02.実家にて
桜庭陽人[はると](46) 結希の父で長男
桜庭菖蒲[あやめ](45) 結希の母で旧姓は瑞樹
田牧麗花[れいか](49) 結希の伯母で桜庭家長女
田牧晃太[こうた](51) 伯母の夫で義伯父
桜庭志乃[しの](69) 結希の祖母
午後3時過ぎ、私は実家の前にいた。
家の玄関を開けるとすぐに香ってきた線香の香り。
嗅ぎ慣れない香りに噎せそうなのを堪えて家の中に入る。
居間に入るなり目についたのは、控えめな祭壇に飾られた笑顔の無い叔父の遺影だった。
叔父はこんな顔だっただろうか。
天真爛漫では無かったが穏やかに微笑む人だった。
記憶の中の叔父は優しくて、でもイタズラ好きでよく私と一緒に叱られていた。
立ち尽くす私に気付いた祖母が声をかけてくれていたが、私は答えることができなかった。
あまりにも違いすぎて混乱していたのだ。
これは誰なんだろう、家を間違えたんじゃないか、その考えだけが頭を支配していた。
「───結希ちゃん」
ふと聞こえた声は母の物だった。
それほど大きな声ではなかった筈なのに、何故かはっきり聞こえた。
混乱していた頭がだんだん落ち着いてきて今の状況を思い出した。
(カナちゃんのお通夜なんだっけ。)
「結希、奏多にお線香あげてね」
祖母の言葉にゆっくりと歩き出す。
祭壇の前に座り、手を合わせる。
遺影を近くで見つめると、やっぱり別人みたいだ。
別に痩けてる訳でも太ってる訳でもない。何かが違うのだ。
棺の中を見てみようと思ったが小窓が閉じられていた。
「結希ちゃん、お顔を見るのはもう少し落ち着いてからがいいよ」
職場での事故としか聞いていなかったが、もしかしたら損傷が激しいのかもしれない。
棺の中を見るのは一旦諦めて祖母達の元へ行くと、正月ぶりの親族一同殆どが揃っていた。
祖母、父、母、伯母、義伯父。
「みんな久しぶり。」
「久しぶり、結希ちゃん。」
「結希、遅かったな。」
「仕方ないでしょ、数日休む分の仕事今日終わらせてたんだから。」
挨拶も早々に義伯父に文句を言われてしまった。
彼の性格的に文句ではなく只の感想なのだろうが、会社でのイラつきを思い出してしまった。
それを察したのかどうかは知らないが、これ以上何か言われることは無かった。
『葬式』というものは祖父以来だ。もうすぐ七回忌の法要ではなかっただろうか。
祖母も伯母も母も和装の喪服に身を包み準備を整えていた。喪主は父が務めるらしい。
私は洋装でいいとの事なので、持ってきた喪服に着替えるため脱衣所へ向かった。
軽くシャワーを済ませてから着替えてメイクも整えた。
両親も叔父も実家に住んでいて、私は就職すると同時に職場に近いアパートに引っ越した。
自室に荷物を置いてから居間に戻ったら、数名の弔問客が来ていた。叔父の職場の人らしい。
弔問客対応は主に祖母や両親が担当するので、私は伯母達と別室にいた。
葬儀社の人達とある程度の流れを確認しながら、伯母に詳しい話を聞いてみた。