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堕天使の箱庭

残酷表現が多めです。お気をつけください。

――静穏。

獣の遠吠えも止んだ夜闇の中、月の光だけが冷え冷えと降り注ぐ大地の寂れた古い裏路地を、一人の人間が歩いていた。

その足取りは羽根のように軽やかで、足音がほとんど無い。

まっすぐに伸ばされた背筋は、見る者に清々しさを与える程潔かった。それが街中であれば、人々の目を惹き付けるだろう。

……しかし、そこは無法地帯だった。

感じがよくとも、何の意味も無い。

その場所は、都市の中でもとりわけ治安の悪い所で、表には出られない者達の溜り場だったのだ。

正に、力こそ全ての世界。

そんな所を一般人が出歩いていれば、どうぞ襲って下さいと宣言しているようなものだ。

それにその人物は、仕立ての良い闇緑色のコートに白いワンピース、その下に黒いズボンを履いた「少女」だった。

微妙にちぐはぐにも見える格好だが、何にせよ目立つのは確かだ。

肩までの黒髪はさらりと風に流れ、大きな灰青色の瞳は夜の中でも美しい輝きを放つ。

その顔立ちは、大変愛らしかった。

――そんな目立つ人間が、このような場所で無事でいられるはずがない。

まして、どう見ても丸腰なのだ。

明らかにカモと知れているモノを放って置くほど、そこに居る輩の心は善良ではなかった。良心の欠片さえ持ち合わせていないのだ。

不思議なのは、その少女が歩いているのが、巨大な裏路地の中央辺りということだ。

この道に足を踏み込んだ途端に、身ぐるみを剥がされて売り飛ばされていてもおかしくなかったのだが――。


「…よお、別嬪さんがこんな所に何の用だい?」

「襲われに来たのかぁ?」

「じゃー俺たちが遊んでやるよ!」


ぎゃははは、と品の無い笑い声を立て合う、路地の隅に居た男達に取り囲まれて、少女は足を止めた。

じっと、無表情のまま男たちを見回す。

一人一人順番に顔を見ていき――ある男の顔を目にした途端、ぴたりと視線を固定した。

そして、可愛らしい顔とは反対に、生唾を飲むほど妖艶な笑みを一つ刻む。

同時に、甘く誘うような香りが少女から漂ってきた。


「――…っ」


ごきゅり、と男達は唾を嚥下する。

相手の目には獲物を狙う補食者のそれが宿っていたのだが、愚かな男共はそれに気付かない。

寧ろ、少女が視線を巡らせたのは多少驚いただけで、その笑顔は逆に覚悟を決めて誘っているのだと都合の良いように曲解された。

にたりと笑って、男達が少女に触れようとした所――。

男の一人に視線を定めたまま、赤い唇が開いて、音を紡いだ。


「…見つけた」


それは、嬉々とした声音だった。

意外なことに少々低音の声に男達はわずかに面食らったが、また下卑た笑いを上げて、少女に見つめられている男自身が、選ばれたのは己かと、他者への優越を感じつつ相手を引き寄せようと手を伸ばす。

その瞬間、


「何だ、俺が好みだったのか? 嬢ちゃん――」


――すとん、と音がした。


「…え?」


……何が起こったのかわからない、と男達は目を白黒する。

突如、笑みを湛える愛らしい少女を残し、男達は皆、足が立たなくなって、地面に膝をついたのだ。

力を入れようにも、足が動かない。

数秒して、少女に触れようとした男はようやく己の異変に気付き、叫び声を上げた。


「う、腕が…俺の腕がああ!!」


――男は、右の手首から先が無かった。


「うっせえなー」


呆れたような声を、少女は発した。

汚れた地面に無造作にごろりと転がっている男の手をつま先で軽く蹴り付けてから、何を思ったか、非常に渋い表情を作って、それを拾い上げる。


「ほんとなら寸刻みにしてやる所だが…まあいいか。若干抵触はしたが、決定的な言葉は言ってねーからな。拾わないとサイがうるせーし…」


そう呟いて、ぼたぼたと血を垂らしながら悶え叫ぶ男に一歩近づく。

男は痛みに転げ回りながらも、近づいてくる者への怖れがそれに勝り、顔一面に怯えを浮かべた。

――少女の手には、月光に反射して光る、銀色の刀身のナイフが一本、握られていた。


「ひっ、く、くるなあ!!」


ナイフから、男の血とわかる赤い液体が滴っていることも、男の恐怖を増長させた。

男は後退るが、後ろが壁とわかって、絶望的な顔をした。


「…こんな格好してるから悪いのかもしんねーけど」


少女は笑った。

…その瞳に、剣呑な色を宿して。


「俺はなぁ、女に間違われるのが何より嫌いなんだ…よ!!」


――どすっ!


