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すりーぴんぐなう。(未完)

気づけば転生していたんですが、自分が眠っていて動けませんでした。

そんなお話。



転生しました。

前世の記憶を思い出しました。

――生憎いつも夢の中なので、正直転生した感覚はありません。

――そんな風に思っていたら、いきなり幽体離脱できるようになりました。



「じゃじゃーん!」


――わんわん、と犬に吠えられ、人には無視されました。というか気づいてもらえませんでした。





さて、ここはどうも街の入口のようです。

高く頑丈そうな外壁に囲まれた街。

ちら、と後ろを振り向くと、ひょこひょこと動く尻尾。キャラメル色をベースに黒い縞模様が入り、裏側は真っ白な三色の毛足の長い尻尾は、どう見ても猫のそれは、私のお尻から生えています。

猫も好きですが、どちらかというと私は犬派なのですが……。

尻尾の先には半透明な白糸が、すーっと伸びています。

その先は恐らく、私の「身体」がある、この街の隣に広がる深い森の中。

アンテナというか、有線ケーブルというか、身体と繋がっている証かな、なんて、前世知識で考えて。




「案ずるより産むが易し!いざ!」


門番の連れている犬に吠え立てられながら、あっさりと門をくぐって街に入ってしまいました。



「ふおぉぉ~」


思わず妙な声をあげたものの、その声を聴くものはおろか、その姿を捉えているものもいない。

門を通り、彼女が目にしたものは、彼女の『前世知識』で言うところの『中世ヨーロッパ』な街並みであった。

石畳が敷き詰められた道は荷車が数台行き交える程広く、真っ直ぐに伸びた道の周りには多くの店が並んでいた。


「いまからはじまるぼうけんのはーなし♪まーずはせかいをしりましょう♪」


思わず上機嫌で歌いながら歩き出した彼女は――数歩進んだ所で悲鳴を上げた。


「降りる降りる降りる降りるー!!」


空中で宙ぶらりん。

外壁よりも高い位置で逆さまになって街を見ている形。

何故そんなことになったかというと、『幽体ならなんで歩いてるんだろう?空飛べたりするのかな?』なんてちらりと余計なことを考えてしまったからであった。

暫くして、何とか地上に戻ってきた彼女は思った。


「……やっぱり人間、地面を歩く方がいい」


げっそりと肩を落として恐怖体験を終え、街の隅っこで思わず膝を抱えて座り込んでしまったのだった。

尻尾もどこか毛艶がよろしくないようだった。


思い返せば、前世では高所恐怖症気味だった。

そんな今更な知識はいらない、と項垂れる彼女は、実態が無いにも関わらず、飛行の恐怖がまだ残っているようで、ガタガタ震えていた。

隅っこで丸くなってガタガタ震えているなんて端から見れば如何にもアブナイ人だが、幸い幽体だと感知されるのは動物くらいか。

あまり見慣れない人種の人びと――目鼻立ちがはっきりしていて、髪と目の色が異なる、言うなれば欧州あたりの容姿の彼らが、彼女に気付く様子はまるでなく。


ぽつんとひとり、ただそこに彼女はいた。


居ないもののように扱われることは、苦痛だと知っている。

けれども現状は、実際に存在を認識すらされていない。

野良猫が胡散臭そうな目付きでじろりとこちらを見遣り、フンと鼻を鳴らして通り過ぎて行った他に、世界のものから彼女へのアクションはなかった。


「――帰りたいなぁ……」


ぽつりと呟く。

前世であればきっと、好奇心旺盛に動き回り、建造物を観察しまくり、屋台を冷やかして回っていただろうに。



――世界に、温かみのある色が見えない。

そして急激に落ちた気分が、自身の存在への問いに変わる。

本当に自分は、生きているのか?

それらの複雑な想いが紡いだのが、先程の一言だった。

『帰る場所』がなければ逃げ道がない。

顔が今にも泣き出しそうな空模様になったところで――初めて聞く声が届いた。


「……どうしたの?」


少し高めの澄んだ声。

聖歌を歌わせたらさぞかし綺麗だろうと思える声に顔を上げると、小さな少年が一人、こちらを見ていた。

ぼさぼさの頭はくすんだ榛色。

長い前髪の隙間から覗いた瞳は――鮮やかな青海。

その目は、じっと彼女に向けられていた。


まさか……本物の、美・少・年!だと……!!




「髪の毛整えて身綺麗にしたら絶対そうだ……!」


「……どうしたの?」




ぼそりと呟いた声は少年には届いていない。


首を傾げて、再度彼女に問い掛ける。


しっかりと顔は見えていないが、彼女の美形アンテナは恐らく狂っていないと断定していた。


驚きのあまり涙は引っ込んでいる。


まさか、はじめて自分を認識してくれたのが、美少年なんて――なんと言う物語的展開か。


挙動不審な彼女に、再び声をかける少年。


怪訝そうな表情から、明らかに彼女に言っていることがわかった。




「……え、と……迷子?になってた」


「――君、まだ生きてるでしょう?あんまり身体から離れてふらふらしてると、戻れなくなるよ」




淡々と紡がれた言葉に、目が点になった。


驚き桃の木山椒の木!


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