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第四十話 黒い刻印

 廊下での影の騒動が収束してから数時間後、王と遙は城の会議室へと足を運んでいた。

 王の命により、影に関する情報を整理するため、城内で最も知識のある賢者や学者たちが招集されていた。


「報告を。」


 王の低い声が響くと、召集された者たちは一斉に緊張の面持ちでうなずいた。


 一人の年配の賢者が進み出る。


「陛下、この影の性質について、いくつかの手がかりを見つけました。それは……恐らく、『黒い刻印』と呼ばれる古代の呪術に関わるものです。」


「黒い刻印?」


 王の眉が僅かに動いた。


 遙もその言葉に不穏な気配を感じた。


「それは、どういったものなのですか?」


 賢者はゆっくりと頷き、続けた。


「『黒い刻印』は、古代の書物に記された禁忌の術法です。この術を用いる者は、対象の感情や記憶に侵入し、それを操る力を得るとされています。しかし、その代償として、術者自身もまた心を失い、影のような存在へと成り果てる。」


「つまり、あの影は……人だったのか?」


 王が問うと、賢者は険しい表情で答えた。


「可能性はあります。ただ、影の状態にある者はもはや人ではなく、負の感情に囚われた存在です。そして、それが周囲に影響を及ぼすのです。」


 遙はその言葉を聞き、廊下で感じた影の囁きを思い出した。


「『忘れないで』……あの影が言っていました」


「何かを求めているのだろう。」


王が静かに呟く。


 賢者は手元の古びた巻物を広げ、さらに話を続けた。


「この術法は、特に感情の強い者を標的としやすいと言われています。感情に干渉する力を持つ者……遙殿、恐らくあなたも影に狙われる理由があるのでしょう。」


 遙は固く結晶を握りしめた。


「影法師だけではなく、別の存在まで……どうして私がここまで追われなければならないのでしょう。」


「それはあなたの力が、世界にとって重要だからだ。」


 王が断言するように言った。


 その言葉に少し救われた気がしたが、遙はそれでも心の奥底に重くのしかかる不安を感じていた。


 会議の途中、扉を叩く音が響いた。衛兵が駆け込んできて報告する。


「陛下、城の南庭に新たな異変が発生しました。黒い霧が立ち込め、動植物が枯れ始めています!」


 賢者たちがざわつき始める中、王は即座に立ち上がった。


「遙、来るか?」


 遙もすぐに立ち上がり、深く息を吸い込んでからうなずいた。


「はい」


 二人は急ぎ南庭へと向かった。



 南庭に到着すると、一面に黒い霧が漂い、草木が枯れ果てていた。

 空気は重く淀み、近づくにつれて遙の胸が苦しくなる。


「遙、大丈夫か?」


 王が気遣う声をかける。


「ええ……でも、この霧……感情が濃縮されているみたいです。何か強い力が近くにある」


 遙は霧の中を見つめながら言った。


 霧の中心には、一人の影のような存在が立っていた。

 それは廊下で見た影とは異なり、はっきりとした形をしていた。

 長いローブを纏い、その顔は黒い仮面で覆われている。


「お前がこの現象を起こしているのか。」


 王が問いかけると、その影は静かに笑ったようだった。


「久しいな、王よ。そして……遙。」


 影の声は低く響き、二人を睨みつけた。


「私たちの名を知っている……?」


 遙は驚きつつも、その言葉に不穏な意図を感じた。


「お前たちに選ばせてやろう。」


 影は手を掲げ、黒い霧がさらに濃くなった。


「私の元へ来るか、全てを失うかだ。」


 その言葉と共に、霧の中から無数の影が現れ、二人を囲むように動き始めた。


「遙、私の背を守れ。」


 王は剣を抜き放ち、鋭い眼差しで影を見据えた。


「わかりました」


 遙も結晶を手にし、影の動きを警戒した。


 二人を包む不気味な霧の中、闇との対決が今、始まろうとしていた――。


数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


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