「ひっ…!」


闇の中で、灰青の瞳が煌めいた。

男たちは恐怖のあまり身動きすら出来ない。

手首を切り落とされた男は、顔の真横で壁に垂直に突き刺されたナイフの刃を見て、震え上がった。


「ひ…ひ…っ」

「あーもう、めんどいなー」


ぶつぶつと呟いて、少女は男の腕を掴むと、切り落とした手と断面を合わせる。

ひゅう、と感心したように息を吐き、


「さっすが特別製のオリハルコン。切断面は綺麗に切れてる。…治しやすくて便利なことで」


身動きが取れないでいる男を放って、少女はマイペースに事を運ぶ。

震える男を放ったまま、切断面を強く引き合わせ、上からそこを握ると、


「――『繋げ』」


端的に、その一言を発した。

その瞬間、仄かな光が男の手首をとりまく。

淡い橙色の光だった。

何かの囁きのような小さな音がして、光は消える。


「――あー、積み立てなくなったかぁ…ちっ…」


意味のわからないことを言い、低く舌打ちをした少女に男たちは怯えた。


「な…な…」


ぱくぱくと魚のように口を開閉させる男に、少女はにやり、と悪役のような笑みを浮かべ、


「――ま、でもこれで給料入るからいいか。動くなよてめーら…って動けないよな。いつもながら科学班の作った香水は抜群の効き目だ」


ぽい、と放るようにして男の腕を離す。

男達は息を呑んだ。


「う…腕が…っ」


何事もなかったかのように、傷跡一つなく、その腕は繋がり、血が通っていたのだ。

男達は、背筋にぞっと悪寒が走るのを感じた。


「ば…化け物…!」

「はあ? 失礼な。俺が化けもんだったら他の奴らは何だっつーの」


けっ、と吐き捨てて、少女は壁に刺さったままだったナイフを抜いた。

柄の部分をくるりと回すと、それを外して、中から小さな黒い機械を取り出す。

かちり、と何かスイッチのようなものを押すと、


『――はい』


機械から声がした。

それは冷たく、感情も抑揚も一切無い声だった。


「あーもしもし、サイ? 標的確保した…はず。おい、お前」


機械に話し掛けていた少女が突然振り向いて、先刻、手を斬った男に言う。


「な、なんだ…っ」


震えながら、返事をしなければまずいと本能が警鐘を鳴らすままに口を開いていた。


「ち、返事しやがった…無視したら殴ろうと思ってたのに…」


ぼそりと言われた思いっきり不穏な台詞に、男が自分の本能に深く感謝したことは言うまでもない。


「お前、昨日脱獄した、囚人ナンバーG‐925に間違いないな?」


ものすごく不満そうな顔で問われ、脂汗をかきながらも、男は必死に頷いた。

きちんと返事をしなければ、己の身が危ないことは身に染みてわかっていたのだ。


「――ってことでサイ。捕まえといたから回収班頼む」


少女が機械にそう言うと。


『…やだ』


むくれたような声でそんな言葉が返された。


「じゃ、頼む…ってはぁ!?」


当然ながら了承が返ってくると思っていた少女は、正反対の応えに声を荒げる。


「何言ってんだ馬鹿!」

『…タマが馬鹿。私を置いて勝手に行ったくせに』

「誰がタマだと!? 猫みたいに呼ぶな!!」


激昂する少女に返る言葉はそっけない。


『タマはタマ。それに、タマが猫の名前なんて決め付けるのは差別。犬だってカメだってタマって名前でもおかしくない』

「何でカメ!? …いや、んなことは今はどーでもいい! 早く仕事しろ!」

『やだ』

「やだじゃねえ! お前プロの自覚あんのか! 仕事しなかったらユートに怒られるだけだからな!?」

『…そしたらタマのせいにするから大丈夫』

「ふっざけんな! 何が大丈夫だぼけ、早くしろ!」


怒りの形相で機械に向けて怒鳴るように少女が叫ぶ、が。


「――タマが置いてったの謝るならちゃんとする」

「お前な、わがままも――」


ぴた、と少女は動きを止めた。

……今、機械の向こうからではなく、直に耳に声が届かなかったか?


