セミ、いる
「にゃー」
ノルウェージャンフォレストキャットのサハラが鳴いた。あくびがてら。
「おう、サハラが鳴いた」
外はふつうに宇宙。サハラはしばらくそれを眺めていたが、さすがに飽きたようすでキャットタワーから降りた。
「にゃーん」
「そうね」
クリーム色の猫、はるちゃんは手を毛づくろいしながらサハラに同意した。
「砂漠のセミを着用したいなあ」
「どうやって」
小山さんの奇妙な発言に、大苗さんは呆れたように言った。
「ほら、抜け殻をひろって、バッヂみたいにですね」
「そうですか……」
大苗さんはそう言って、カーペットの上で寝ころびかけた。すると、すぐに大苗さんは「うわっ!!」と声を上げた。
「だれかお煎餅落としました?」
「お煎餅?」
「というか、なんですかこれは……うわっ」
「あ、セミの抜け殻」
小山さんはうれしそうに声を上げた。大苗さんの手からセミの抜け殻を受け取ると、笑う。
「いるんじゃないですか。セミ。」
「い、いるんですか?」
大苗さんは泣きそうな声で言った。すると小山さんはうれしそうにうなずいた。
「きっと。抜け殻があるなら、そのへんで羽を乾かして……もう鳴くかもしれない」
「ええええ」
すると、部屋じゅうがいきなり騒音にあふれた。
セミの鳴き声が、はじめの一瞬だけ試すように、それから勢いよく高らかに響いた。
「みーんみんみんみんみん!」
「ぎゃー!」
大苗さんは悲鳴を上げた。
はるちゃんは「ひゃー」と逃げ出し、バックヤードへ。
サハラは興味深そうに探し回り、吠える柴犬ゴビとともに壁の一点を見る。
「セミだ、いるぞ」
「みんみんみんみん……」
元気すぎる子供くらいの声。サハラは狩りの姿勢を取り、飛びついた。
「わー、とれたのね」
おびえたように物陰から見ていたはるちゃんが、よって来て眺めた。サハラはセミを軽く噛むと、逃げられないように羽や足をかるくつぶした。そして、もがくところへ、すこしじゃれつく。
「子供っぽい……あの、いらないから」
サハラによって近くに落とされたセミを見て、はるちゃんは興味なさげに立ち去る。
サハラはしばらくセミであそんでいた。
いつもならサハラをなでたり褒めたりしている大苗さんは、全く 近寄らない。そこへ小山さんは自信ありげに言った。
「こりゃ、セミのいる砂漠に行けるのも時間の問題ですな」
「まあ、アザラシ人のいる宇宙に行けるくらいですし……生きてるうちに、行けたらいいですね」
と、大苗さん。
「行けますよ!ぜったい!」
小山さんはむやみに元気ぶって言った。
お読みいただきありがとうございました。