第十二話 選択の先に
遙は王宮の大広間に足を踏み入れると、静けさが彼女を圧倒した。
選択の先に待っている未来に対する不安が胸を締めつけ、心の中で過去の記憶が次々と浮かび上がる。
妊活のこと、夫との関係、失われた時間――
すべてが、今も遙を縛り続けていた。
「遙、戻ったか。」
その声が響いた。遙はふと振り返り、王が立っているのを見た。
彼の目には厳しさがあり、しかしその中に何か優しさのようなものも見え隠れしている。
それが遙には、ますます複雑な気持ちを抱かせた。
「はい」
遙は無意識に答えたが、心はどこか遠くを見ていた。
王宮の広間は広大で、冷たい装飾がその空間に重々しい圧力をかけている。
遙はその空間の中で、自分がここにいる意味を改めて感じていた。
選んだ道が本当に正しいのか、過去に対する後悔や葛藤を抱えたまま、今この場に立っている自分に迷いがあった。
「遙。」
王が歩み寄ってきて、その目が遙をじっと見つめる。
「どうして、過去を捨てきれない?」
王の問いかけに、遙は一瞬動揺した。
「捨てられません。」
遙は答えた。
その言葉には、深い胸のうちで渦巻く感情がこもっていた。
夫との関係、妊活のこと、そして自分の心が抱える孤独――
それらすべてが、過去として切り離すことができない。
王は一歩踏み出し、その手を差し伸べる。
遙はその手を見つめながら、何を言うべきか分からなかった。
王の言葉が、彼女の心に響いてくる。
過去に囚われている自分をどうにかしたいと願いながらも、そこから一歩踏み出すことが怖かった。
「あなたが選んだ道は、後悔しないように進むしかない」
王は静かに言った。
その言葉に遙は深く息を吐き、心の中で選択を迫られる。
今、目の前にある道は過去を捨てることではなく、今の自分を受け入れ、進むことだと彼女は感じた。
しかし、そこには強い覚悟が必要だ。遙は少しだけ目を閉じ、心を落ち着ける。
「過去を捨てることはできません。私の中で、まだすべてが繋がっているから」
遙はつぶやいた。王がその言葉にどう反応するかを予想しながら。
王はそのまま静かに頷き、遙の目を見つめ続けた。
「ならば、後悔しない選択を」
王は静かに言った。その声には、強さと優しさが混ざっていた。
遙は深く息を吐き、王の言葉を胸に刻んだ。
過去の後悔、現在の葛藤、そして未来への不安――
それらすべてを抱えながら、彼女は一歩を踏み出す覚悟を決める。
「ありがとう」
遙は小さく言った。
王は微かに微笑み、その表情に何かが込められているように感じた。
遙はその微笑みを心に刻みながら、王宮を後にする。まだ見ぬ未来が彼女を待っている。
その未来に対する不安は消えないが、今は前に進むしかないと感じていた。
(次回に続く)
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