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05.桜庭

さっきから義伯父を探すがなかなか見つからない。

泊まり用の荷物はそのままだから帰ってはいないと思う。

義伯父はすることが無かったから退屈で散歩にでも出たのだろうか。

そう思いながら歩き回ってると、伯母の部屋から話し声が聞こえた。


「あの子は大丈夫なのか?」


「どういう意味よ」


「奏多くんがあんなことになって一番驚いただろうに」


「まだ受け止めきれてないんだもの仕方ないじゃない。

だからあなたも来たんでしょ」


「それはそうだが予定どおりに行くかどうか…」


「奏多も分かってた。結希が生まれたとき……

いや、奏多が生まれたときから。」


(生まれたときから……?どういう事?)


「さっき朝倉が結希ちゃんに余計な事を言っていたんだ。

お義母さんが咄嗟に止めたが少し遅かった。」


「なんですって!あの男は本当に余計な事しかしないわね!

昔からそうだった……私にも陽人にも付きまとって……」


伯母の声が段々すすり泣く声に変わっていった…。


「母さんも何であんな奴の所に就職なんかさせたのよ……

アイツが条件を守るわけ無かったのに………。」


「奏多くん自らって言うのは本人から少し聞いてたが」


「桜庭の家も大概だけどアイツは別格よ。業が違う。」


「朝倉はこの辺りで唯一神社の鳥居を潜れない人だからな…。」


「結希は気づいてるわよね…何か変だって……」


「だろうな……」


(やっぱり私以外は皆何か知ってるんだ…)


「今夜のお通夜が終わったらお義母さんに聞いてみような」


「そうね、もう朝倉達も帰ったわよね。そろそろ戻りましょう」


(まずい!)

足音を立てないように伯母の部屋の前から離れた。

伯母達の言っていた事は私が聞きたかった事の大半の答えでもあり、また新たな疑問を生むものだった。

義伯父も知っていたんだ……皆知っていたんだ…。

何も知らないのは私だけだったんだ。


フラフラと廊下を歩いていると前から父が歩いてきた。

父は私の様子を見て、何かを察したようだ。



「結希、こっちへおいで。」


「お父さん…」


「弔問客が来るのはもう少し後だ。奏多に会いに行こう。」


「でも…」


「奏多も結希とお別れの挨拶をしたいだろうからな。

大丈夫だからおいで。」



父に連れられて、居間へとやって来た。

朝倉さん達は既に帰っていた。

祖母も母も私と父の様子を黙って見つめていた。



「お父さん………この遺影……本当にカナちゃんなの?」


「そうだよ。奏多だよ。正月に撮った写真だ。」


「その写真なら私もスマホに入ってるよ、でも……全然顔が違うよ…。誰なのこれは。」


「結希。まずは奏多に会おう。

暫く鍵を掛けるんだ、明日も開けられるかわからないからこれが最後かもしれないんだ。

結希が気になってる事も、式が終わってから話すから。」


「何で鍵を掛けるの?」


「見たら分かるよ、ほらおいで。」


父に促されて棺の側まで行く。

鍵を掛けるほどに酷いんだろうか…ちゃんと見れるだろうか…。

父が棺の蓋を開けた。

叔父の姿が見えてきた……

どれほど痛々しい姿なの…か……………え。


「え?は??何で……は?」


「ははははっ、大パニックだな」


「だって、事故って聞いてて…レイちゃんが損傷が激しいって…」


「そうだ、奏多は事故に遭った。姉さんは何も嘘は言っていない。」


「おかしいじゃない!

足場の鉄骨に潰されたって……こんな…こんな……、

こんなに綺麗な姿の訳がないじゃない!!!」



棺の中には、ただ穏やかに眠っているような叔父の遺体があった。

今にも目を覚ましそうで、ドッキリだよって笑って起き上がりそうな姿だった。



「これが桜庭なんだよ。」


祖母の声が静かに響いた。

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