「――タマの馬鹿阿呆極悪人」

「…っ!」


振り向いた先には、一人の人間が立っていた。

短い金茶色の髪、同色の瞳は切れ長で感情を持たない。

細面の容貌には、性別を超越した美しさがある。

男にも女にも見えるその人物は、紺色の長いコートに身を包んでおり、服装からも性の判断がつけにくかった。

耳にあてた機械を握る長く細い指を持つ右手とは別に、左手はコートのポケットに無造作に突っ込まれている。


「おまっ…なんで!」


少女が驚愕に目を見開くと、相手の、精巧な人形のように美しく、表情のまるでなかった顔に、ほんの少しぶすくれたような色が浮かんだ。


「勝手に置いていくから追い掛けてきたんだ、タマの間抜け冷血漢」


機械を右手ごとポケットに収めた相手に言われ、少女はがしがしと頭を掻いた。


「だーっ、この馬鹿!何の為に俺がお前を置いてきたと思ってんだ! …いや、それ以前にお前、俺を一体何だと思ってる!?」

「…タマ?」

「お前泣かすぞ!!」

「…それ、無理。私の方がタマより強い」

「こいつは…っ」


あまりの憎たらしさにぎりぎりと奥歯を噛み締め、つい相手の首に手をかけそうになったが、少女は必死で自分を押さえ込んだ。

……落ち着け、落ち着けと自身を宥めて。


「…サイ。お前な、一応女なんだぞ?」

「…だから?」


身を落ち着かせようと息を吐きながら少女が言った言葉に、金茶の美形――会話からすると女であるらしい――は首を傾げた。

それに、少女は機械のスイッチを切ってナイフに収納しながらため息をついて言う。


「女の方が確実にこういう地域は危険だし、お前がいくら強くても、万が一ってこともあるだろ。だから、今回の仕事がここに潜伏してる脱獄犯を捕まえることって聞いてから、お前には現場に行く代わりにサポートを頼むって言ったのに…」

「男女差別。…私よりタマの方が可愛いから危ない。…万が一もないから、大丈夫」

「可愛いって言うな! ――そーやってどうしても着いてきそうに見えたから、わざわざ夜中に抜け出したっつーのに……あーもう、わかったよ、わーかーりーまーしーたー。俺が悪かったです、すいませんー」


