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第四話 霧の中の謎

遥の足元に冷たい空気が流れ込む。謁見の間の窓の外から漂ってきた霧は、今や城内を覆い尽くすほど濃くなっていた。壁に取り付けられた青白い光も、その濃密な霧によって霞み、空間全体が不気味な暗闇に包まれていく。


「この霧、一体何が起きてるの……?」

遥が呟いたその時、背後に控えていた住人の一人が突如足を踏み出した。


「駄目です!そこへ行ってはいけない!」

叫ぼうとするが間に合わない。住人の手が霧の中に飲み込まれる。その瞬間、彼の身体が硬直し、苦悶の表情を浮かべたまま動かなくなった。


「なんで止まらないの……?」

遥は恐怖に震えながらも手を伸ばそうとする。しかし、王が静かにその手を掴んだ。


「無駄だ。助けることはできない。」

王の声は冷徹だったが、その瞳には一瞬だけ深い悲しみが宿っていた。


「この影、一体何なんですか?」

遥の問いに、王はゆっくりと視線を向けた。


「影は、この城に取り憑いた呪いそのものだ。」

「呪い……?」


王は立ち上がり、広間を歩きながら説明を続けた。

「この城はかつて、国中の人々の願いと希望が込められた場所だった。しかし、ある時から人々の感情が歪み始め、絶望がこの城を侵した。そして、その絶望が形を成したものが、この影だ。」


「歪んだ感情……?」

遥は自分の胸にある記憶を思い返す。彼女自身もまた、失望や孤独を抱えて生きていた。そしてそれが、この世界とどこか重なり合うように思えた。


王が指を鳴らすと、部屋の中央に一冊の古びた書物が現れた。

「お前には、この影を祓う力がある。だが、それを完全に使いこなすには、この書に記された儀式を行う必要がある。」


遥は戸惑いながらもその本を手に取る。表紙には見たことのない文字が刻まれていたが、なぜか内容は自然と理解できた。


「でも、どうして私なんですか?」

遥の問いに、王は一瞬黙り込んだ後、静かに答えた。

「お前がこの城に選ばれたのは、お前の中にある強い感情だ。お前自身も、まだそれを知らないかもしれないがな。」


遥はその言葉に胸がざわつくのを感じた。自分の中にある強い感情とは何なのか――それを考える暇もなく、再び霧の中から影が現れた。


霧の中から、遥に向かって影が伸びてくる。その動きは生き物のようでありながら、どこか人の執念を感じさせるものだった。


「来るな!」

遥は本能的に叫びながら、本に書かれた呪文を口にした。すると彼女の手のひらに小さな光の球が生まれ、それが徐々に大きく膨らんでいった。


「その力で影を焼き払え!」

王の声が響く中、遥は光の球を影に向けて放った。


光が影に触れた瞬間、影は叫び声のような音を上げながら霧の中に消えていく。しかし、同時に遥の胸には重い疲労感が押し寄せた。


「こんな……力が……」

彼女は膝をつき、呼吸を整えようとする。その姿を見つめる王は、静かに近づき彼女に手を差し出した。


「お前には時間がない。この城を蝕む呪いは、今もなお強くなり続けている。」

王の言葉に遥は震えながらも立ち上がった。その視線には、先ほどまでの不安や恐れはなく、次第に覚悟が宿っていく。


「やるしかないんですね。」

遥の言葉に、王は小さく頷いた。


その時、霧の中からかすかに人の声が聞こえた。それは遥の耳にどこか懐かしく、胸を締めつけるような響きだった。


「……母さん?」


遥は声のする方を振り返る。その先には、霧の中にぼんやりと浮かび上がる人影が見えた。その姿に遥の胸はさらにざわめいた――。


(次回へ続く)

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