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第十八話 霧の中の呼び声

 遥は窓の外に目を凝らした。

 庭園を覆う薄い霧が、まるで何かを隠しているように、夜の闇と混ざり合いながら漂っている。

 その中で確かに感じる――

 遥を誘うような、不穏な気配を。


「ここで止まるべきか、それとも……」


 迷いの中、遥は王の言葉を思い出した。「お前の力を狙う存在がいる」という忠告が胸をよぎる。

 だが、その一方で、この気配を放置することはできないという思いが膨らんでいた。


 遥は意を決し、マントを羽織ると、そっと部屋の扉を開けた。

 夜更けの王宮の廊下は静まり返り、遠くでかすかに響く衛兵の足音だけが耳に届く。

 慎重に足音を殺しながら庭園へ向かう遥の心には、不安と緊張が入り混じっていた。


 庭園にたどり着くと、霧は思った以上に濃く、視界がほとんど奪われていた。

 冷たい空気が肌を刺し、どこか異質な重苦しさが漂っている。


「この先に……何がいるの?」


 遥は足を進めるたびに感じる得体の知れない気配に身を震わせた。やがて、霧の中から微かな声が響く。


「……来たのか。」


 それは低く囁くような声だったが、遥の心に直接響くかのように聞こえた。その声には、不思議な懐かしさと、言葉では説明できない恐ろしさが同時に宿っていた。


「誰?」


 遥が問いかけると、霧の奥からゆっくりと人影が現れた。影法師ではない。

 だが、似たような漆黒の輪郭を持ち、その姿は不安定で、明確な形をとどめていない。


「私は……お前が捨てた感情の残滓だ。」


 その言葉に、遥は目を見開いた。


「捨てた感情の……残滓?」


 人影は静かに頷いたように見えた。


「お前が触れた者たちから奪った感情。その一部は完全には消え去らず、こうして形を成している。お前の力が強ければ強いほど、私もまた強くなる。そして……」


 その声が一瞬途切れる。人影は遥に一歩近づき、言葉を続けた。


「私はお前を追い続ける。お前自身の感情を奪い尽くすまで。」


 その言葉に、遥は思わず後ずさりした。自分が持つ能力の代償――

 それがこんな形で現れるとは予想していなかった。


「なぜ……私を追うの?」


 遥の問いかけに、人影は一瞬沈黙した後、低い声で答えた。


「お前は他者の感情を癒やすたびに、自分の感情を薄れさせている。その均衡が崩れた時、私は完全な存在となる。お前を守るための存在として、あるいは……」


 そこで言葉を切った人影の視線は、冷たく、しかしどこか哀しげだった。

 その様子に遥の心はかき乱された。


「それなら、どうすればいいの? あなたを止める方法はあるの?」


 遥が問いかけると、人影はわずかに笑ったように見えた。

 そして、霧の中に溶けるように消えながら、最後にこう告げた。


「それを知るために、お前はさらに進むしかない。自分の選択を、過去を、そして未来を――見つめる覚悟があるならな」


 静寂が戻った庭園に、遥は一人立ち尽くした。胸の中には恐れと混乱、そして微かな決意が渦巻いていた。

 この「残滓」との邂逅が何を意味するのか、それを探るために進まなければならない。


「私は……進むしかないんだ。」


 遥は深く息を吸い、震える手をぎゅっと握りしめた。

 その感覚は、彼女が歩むべき道がより厳しいものであることを暗示していた。


(次回に続く)

数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


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