【最終話.元婚約者の謝罪】
フリーダがウェブスター公爵夫人に連れられて行ってしまうと、コルウェル伯爵夫人はメルディアーナの肩をそっと抱いてやった。
「酷い男と婚約させてごめんね」
「そーよ、お母さま! 婚約者選ぶなら、もっとちゃんとした人にしてほしかったわ!」
ここぞとばかりにメルディーアなはブーブー文句を言う。
するとコルウェル伯爵夫人は「ほほほ」と笑って、
「マーシェル王子みたいな?」
と聞き返した。
メルディアーナは途端に赤面した。
「マ、マママ、マーシェル王子とまでは言わないけどぉ~」
「じゃ、ギルバート?」
「な、なんでそれを!」
「ぶっちゃけマーシェル王子とギルバート、どっちがいいのです?」
「あわわわわ……。それ言ったらお母さまに頭ごなしに怒られるやつ!」
「怒らないから言ってごらんなさい」
「いーや怒るね。バカ娘って罵るね。ずっと言われてきたしね」
恥ずかしさももちろんあるが、警戒心丸出しのメルディアーナを見てコルウェル伯爵夫人は内心「ぷっ」と吹き出す。
「えーえー。まあ言ってきました。でもここはちゃんと言ってしまった方がいいわよ。今日は怒らないから」
「……」
信用しきれないメルディアーナがじろっと母を見るので、コルウェル伯爵夫人は頭を掻いた。
「信用無いわね。言えばいいことありますよ」
メルディアーナは状況を把握しようとした。
母はなぜだかいろいろ分かっているようだ。メルディアーナがマーシェル王子を好きなのはもちろん知っているのだが、ギルバートにプロポーズされたこともなぜか知っている!
そして、メルディアーナの心の中に誰がいるか分かってるくせに、今ここでその名を言わせようとする――ここ、王宮で。
そんなのもはや企みでしかないのでは。
メルディアーナは母の企みに乗ってやることにした。
「マーシェル王子。今も昔も」
「よく言ったわね」
コルウェル伯爵夫人は微笑んだ。
しかしメルディアーナは笑えない。気味が悪い顔でメルディアーナが母を見ていると、バタンと先ほどの内扉が開いてマーシェル王子が喜びで顔を輝かせながら大股で近寄ってきた。
「メルディアーナ!」
「お、王子!? 何となくそうかとは思いましたが、何でここに?」
「メルディアーナ会わせてくれと頼んだのは私なんだ」
「はあ。え、ええと?」
この展開には戸惑うメルディアーナだった。
だってあの日、王妃主催の園遊会のときは、私が塔の令嬢だと明かしたのに素っ気なくて。マジでただの片想い、こっそり推しを続けるつもりでいましたぁ!
それに今日この場所に母に連れてこられたのもフリーダの呼び出しの件だったんじゃないの? マーシェル王子と会う予定っていうのは?
メルディアーナが母を問い詰めるような目で見ると、コルウェル伯爵夫人は苦笑した。
「マーシェル王子からもウェブスター公爵夫人からも頼まれたんで、まあ、同時にね。効率的でしょう?」
しれッとした顔で答える。
「私もダナンとフリーダの件、相談に加わったよ」
とマーシェル王子がにっこりするので、メルディアーナはますます嵌められたんだなと思った。
「まじっすかー」
「混乱させて悪かった。私はずっとあの塔の令嬢を探していたんだ。メルディアーナだと分かって気持ちが固まった。私と一緒になってほしい」
「わわわ」
「君の気持ちもつい今さっき聞かせてもらったことだし」
「あ、そりゃまあ。でもあれは私の推し活の話で、結婚とは話が別で」
メルディアーナが慌てていると、そこへ王妃が応接室の扉から部屋に入ってきた。
「ええ。少々身分がアレですけど、マーシェルの希望ならよろしいわ。マーシェルの王位継承権は今は5位以下ですし、コルウェル伯爵家の令嬢と婚約しても、国内の貴族は文句言わないでしょう」
「王妃様!?」
メルディアーナがバッと振り返る。
「あんな誰でもOKなパーティ開いたくらいだもの、私だってマーシェルが気に入るなら誰でもいいと思ってたのよ」
「王妃様……」
「ってゆか、あなたマーシェルにダンス申し込んだんですってね! その話を聞いたときは笑ったわーっ!」
けらけらと王妃が思い出し笑いを始めるので、メルディアーナは少し居心地が悪くなった。
「はあ……。お恥ずかしいことをしまして……」
「いいのよいいのよ! 小さい時のあなたも知ってるし、今更ねーっ!」
