第二十一話 心の闇と向き合う時
遙は静かに王宮の廊下を歩きながら、自分の心の中で揺れる感情を整理しようとしていた。
影法師との対話を重ねるたびに、自分の力がどこまで暴走するのか、もしくは制御できるのかという不安がますます膨らんでいた。
感情を奪う力、その背後に隠された真実を知りたいと思いながらも、同時にその力が自分をどこに導いていくのかが恐ろしい。
「あなたが本当にそれを望むのなら、もっと力を使いこなさなければならない。」
影法師の声が耳に響く。
あの冷たくも魅力的な声が、遥を誘惑するように囁きかけてきた。
そのたびに、遥の心は引き裂かれるような感覚に襲われる。
影法師は彼女が抱える闇そのものであり、同時に遥の中に潜む闇を引き出す力を持っている。
自分の力を使うことで、影法師は遥を試し、導こうとしているのだろうか?
だが、その一方で、王の言葉が遙の心に残る。
「後悔しないように選ぶことだ。その選択を貫く覚悟を持って進みなさい」
王の優しさに、遥は何度も心を揺さぶられていた。王の言葉が真実であったとしても、自分の力が誰かを傷つける可能性があることを、遥は感じていた。
それが何よりも恐ろしい。
「遙様、どうかされましたか?」
ふと、声をかけられて遥は我に返った。
目の前には王宮の側近が立っていた。
彼の顔には、わずかな心配の色が浮かんでいるが、遥にはそれがなぜか疎ましく感じられた。
彼の優しさも、遥には理解しきれないものになってきていた。
「私は…」
遥は言葉を止めて、視線を下に落とした。
どうしてこんなに迷ってしまったのか、どうしてこんなにも自分を信じられなくなったのか。
感情の中で葛藤し続ける自分に、遥はふと気づく。
「遙様?」
と側近が再度声をかけてきたが、その声は遥の耳にはほとんど届いていない。
心の中で影法師の言葉が鳴り響き、遥は目を閉じた。彼女はそのまま歩き続ける。
王宮の庭園に到着すると、遙は一息つき、ふと視線を上げた。
そこには、今まで見たことがないような淡い光を放つ花が咲いていた。
その花は、無音の城のことを思い出させるものだった。
何か大切なことを思い出しそうで、でもそれを思い出すことができない。
その感覚が、遥の心を重くしていた。
「遙様」
再度、側近の声が響く。
「私は…」
遥は再び口を開く。
「私は、過去を捨てることができない。夫とのこと、妊活のこと、すべてがまだ私の中で終わっていない。でも、今を選ばなければならない。」
その言葉に、側近はしばらく黙って立っていた。そして、ようやく静かに言葉を発した。
「遙様、あなたが抱える痛みや悩みを、誰もが理解できるわけではありません。でも、あなたが選ぶべき道は、遙様自身が決めることです。誰かのために生きることも、重要ですが、それよりもまずは自分自身の気持ちを大切にしてほしい。」
その言葉に、遥は少しだけ心が軽くなるのを感じた。
彼の言葉が本当に理解できるかどうかはわからなかったが、少なくとも今はその言葉に耳を傾けることができた。
「ありがとう」
と、遙は小さな声で答えた。
その後、遥は一人になり、静かな場所で再び思索を深める。
無音の城、影法師、王の言葉。
それらが交錯する中で、遥は自分が選ぶべき道を見つけ出さなければならない。
そして、選んだ道がどれだけ自分を傷つけるものであろうと、それを貫かなければならないのだと。
その時、突然、遥の耳にひとつの音が響いた。
それは、確かに物理的な音ではなく、心の中に響いた音だった。
それはあたかも、遥が捉えた「感情」の残滓が動き出したかのような音だった。
遥はその音を感じながら、深い闇の中で何かを見失わないようにと、自らを鼓舞した。
「私は…前に進まなければならない。」
その言葉を心の中で呟きながら、遥はその一歩を踏み出す覚悟を決めた。
(次回に続く)
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