40.目印
「桜庭が呪われる事以上の不運って何なんだ?」
「そんなの知るわけ無いじゃない!!何となくそう思っただけだもん!」
「そ…そうか。悪かった。は…話の続きだ。な?な?
父さんやじいちゃんが本物の桜庭だったから身代わりの役目を引き受けたって事でいいんだよな?」
(話逸らしたな……。
普段のお父さんなら出来なかっただろうに。)
「そうよ。結希が話した朝倉の呪いを守るために。」
「そもそも本物の桜庭である必要性は何なんだ?」
「さぁ…………、結希わかる?」
祖母は急に私に話を振った。知らないふりをして。
そんなのわかるわけ……あ…れ…?………わかった。
「……水神様が教えてくれるんだ。
本物の桜庭だけが察知出来る、朝倉の危機を。
本物だけが理解できる、血の重要性を。
朝倉の危機は即ち神様達の目覚めの危機だから。
朝倉が何処で何をしていようが、命の危機は必ず桜庭当主に移される。
だから命の危機に遭った朝倉は奇跡のように目覚め、
桜庭当主は何もない所で突然死ぬ。
多分本人的には突然では無いんだろうけどね。
おじいちゃんが1年意識不明でも生きていたのは……わからない。
けど、神様達による呪いの力を少し狂わせる何かが働いた。」
知らない事、予想でしかない事なのにペラペラと動く口を止めない事だけ意識してみた。
水神様どうこうについてはピンと来なかったが、口が勝手に話すのと似たようなものかと思っておく。
「本物の桜庭以外の人達では身代わりになれないのか?
危機の察知は本物しか出来なくても、死ぬのは誰でもいいのでは?」
「どうして?なりたいの?身代わり。」
「なりたい…訳じゃないが…。
もし将来…結希が身代わりになるなら……。
代われるなら……って…思って……。
16年前の失敗を挽回出来るかもしれない………って。」
父が懸念したのは私の将来。
話の流れから、叔父も私も身代わりの役目を果たさないといけないと思ったのだ。
叔父が死んだ今次の身代わりは確実に私になる……と。
(別に私16年前の事は気にしてないのにな。
お父さんは……気にしてたのかな?
もしかしてその時怒られたのがよっぽど堪えたとか?)
そんな父の様子を感じた祖母は、無情にも父の望みを切り捨てた。
「貴方の気持ちは痛い程わかるけど、おそらく無理よ。
隆延以前は呪いなんて無かったのに当主は本物が務めてきた。その必要があったの。
隆延も、もしかしたら当主ではなくて当主代理だったのかも。
表向きは隆延が当主で本当の当主は兄だったか、
代替りを正式に済ませず父親が当主のままだった…とかね。
当主が本物である必要性、それを知らない隆延。
そして本物じゃない桜庭が呪いをもたらした。
穢された水神様は、これまで以上に本物に固執するようになった。
穢れの回復で眠る事になっても桜庭への守りは続いた。それは目印が有ったから。
朝倉は咎を目印にしたように、桜庭の目印は本物の当主の力だった。
目印を中心に血族を守り、目印に向かって朝倉の危機を移す。
だから本物ではない桜庭の人間は目印として機能しないの。
………過去にも貴方みたいに思った人達がいたのよ。
私が見た資料の中にたくさん書いてあった。
そして決して誰も、成功しなかった………。」
「……………そう……なのか。」
祖母の言葉に意気消沈した父は肩を落として俯いた。
祖母も同じだったのだろう。握った拳が震えている。
父が私をを案じたように、祖母も叔父を案じたのだ。
…………我が子だから。
祖母は桜庭の血筋では無いが、何とかしたいと思って祖父から受け取った資料を読み漁った。
何人もの先人の記録を調べ上げ、不可能だと知ったのだ。
伯母は、悔しげに拳を握り締める父の背を擦っていた。




