00.水の中
死ぬとはなんだろう。
心臓が止まること、脳が機能しなくなること。
あるいは心が死ぬこと。
何を以て死とするかなど哲学者のような思想は持っていないが
ほんの少しだけ気になったのだ。
普通に歩いていただけだった。
只の帰り道、いつも通る帰り道。
何も変わらない………筈だった。
寄り道もせず、毎日のほんの一部。
いつもの服装で、同じ時間、同じ場所。
一つだけ違うことがあった。
それは、少しだけ雨が降っていたその一つだけ。
久しぶりの雨だった。
それ自体も今まで無かったなんて事じゃない。
なのに、それなのに私は今、水の底へ沈んでいく。
泳げって?
何故だか指先ひとつ動かせない。
こんなに頭は回るのに、体はちっとも反応しない。
息だって苦しくなってきた。
私は死ぬのだろうか…。
何があったかなんて、そんなの自分でもわからない。
特に痛みは感じない。
ただ突然、水の中にいたのだ。
通り道にある川は足首ほどしかない筈だ。
どんどん沈んでいく…。
どんどん苦しくなっていく……。
あたまが回らなくなっていく………。
……いしきがとおくなっていく………
………なんで…………なんで………………しに……た……………く…………………な……。