少女がどこぞの不良のごとく、身近に居た男を一人踏みながら謝ると、金茶髪はわずかに口の端を上げた。


「…ん。よし。…じゃ、連絡する…」


いそいそと機械を再び取り出し、連絡を始める金茶髪。

……少女に踏まれて悲鳴を上げる男は、全く気にもされていなかった。


「任務完了。回収班は――」

「やれやれ…」


機械に、事務的に淡々と話し掛ける金茶髪を見て、少女は肩を落とす。

なんだかとても、疲労感がした。

心配しただけ損だった。

こうなるともう己が馬鹿らしく思えると、少女は脱力する。

――まさかそこへ、命知らずな台詞が聞こえるなどと思わずに。


「ちくしょう…なんで俺が、こんなひょろい女に…!」


男達の一人が呻くように漏らした声だった。

愚かなその仲間に、這いずりながらも、脱獄犯の男を見捨てて自分だけは逃げようとしていた他の二、三人が、憤慨したような、それでいて絶望的な声を上げた。

――その男が一番物分かりが悪く、他の輩の方が弱者と強者の区別が付いたらしい。

何はともあれ、たった今発言した男は――地雷を踏んだのだ。

――――ゴキリ。


「ぎ…!」


地についていた手の甲を、物凄い力で踏まれた男は、手の骨が折れて、その痛みに声にならない悲鳴をあげる。

男の手をぐりぐりと踏み潰しながら、『少女』は、地獄の使者のように恐ろしく低い声で囁いた。


「…今、なんつった?」

「ぎゃああ…!!い、痛え、痛え!た…助け、」


バキッと、殴打の音が響く。

ブーツの爪先で頬を蹴り付けられた男は、脳が揺さぶられた感覚と痛みで一瞬意識が飛んだ。


「…寝てんじゃねーよ」


ごり、と固い大地に頭をこすりつけられて意識が戻ってくる。

『少女』は、戦慄を招く笑みを浮かべていた。


「お前なんつったよ。…俺が女だって言ったよな、お・ん・なだって?」


確認しながら、剣の先を男の手の平に食い込ませる。男は絶叫した。


「まだはっきりとそう口にしないでいたなら、見逃してやったのに――言いやがったな? 俺はなあ…俺は、れっきとした、男なんだよ!!」


ばさり、と服が宙を舞う。

白いワンピースのスカートは、空気を孕んで膨らみながら、地面に落ちた。

髪の毛を手早く紐で結わえる。

脱ぎ捨てた下には、黒いシャツ。

黒いズボンと揃えで、明らかに男物の服だ。

先程までの愛らしい「少女」は消え、その場に、見かけに反し残忍な光を目に宿した一人の「少年」が顕現した。


「――はーいそこ、逃げるな?」


何とか逃亡を謀ろうとしていた残りの男達は、その声にぎくりと停止した。


「…なあ、お前らも、俺のこと女だと思ったんだろ?」


静かな問い掛けに、怯えきった男達は必死に首を横に振ったが、無意味だった。

艶然とした笑みが少年の顔に刻まれる。

――目が、完全に据わっていた。


「…決定。せいぜい喚け」


すう、と真横に上げた少年の右腕に、蛇のように炎が纏い付く。

その炎は美しかった。

赤でもあり橙でもあり、僅かに青白さを宿した焔は、それ自体に意思があるかのように蠢いている。


「公開処刑だ」


愉しげに笑う少年は、怒りながらも笑顔なだけにとてつもなく恐ろしい。

炎が揺らめき――


「『燃やせ』」


――紅蓮の火が舞った。


「ぎゃあああっ!」

「火が、火がぁぁ!!」


発火したのは男達の衣服。

ごう、と勢いよく赤く燃え上がり、あっという間に火は人体にまで触手をのばそうとしていた。

しかし、その間の僅かな時間に、


「――水縛」


小さな、凛とした声。

その呟きと共に、水瓶を引っ繰り返したような大量の液体が――ざばりと辺りに降り掛かった。

恐怖にのたうち回っていた男達は、丸焦げにならなかったことを信じてもいない神に感謝しながら、何故己が助かったのか理解出来ない内に、皆意識を失っていた。


「――タマ、やりすぎ」


一枚の紙片を細い指に挟んだまま、金茶髪は非難の声を上げる。少年は内心舌打ちしながら肩を怒らせた。


「…そいつらが禁句を言うからだ」

「…しょうがない。タマ、可愛いし」

「可愛い言うな! つかタマも言うな!!」

「……タマ」

「…てめえ、いい度胸してんじゃねえか、ああん?」


襟首を掴んでがっくんがっくん揺さ振られても表情を変えず、相手は、いつの間にかさらりと灰と化した紙を離した指で、後ろを指差す。


「あ?」


振り向いた先に、幾人かの黒服に身を包んだ者達がやってくるのが見えた。皆武装している。護送班だ。


「…何だ、やっと来たのか」


その夜の終焉に、恐怖で縮こまっている男達は異常な程素直に護送車に乗せられていった。

男達にしてみれば、少しでも早く最悪の悪夢から――言うまでもなく少年のことだ――逃れることができるならば、何でもよかったのだろう。

夜が、終わりに近づいていく。そうして彼らの任務は終わった。



楽園とは名ばかりの、エデンの園は檻に近い。

――そこは、罪の巣窟に取って代わられたのだから。


シンズネスト、と呼ばれる都市がある。

そこは遥か昔、人々が辿り着いた時には緑が生い茂り、食物に満ちあふれ、皆飢えることもない聖地だったという。

