第十四話 新たな道
遙は王宮の庭を歩きながら、心の中でいくつもの感情が交錯しているのを感じていた。
王の言葉が耳に残る。
「過去を捨てるか、それとも今を選ぶか、どちらかを。」その言葉の重みを胸に刻みながらも、彼女は何度もその選択を繰り返し考えていた。
「もし、あの時、過去を捨てていたら…」
と、頭の中で問いかけることはやめられなかった。 しかし、今の自分にとって過去は切り離すことのできないものであり、それが彼女を支えていることも事実だった。
庭の一角に差し込む陽光が、遙の顔に優しく触れる。
その温かさに包まれながら、遙はふと足を止めた。
目の前に広がる景色は、どこか静けさを感じさせるもので、彼女の心の中の迷いと混乱が少しずつ収まっていくような気がした。
「遙」
その声に、遙は振り向いた。そこに立っていたのは、あの王だった。
彼の姿が遠くからでもはっきりと見える。無駄のない動きで、王は静かに歩み寄ってきた。
「遙、お前の心はどうだ?」
王の声は、いつもとは少し違っていた。いつも冷徹で威厳に満ちたそれではなく、どこか心配そうな響きがあった。
「心は…まだ揺れているわ」
遙は少しだけためらいながらも、王に答えた。
自分でもはっきりとした答えを出せていないことが、どこか心苦しい。
「過去に囚われるな。」
王は静かに言った。
その言葉には、強い意志が込められていた。
「お前が選んだ道には、必ず意味があるはずだ。後悔は不要だ。」
遙は王の言葉を受け止める。
過去を捨てることができなければ、今を選ぶこともできない。
過去の自分を背負ったまま前に進んでいくのか、それともその重荷を下ろし、完全に新しい道を選ぶのか。
どちらにしても、遙には選択が迫られていた。
「でも、過去を捨てきれない」
遙は声を震わせながら言った。
「あの頃の私が、今の私を作ったのだから」
「それでも、前に進むべきだ。」
王は強く言った。
彼の言葉に込められた力は、遙の心に響くものがあった。
「お前が過去を背負い続けることで、次に進むことができないのなら、それは本当の意味で過去に支配されていることになる」
遙はしばらく黙って王を見つめていた。
王の言葉には、ただの支配者としての冷徹さはなかった。
むしろ、彼の言葉には、彼自身の経験から来る深い何かがあるように感じられた。
それが遙にとって、ますます心の中で響いてくる。
「私には…まだ答えが見えない」
遙はふっとため息をつき、地面を見つめながら言った。
「でも、進まなくてはならないのは分かっている」
「遙。」
王は彼女の目をしっかりと見つめながら言った。
「お前の選択を、誰も否定はしない。ただ、後悔しないように、それを選び続ける覚悟を持て」
遙はその言葉を胸に刻むように頷いた。
そして、王の目を見返すと、心の中で何かが少しだけ軽くなったように感じた。
確かに、過去の自分を捨てることはできない。
でも、過去に縛られたまま未来を歩むわけにはいかない。
「ありがとう」
遙は静かに言った。
王は一瞬だけ微笑んだ。
そして、その微笑みの中に、何かを感じ取ったような気がした。
それは、今後の二人の関係において、重要な何かを意味するような、そんな予感だった。
遙は深呼吸をし、再び前を向いた。
王宮の広大な庭を眺めながら、彼女は自分の歩むべき道を少しずつ見つけていくのだと、強く感じることができた。
(次回に続く)
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