけ現実寄りの例で考えてみる章です。


重たい結論は出しません。

「そんな見方もあるかもしれない」

くらいで。

もし、あの単語がそのまま日本語に置かれていたら。


 ふと、そんなことを考えた。


 undertaker。

 請負人。


 特別な意味はない。

 英雄でも、指導者でもない。

 ただ、誰かがやらないといけないことを引き受ける人だ。


 これを、そのまま

 「請負人」

 として日本語にしたら、どうなっていただろう。


 たぶん、最初は便利だったと思う。


 会議で誰かが言う。


 「じゃあ、ここは請負人を決めましょう」


 分かりやすい。

 役割もはっきりする。


 ところが、少し時間が経つと、

 だんだん雲行きが怪しくなる。


 「前も引き受けてくれましたよね?」

 「慣れてるから、今回もお願いします」

 「他に適任がいないので」


 理由はいつももっともらしい。


 請負人は、

 別に偉いわけでも、権限があるわけでもない。

 ただ、断らなかっただけだ。


 それなのに、

 気づけば呼ばれる回数が増えている。


 しかも不思議なことに、

 引き受けた仕事がうまくいくと、

 それは「当たり前」になる。


 うまくいかなかったときだけ、

 責任がはっきり見える。


 ――まあ、そういう役回りだよね。


 いつの間にか、

 そんな一言で片づけられる。


 もし「請負人」という言葉が、

 正式な役割として定着していたら、

 きっとこうなっていただろう。


 請負人がいる前提で、

 物事が進む。


 請負人が疲れても、

 代わりは探されない。


 だって、

 「請負人なんだから」。


 考えてみれば、

 これはそれほど珍しい話ではない。


 実際の職場でも、

 名前のない役割はたくさんある。


 トラブル対応係。

 話をまとめる人。

 最後に決める人。


 呼び名はないけれど、

 役割だけは、なぜか固定されている。


 ここで、少し立ち止まる。


 もし翻訳者が、

 この未来をうっすら想像していたとしたら。


 もし

 「この言葉をそのまま置くと、

  誰かが静かに消耗する」

 と感じていたとしたら。


 そのとき、

 別の言葉を選びたくなる気持ちも、

 分からなくはない。


 たとえば、

 企業家。


 会社を作る人。

 事業を起こす人。

 リスクを取る人。


 そこには、

 「自分で選んだ」

 というニュアンスがある。


 少なくとも、

 いつの間にか押し付けられた役割、

 という感じはしない。


 もちろん、

 undertaker と企業家は同じではない。


 無理のある訳だと思う。


 それでも、

 「請負人」をそのまま置くよりは、

 まだ安全だったのかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、

 また仕事の通知が鳴った。


 現実は、

 思考実験を待ってくれない。


 ただ一つ言えるのは、

 言葉には、

 置いてはいけない場所がある、

 ということだ。


 直訳すれば正しい。

 でも、正しい場所に置かなければ、

 人は守られない。


 undertaker を

 そのまま訳さなかった誰かは、

 もしかすると、

 そのことを一番よく分かっていたのかもしれない。


 ――かもしれない、だけだけど。

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