因果の糸 ―ある狼の独白―
「ねえ、『・・・』、怖いよ……」
世界の全てが複雑怪奇に見えるのだと彼女は言った。
全てのことには因果がある。
だからこそ、砂や土や全てのものが繋がっている――彼女の目には、自分自身と、そして不思議なことに飼い狼であるこちらだけは形が判別がつくようだが、その他には皆、生きているものであれば、感情が強いものであればなおのこと、幾重にも糸が繋がったカラクリ人形のように見えていたのだろう。
時には顔全体に糸が巻き付いて、誰なのか判別がつかないということもあったという。
通常の人間には見えず触れることもできないその糸に、彼女は触れる。
不注意で切ってしまってはいけないと、糸を避けて足が縺れて転びかけることも多く、また切れかけた糸を繋ぎ合わせることで代償を支払う姿を見かけ――ずっと、『護りたい』とそう思っていた。
「私を助けてくれる相手なら、この子がいいです」
自らを神と名乗るモノにそう申し出てくれたことが、何より嬉しかった。
人になる代償として、他者の血を啜らねば飢餓に狂うことすら気にならない程に。
彼女を守る盾であり牙であることが誇りなのだから。
何より、代償として彼女自らが血を差し出してくれたことに、歪んだ喜びを感じた。
そして、長い時が流れ。彼女自身は――その血族は知る由もないことだが、『時守』と名を与えられた一族の長は皆……『縁』の血を糧としたことで、その能力の一端を写し得ていた。
呪いによって、彼女の血筋の長姫は、時守と同じく血を糧とする必要がある。
縁結と呼ばれる因果の糸を読み解く力を有する縁家の跡継ぎたる長姫は――女性にしかその力は受け継がれない――総じて身体が弱かった。
しかし、互いに血を与えあうことで時守の強靭さの一部を少しずつ血に取り込み、幼くして死ぬということもなくなった。
ある意味では呪いも役立っているのだろう。
此度の姫はおそらく――『彼女』の生まれ変わり。
ならば呪いの成就も近い。
己がすべきことは決まっている――彼女の願いを優先すること。
それ以外は些末なことにすぎないのだから。