嘘か真か、それはわからない。

今はもう、エデンと名付けられていた土地の面影は欠片もなく、そこはあらゆる欲望が渦巻いているだけだった。

――シンズネスト、第五一般居住区。

その地には、ある特殊なひとつの組織が根を下ろしていた。

ブレス・オブ・エンジェルズ――通称BOANと呼ばれるその組織は、所謂『万屋』を大きくした存在だ。

少女の格好をして、男達をしめあげた、愛らしい顔立ちの少年の名前は、風峰かざみね珠貴たまき

そして性別認識不可能な無表情少女の名は、深遊みゆういつきといった。

彼らはパートナーで、共にBOANに所属する者なのである。

基本的にどこからか依頼が舞い込んでくると、報酬と引き換えに、BOANはその依頼に応えて誰かを派遣する。

今回の仕事は脱獄犯を捕まえることだったのだが――結局、男は獄中にいるよりも恐ろしい目に合わされて、他の男達共々牢屋に再びぶちこまれた。

あの地区にいる輩は大抵が犯罪者である為に、共に居た男達も尋問され、ぼろぼろと罪がこぼれてきたことで、御用となったのである。

渦中の珠貴はというと、やりすぎだと上司から小言を言われ、未だに置いていったことを少し根に持っている斎にいじられながら過ごし……拗ねていた。


「俺が何したっつーんだよ…」

「…タマ」


ぽん、と珠貴の肩に手を置く斎。

機嫌を直して珠貴を慰めようとしてるのかと思いきや、


「…こないだの写真、出来た。可愛く撮れてる」


そう言って見せてきたのは、件の任務の、珠貴の女装写真であった。


「てめえ! いつの間に!?」


奪い取ろうとすると、斎はすいと避ける。

幾度か攻防戦を繰り広げた後、斎は表情こそ出ないものの、楽しげに言った。


「…タマ。今度の任務は、喫茶店のウエイトレスをやれって。私はウエイター」

「何でだよ! 逆だろうが!!」

「…その方が似合うから」

「ぜっってえ嫌だぼけー!! つーかタマって呼ぶなー!!」


珠貴の怒りの絶叫が、響き渡った。

そんなこんなで、彼らは今日も元気である。



◇◇◇◇

(小ネタ)



「…気持ちいい…」


ぽーっと、表情の乏しい顔に少しだけくつろいだ色を乗せて、ほんの少し頬を赤くした少女は、ぬくぬくと暖をとっていた。


「――おい、サイ。何だそれ?」

「…たま」

「タマじゃねえ!」

「…私も違うもん」

「もんってなんだ!…いつき、斎って言えばいいんだろ、お前もちゃんと呼べ、タマって言うなよ!」

「たま…き」

「…お前今言いそうになっただろ」


ぎろり、とにらまれて、少女は視線をそらす。


「…気のせい」

「――もういい…で、なんだその四角いの」


ため息をついて、少女が足を突っ込んでいる物体を指差す。

それは、床に短いカーペットを敷き、その上に四角いテーブルを置き、更に布団を上からのせているという奇妙な見知らぬモノだった。

座ってそのテーブルの中に足を入れた斎が、やけに気持ち良さそうにしているので怪訝に思って尋ねた珠貴に、斎はどこか少しうっとりとして、言う。


「こたつ…」

「こた…?」


聞き慣れぬ言葉に首を傾げる珠貴に、嬉々とした声音で斎は語る。


「旧世界の東にあった国の人間が使っていた、冬の常備品…机に発熱部品と布団をくっつけたようなもの…あったかい。寒がりには最適…」

「って、お前そんなもの何で持ってんだよ…」

「…文献に絵付きで作り方載ってたから作った…」


誇らしげに斎は言う。彼女は案外手先が器用だった。


「あ、そ…」

「…入る?たま……き」

「お前、嫌がらせか?嫌がらせだろそーだろ?…入る」


呼び方にけちをつけながらも、興味があったらしく、珠貴はいそいそと斎の向かい側に座った。

大きめに作ってあるので、足を伸ばして入れても二人の足はぶつからない。


「あ、ほんとだ…ぬくい」


あたたかさに表情を緩めた珠貴を見て、何を思ったのか、斎は一旦こたつから出ると、すぐにまた潜り込んだ――珠貴の隣に。


「お、おい、なんだよ!?」


ぴたっとくっついて隣に座る斎にびっくりした珠貴は声をあげる。


「…珠貴、ぬくいから」

「こたつ…だっけ?に入ってるじゃねーか!」

「ふつうは肩まで潜り込む…今は珠貴が入ってて出来ないんだから、たま…きで暖を取るのは正論…」


そう言いながらひっついて来られるが、珠貴はひっぺがすでもなく、ただため息をついて諦めた。

――実は彼、体温が高めな為、常日頃から寒がりな斎に暖房器具扱いされていたので、もう慣れていたのだった。


そのあと、眠気に襲われて、二人してこたつにもぐりこんで寝ていたのを仲間に見られてからかわれ、珠貴が怒るのだがまたそれも後の話。



大分前に書いたものなので文章が崩れておりますがお気になさらず。

実は近未来的な話だったり。でもあんまり科学的なことは出てきません。

女の子みたいな外見が悩みの少年と無表情美形がデフォルトながら中身は相方ラブな少女の話。結構お気に入りのキャラクターです。

……私外見と中身が一致しない人物が好きすぎる。

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