「小さいとき?」
「よく王子と遊んでくれたでしょ? 庭で二人して七面鳥に追いかけられてるのを見たときは笑ったわーっ! さっき来ていたテルレーズも、あの人あんなにお上品なのに、あのときは堪えきれなかったんでしょうね、プッて噴き出したのよ。あんな無防備なテルレーズを見たのは初めてだったわーっ。七面鳥以来テルレーズも私もすっかりあなたの虜になっちゃってねえ」
王妃が余計な恥ずかしい思い出を持ち出してきたので、メルディアーナはもう穴があったら入りたい気持ちだった。
「うわぁ……」
「ま、オリヴィアが身の程弁えてマーシェルからあなたを遠ざけてるようになっちゃって、楽しみ減っちゃったのを残念に思ってたの。マーシェルはといえば、好きな人いたみたいでどの女性を紹介しても誰にも興味なくってね。マーシェルが探してたのがあなただって分かったときは、アリだと思ったわ!」
王妃は屈託のない笑顔で笑う。
一時期は……夫である現国王と王弟が王位継承権のことで対立を始めたときは、悩み深い顔をしていたのものだったが、もともと長男のデキの悪さにがっかりしていたこともあり、色々吹っ切れてからは人生を楽しむことを心掛けるように決めたらしい。
メルディアーナはポリポリと頭を掻いた。
「はあ……」
そんなメルディアーナに王妃はささっと近寄り耳元でこそっと囁く。
「で、いつマーシェルがあなたのこと好きになったのか、教えてくれない? 何があったの、あなたたち」
母の悪い顔を目ざとく見つけて、マーシェル王子が牽制する。
「母上!」
「ま、結果としては、フッてくれてありがとうだわね、ダナン」
そう言って王妃が応接室の扉の方をにっこにこの笑顔で振り返ると、そこには王室執事の一人に連れられて囚人のように青い顔で突っ立っているダナンがいた。
「ダナン!?」
「ダナン!?」
メルディアーナとマーシェル王子は二人して叫ぶ。
ダナンは母ウェブスター公爵夫人に静かにピリッと怒られた後、王妃に引き渡され、「浮気なんて最低の人間のすることだ」とたっぷり小一時間ほどネチネチ厭味を言われていたらしい。
「ダナン。メルディアーナに言うことあるでしょ?」
と王妃。
「すみませんでした」
もうダナンは抵抗する気力をすっかり失い、下を向いたまま素直に謝った。
「うーん、その謝罪、なんか気に入らないけどまあいいわ。じゃあね、ダナン。愛する人と辺境の孤島で仲良くね」
王妃は執事にダナンをウェブスター公爵夫人に引き渡すよう命じ、ダナンはかっちりした執事によって引き立てられていった。
それから王妃が思い出したように言った。
「あ、3人の婚約者候補は、私が責任を持って良縁を見つけるから安心して。王妃案件で対応します! 実のところ3人には最初からかなり婚約の見込みが薄いことは伝えてあったし、それでもいいって人だけ今後のお話をさせてもらうってことにしてただけだから、理解はしてくれると思うの。でももちろん期待を裏切ることになったのは間違いないし、悪いと思っているから、ちゃんと私が責任を持つわ」
「そうですか」
マーシェル王子も申し訳なさそうな顔をする。
それから申し訳ないついでに、
「ギルバートもね」
と呟いた。
突然マーシェル王子の口からギルバートの名が出て、メルディアーナは飛び上がった。
「ななな、なぜそれを!」
「コルウェル伯爵夫人に聞いた。あと本人にも」
「……!」
「ギルバートも了承済みだ。でも君からも話した方がいいね?」
メルディアーナは真っ赤になった。
王妃が「え? 何それ初耳。どういうこと」といった顔をしている。
マーシェル王子は安心させるようにメルディアーナの手を取った。
「でも、君はギルバートじゃなくて私の名を挙げてくれた」
「……そうですけど。え、本当に私でいいんですか?」
「もちろん。絶対に幸せにするから」
メルディアーナは「いいのかなー?」といった顔でちらっと母の方を見た。
コルウェル伯爵夫人は苦笑している。
「両想いなら文句は言いませんよ。でもあまり浮かれて羽目を外してはダメですよ」
相変わらず釘を刺すことは忘れないで、コルウェル伯爵夫人は頷いた。
(終わり)
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