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06.お兄ちゃん

「これが桜庭ってどういう事なの?」


「奏多は確かに事故に遭った。そして死んでしまった。損傷一つ無くても確かに死んだ。不幸な事故で。

そしてそれは古くから伝わる水の神様の呪いなの。」


「呪い?何を言ってるのおばあちゃん。

呪いなんてそんなものあるわけ無いじゃない。」


「詳しい事は式が終わって弔問客が居なくなってから話すからね。」



祖母の突拍子の無い話に全くついていけなかった。

祖母を問い詰めようと思った時、父が私達に声を掛けた。



「そろそろ閉じるよ。お別れちゃんと出来た?」


「!まだ、ちょっと待って。」

(カナちゃん。痛かったよね、苦しかったよね。でももう痛くないよね。ゆっくり眠ってね。またね。)



心の中で叔父の冥福を祈りながら叔父の手を握って最後の握手をした。

安らかな顔をした叔父の手は、とても冷たかった。


やっと、やっと理解した。実感した。

叔父は…………死んだ……………。

もう会えない、話せない。……もう起きない。

たくさん遊んでくれた事、一緒に買い物に行った事、こっそりお菓子を買ってくれて、でも結局バレて叱られた事。

年齢が近い分叔父というより兄のようで、いつもくっついて回ってた。

小さい私が奏多兄ちゃんと呼ぼうとして呼べなくて、カナちゃんと呼ぶようになった。

幼いながらに、照れ臭そうに笑うカナちゃんの顔だけははっきり覚えてる。



「カナちゃん……早いよ………

  死んじゃうの…早いよぉ………。」



今、初めて涙が溢れた。

喪服を着ても実感できなかった叔父の死を、漸く受け入れたのだ。


もうすぐ弔問客が訪れる時間だ。

いくら握りしめても温まることの無い叔父の手を棺に戻し、その場を離れた。

父の手で再び棺は閉じられ、鍵を厳重に掛けた。

棺の小窓が閉じられていた理由ははっきりわかった。

不自然すぎる程綺麗な遺体だ。ある意味見せられない事は確かだった。



「結希。また明日出棺前にもう一度開けて、今度は皆でお別れしような。」


「…?もう開けないって言ったじゃん。」


「開けないかもとは言ったけど断定はしなかったじゃないか。

結希ちゃんはうっかりさんですねぇ。」


「………………お父さん」


「何だい?」


「大嫌い」


「そんな!!!」



父にそう吐き捨てた私は居間を出た。

冗談だなんだと喚き散らす父の声を背に、

さっきまであった疎外感や無力感はもうどこにも無かった。

祖母は父なんぞと違って嘘や冗談を言わない人だ。

嘘が大嫌いで、私と叔父が嘘をついた時はしこたま怒られた。

そんな祖母が『話す』と言っていた。


違和感も疑問も解決して無いし、呪いなんて物まで出てきて考えるだけ無駄な気がする。



取り敢えずお坊さん対応、お茶汲みをする!


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