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第八話 見えない未来

 遙は、暗く静かな森の中を歩きながら、次第に自分の足音だけが響くのを感じていた。

 足元は不安定で、心の中でも同じように足場が崩れていくのを感じていた。

 まだ、答えは出ていない。彼女は過去を捨てることも、背負い続けることもできず、ただ迷いの中にいた。


「私は、一体どうしたいんだろう…?」


 遙は自問自答を繰り返しながら、歩き続けた。

 森の中は静まり返り、木々が生い茂る間から差し込むわずかな光さえも、すぐに暗闇に飲み込まれていく。

 まるで、自分の心の中の迷いを反映するかのような風景だった。


 ふと、遙は足を止めた。

 目の前には、大きな岩が立ち塞がっている。

 その岩の表面には、古びた文字が刻まれていた。

 まるで時の流れに取り残されたように、長い年月を経てその文字は薄れ、わずかな痕跡を残すのみだった。遙はその文字に触れ、静かに目を閉じた。


「これは…」


 過去の記憶が、また蘇ってきた。

 妊活をしていた頃、何度も病院に通い、検査を受け、期待と不安が入り混じった日々。

 それでも、なかなか子供を授かることはできなかった。

 何度も失望し、涙を流し、時には諦めかけたこともあった。


 その頃、遙は自分が無力だと感じていた。

 どうしても望んだ結果が得られず、周りと比べては自分を責め、心の中で小さくなっていった。

 どこかで「このままではいけない」と感じていたが、どうすれば自分を取り戻せるのかが分からなかった。


 そして、あの手紙を見つけたことを思い出す。

 子供を授かるための最後の希望だと思って手にしたその手紙。

 しかし、そこに書かれていた内容は、遙の心をさらに追い詰めるものでしかなかった。

 彼女が望んだものとは違う、冷たい現実がそこにあった。


「私は、どうしてこんなにも迷っているんだろう…」


 遙は岩に寄りかかり、深いため息をついた。

 何度もその問いを自分に投げかけては、答えを見つけられずにいた。

 過去を背負うことで苦しみ、捨てることで新しい自分が生まれると思いながらも、その選択が自分にどれだけの意味を持つのかが分からない。

 何を選んでも、結局自分が何を求めているのかが分からないままでいるような気がしていた。


 その時、背後から声がかかった。


「まだ答えは出ないか?」


 遙は振り返ると、そこにはあの人物が立っていた。彼の顔には、深い沈黙の中で見守るような表情が浮かんでいる。


「あなた…」


 遙は言葉を飲み込みながら、その人物を見つめた。

 彼の目は静かでありながらも、何か深い理解を含んでいるように感じられた。

 遙はその目を見ると、思わず胸が締め付けられるような気がした。


「答えを急ぐ必要はない。だが、選ばなければ、何も変わらない。」


 その言葉に、遙は思わず口を開きかけたが、すぐに言葉が詰まった。

 彼の言う通りだった。

 選ばないことも一つの選択だが、その選択をし続けることは、過去に縛られたままでいることを意味する。


「でも…私は怖い。過去を背負ったままで生きることが、またあの痛みを繰り返すことになるのが怖いんです。」


 遙の声は、震えていた。

 心の奥底から溢れ出す感情が抑えきれなくなる。彼女はその目に涙を浮かべ、視線をそらした。


「過去を背負うことが怖いのか。それなら、過去を捨てることもまた怖いだろう。」


 その人物は静かに言った。

 その言葉に、遙は何も言えずにただうなずくしかなかった。彼の言葉が、深く心に響くのを感じた。


「選ばなければ、何も変わらない。でも、どちらの選択をしても、必ず新しい道が開ける。それが、未来だ。」


 遙はその言葉を胸に深く刻んだ。

 しかし、心の中ではまだ答えが見つからない。

 過去と向き合うことも、捨てることも、どちらも怖くて、どうしても踏み出せない。


「時間をかけて、考えなさい。そして、自分が納得できる答えを見つけるんだ。」


 その人物は微笑んだ。遙は深く息を吸い込み、静かに頷いた。


 彼女は歩き出す。まだ答えが出ない。

 でも、少しずつ自分の中で答えを探し続ける。それが、彼女の選ぶべき道だった。


次回へ続く。

数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


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執筆のモチベーションが大いに高まります!



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