30.水神の守り
朝倉育築(山崎樹) 破門された陰陽師の家系
↑名前逆かな…。
「……間抜けってどう言うこと?」
伯母が珍しく言葉を発した。表情から感情は全く読み取れない。
「あんたは…まぁ呪いに敏感だったんだろう。麻生の子孫を避けてたようだし。間抜けは言いすぎたよ、悪かった。
桜庭奏多の兄貴。お前も隆延と比べたらまだマシか。だが間抜けに変わりはねぇ。
我が子のピンチを見てなかったって事だろうが。」
「それは、「それはもう十二分に叱ったから貴方が気にすることじゃないわ」……母さん…。」
「陽人さんは娘や奏多くんに魚を食べさせたくて必死だっただけよ。」
「菖蒲「今度やったらはっ倒して離婚だって言ったからいいの。」……すいません。」
「貴方の言う間抜けが何を指すのか何となくわかったわ。」
「…姉さん?」
「人の言葉を簡単に信じてしまう、笑えるくらい人が良すぎるって意味で間抜けね。それなら納得よ。陽人はそっち寄りだもの。」
「……姉さん…。」
家族からの攻撃でボコボコにされた父は、実に間抜けだった。壁を殴った手だって、今頃痛んできたのか擦ってる。
「ん"っん"っん"っ。陽人くんはアホみたいに優しいと言うことでいいね。
えと…、姪が溺れた事について話して貰おうか。」
義伯父は一応フォローをしたつもりなのか、このなんとも言えない間抜けな空気を強制終了させた。…フォローになってないけどね。
「俺はあの子を溺れさそうなんて1ミリも思ってない。川の上流…と言ってもそんなに遠くない場所の岩を転がすんだ。
そもそも俺に水を操る力は無い。
五行はわかるだろう。陰陽五行思想の五行。
朝倉家は土に強い家だった。陰陽師を名乗れなくなったって特性が完全に消えるわけじゃない。五行相剋によれば土は水に強いんだ。
でもそれは力が拮抗している場合だけ。力の差が大きければ逆転する。
朝倉家の力はそもそも弱かった。安倍陰陽師一門の傍系と名乗っていいのかわからない程弱いんだ。俺の力では小川は辛うじて止めれても、大河を止める事は出来ない。
桜庭は陰陽師家系では無かったが、水の守りがとても大きかった。
隆延を呪う前に気付くべきだった。朝倉が呪われた時に気付いたがもう後の祭りだ。
だから世代を越えて、血を繋いで、この山崎樹の代で朝倉の呪いに終止符を打ちたかった。
だからあの川であの女の子を殺そうと考えた。上流の大きな岩を塞き止める"中くらいの岩"、それは動かせない。でも中くらいの岩を塞き止める"小さな石"ならなんとか動かせる。
それだけの力しか繋げなかったが、陰陽師が殆どいなくなったこの時代ならば充分だと思った。
そして…岩を動かした。」
(岩なんか有ったかな?はっきり覚えてないや…。)
そう考えていると、祖母の視線を感じた。おそらく岩の事を聞いてるらしい。
有ったか無かったかもわからないので首をひねって不明だとアピールをする。
私のアピールが伝わったのか、祖母は話を続けた。
「では動かした後、どうなったんですか。」
「……川が………川が子供を隠したんだ!大きな川のうねりが子供を飲み込んだ!その子は流れることもなくただ水の中で……ふわふわと…その場に居たんだ。
岩も、地面についてた筈が浮いたんだ。木の葉みたいに流れて行った。
あの子は川に守られて、桜庭奏多は雨に守られる。水が桜庭を守ってるんだ……。
麻生の子孫の話も似たようなもんだろ。室内の雨は知ってる。桜庭出身者を殺せなかったのはそれが原因だったから。雨が全てを遮るんだ。暗殺不可となりその場を去る時に聞こえた言葉は『溺れるかと思った』だ。
室内の雨を見た俺は意味不明だったよ、軽い小雨みたいだったから。始めは雨漏りと勘違いした程だ。」
「『懺悔の時、償いの時』って言葉はわかるか?」
「さぁ………あぁ、事故のタイミングだったか?なら最終通告みたいなものじゃないのか?俺は聞いてないから知らないが。
なぁ………。」
育築は朝倉からの質問に答えた後、祖母に向かって問い掛けた。
「あれは何なんだ?あんなに強い水の守りを持つ奴は陰陽師だった時も見た事ない。
あんな大きな水のばけ…………待て。お前達、水神信仰の家か?」
「そうよ、水神様を祀ってる。化身は水龍…かしら。見たことはないけど御神体が水龍像だから。」
「水龍……ははっ………俺は水神に手を出してたのか。
大きな目は水神だったんだな……。」
陰陽五行思想
陰陽思想(陰と陽)と五行思想(木・火・土・金・水)が合わさってできた。陰陽道の基礎。
・五行相生
木は火を生む、火は土(灰)を生む、土は金(金属の元等)を生む、金は水(冷えると水滴)を生む、水は木を生む。
・五行相剋(克)
木は土に勝つ(木が土を締め付ける)、土は水に勝つ(土が水をせき止める)、水は火に勝つ(水が火を消す)、火は金に勝つ(火が金属を溶かす)、金は木に勝つ(金属の刃が木を伐る)
・五行相侮 相剋が逆転。 本作の朝倉育築。
例 : 本来土が水をせき止めるが、水が強すぎて土が流される(土石流みたいな感じ)
・五行相乗 相剋が更に過剰になった。




