生まれ変わったその先に(転生トリップ)
ある日突然、俺の人生は終わりを告げた。
思えば、あまり幸運とは言えない生だったような気がする。
幼い頃の記憶はあまり思い出したくないものだし、それ以降も順風満帆とは言い難いもの。
そして十八の身空で通り魔に刺されて死亡――だなんて、世間一般で見れば不幸、というのだろう。
もしもまた人に生まれることが出来たなら、平凡でいい、温かな家族が欲しい……確かに、そう思っていた。
そりゃあ、確かに、愛されたいとは思っていたけれど。
「え、と…」
「好きだ。愛してる。結婚しよう」
まさかこんなに熱烈に愛を語られるとは思わなかった。
地球という惑星――世界に生まれ、十八歳で死んだ時、俺は確かに男だった。
けれど気がつけば再び生まれ落ちたのだが……生憎、前世と同じように家族には恵まれず。明らかに違う所と言えば、どうやらそこが地球とは違う世界であるらしいことと、性別が女になっていたこと。
生まれた時は自分が所謂転生と呼ばれるものを経験したという自覚はあった。けれど、ある程度成長するまで、「私」という意識は眠っていたようで、気がつけば、ぼろぼろにくたびれた服を着て、路上で物乞いをしていた。
それは多分、三歳の時だったと思う。
徐々に徐々に前世のことを思い出して、その時の知識を活かし、何とか二年程生き延びた。
けれども、盗んだパンも凍りついてなかなか食べられないような寒い冬のある日、ひとり凍死しかけていたところを、ある相手に拾われた。
それは、この世界で魔族と呼ばれる力を持った存在の侯爵家の次男だった。
温かな寝床、温かな食事。
ただ拾ってくれただけでなく、なんと家族の一員として、育ててくれた。
魔族とは魔法や魔術を扱うのに必要な魔力を人の数百倍も備えている、力に溢れた種族だ。
魔力の量が多いせいか、寿命も人の五倍程長く、一気に老衰して儚くなるまで、いつまでも若々しい。
だから、私にとって拾ってくれたその人は、父のようでもあり、兄のようにも思っていた。
大切な大切な、家族。
魔族はあまり人間に良い感情を抱いていないのだけれど――争いをあまり好まないので、魔族からは干渉することが少なかったのに対し、人間は魔族を恐れて勝手に攻撃を繰り返してきた歴史があるからだ――私は、人にしては珍しい程に魔力を持っており、あまりに幼く不憫だったようで、出来た性格の彼らは、私を快く迎え入れてくれたのだ。
前世では決して得られなかった、家族の温もり。私が一番欲していたものを、彼らはくれた。
生まれ変わって性別が変われば、身体に心もつられるのか、前世の記憶こそあるものの、私はすっかり少女としての生活に馴染み、思考も変わったように思う。
確かに、今の自分に恋愛嗜好を聞かれれば、男性を相手に考えるだろう。けれど、まさに交際どころか結婚を申し込んできたのは、予想だにしなかった相手――私を拾ってくれたひとだった。
ええと、あの、なんて困っている内に、家族全員がやってきて、いつの間にやらおめでたいとどんちゃん騒ぎになり、あれよあれよという間に、結婚式が明日に迫っていた。
確かに、あのひとは好きだ。敬愛している。誰よりも造作も性格も優れているように思うし、この世界で一番好きなひとだろう。でも、結婚、と考えるとよくわからない。
ひとり悩みながら自室で膝を抱えて考え込んでいると、来客の合図があり、ドアが開かれた。
立っていたのは、明日結婚する相手。
「俺のことが嫌いか」
そう、彼がたずねてきたことに、驚いた。
そんなはずがないとぶんぶん首を横に振れば、では、他に結婚してもいいという相手がいるかと聞かれ。
いない、と答えた。
「俺との結婚は嫌か」
嫌じゃない、と答えて、ふと気付いた。
嫌じゃ、ないのだ。前世の記憶から、結婚が意味することなど知っている。夫婦となることが嫌ではないのだと気づいて、他の誰かでは嫌だということにも、考えが至った。
つまり、それは。
悩むこともなく――わかりきっていてもおかしくなかったこと。
「好きです」
脈絡もなく答えた瞬間、息が出来なくなった。
この世界のひとはスキンシップが多いなーと、拾われてからこの方、家族皆に頬や額に口づけを落とされまくった身としては、てっきり数年前から彼に唇に口づけられるようになったのも、その延長だとばかり考えていたのだけれど……数日後に、流石に唇は特別である、と教えられるのだった。
元々魔力の高い人間であれば、婚姻を経ると魔族の仲間入りを果たすのだということで。
彼らは色々とすったもんだありつつも、割合幸せに暮らしていくのです。
さらっと読める転生ものを書こうと思ったのに何故かこんな話に。あれえ?
最近短編ばっかりでごめんなさい、なかなか筆が進まず…。