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勇魔の小唄3〜ばとる・すりー〜

勇魔の小唄の続きです。


ちちち、と小鳥の鳴き声が響くような青く高い空の下で、幼い少女の罵声が響き渡った。


「貴様などもう知らぬ!馬鹿者ー!!」


いつものように叫んだメリエルランスは、小さな身体を翻して駆けて行った。


「…やれやれ」


嘆息した勇者は、少女が走り去った方角が緑深き森であると気付くと、更に肩を落としながら後を追ったのだった。






「あの、無礼者がっ!」


悪態をつきながら、生い茂る草木の中を突き進む黒髪の美少女。

八つ程の小さい子供が、大の大人でも迷う巨大な森の中をずかずかと進んで行く様は恐ろしいものがあったが、それを見ている者は無い。

また、少女自身、自分が迷子への道を突っ走っていることに気付いてさえいなかった。

あてもなく、メリエルランスはただ歩いているだけだったのだ。


「くっ。あと少しでも魔力があれば、馬鹿になど――」


――鈍い音がした。


「~っ…!!」


倒れた古木の飛び出していた太い木の枝に、額を強かに打ち付けた魔王はしゃがみこんで痛みに悶える。ぶちぶちと呟いていた所だったので、舌も軽く噛んでしまった。

目の前に星が飛んでいた。


「――おにょ(の)れ、木すらも私をおちょくるか…痴れ者がっ!」


大いなる勘違いだったが、メリエルランスは痛む額を押さえつつ、怒りを込めて、寿命を迎えた木をべしべしと――実際はぺちぺちと――叩く。


「貴様など燃やして――」


言い掛けた言葉を、途中で止めた。

その木がとても大きく、樹齢も高かっただろうことを改めて見て取って、何故か彼女は思い直したのだった。


「――そなたは、この森で生きてきたのだな」


緩やかな風が、息づく緑を撫でていく。

少女の瞳は、外見にそぐわぬ落ち着いた光を宿していた。

いつもわかりやすい程感情を顔に出していた彼女だが、この時ばかりはきっと、誰が見ていても、彼女の考えは読めなかっただろう。

それ程、少女の雰囲気はがらりと変わっていた。


「…許してやろう。私は寛大なのだ。朽ちた者まで手に掛けようとは思わん」


――しかし、一瞬の内に、憂いさえ帯びていた表情は一変し、無邪気で尊大な子供が戻って来る。


「――だがなあ、私は痛かったぞ。もう少し、他の者を思いやる終わり方を選んだらどうだ?」


最早役目を終えた者に――否、それ以前に木に話し掛けてどうなるという訳でもないだろうに、メリエルランスはぶちぶちと古木に文句を投げ付けていた。


「…メル、何してるんだ…?」


その場面に丁度やってきたウィルが、眼前の光景に思わず目を疑ったのも、無理からぬことだろう。






「…メル?」

「………」

「メールってば」


いつぞやのごとく、ウィルがいくら呼び掛けても少女は返事をしない。

ずんずん歩く後ろ姿に、ウィルは言った。


「……出口、そっちじゃないよ」

「…!」


ぴたり、と足を止めて、何も言わずに向かう方角を変える。


「そっちでもないから」


腕を掴んで引き止めた。

少女は無言のままじたばた暴れる。

しょうがない、とウィルは呟くと、その腕にメリエルランスを抱えあげた。


「は、離せ!降ろせー!!」


漸く声を出して騒ぎ始めたメリエルランスに顔を叩かれ、


「痛い痛い。…はいはい、拗ねっ子お姫さま、機嫌を直して下さいねー」


ぽんぽんとあやすように背中を叩いた。


「やめんか!!」


森の奥で繰り広げるべきものではない微笑ましい――メリエルランスの怒りに反して他人には間違いなくそう見えるだろう――その光景。

彼らは失念していた。

そこが、弱肉強食の自然の世界であることを。


――グルルルルル。


「――!」


突然聞こえた獰猛な唸り声に、瞬時に身構えたウィルはメリエルランスを降ろし、背に庇うような態勢を取る。

束の間惚けていたメリエルランスは我に返って、


「な、何しておる!私は庇われずとも――」

「黙ってろ!!」

「…っ!」


普段とは違う口調で一喝され、メリエルランスはびくりと飛び上がった。

何か言いたげに口を開いたが、ぴりぴりと緊張が張り詰めているのを感じて再び閉ざす。

声は、茂みの向こうから聞こえた。

さぞかし大きな獣だろうと見当をつけ、戦闘体勢に入っていたウィル。

緑ががさりと動き、飛び掛かってくるかと剣を構え直した――が。


――ガルル。


「……………あれ?」


拍子抜け。

――何とそれは森の王、狼だった。

銀色に光る瞳と綺麗な毛を持った狼は、恐ろしい声をあげ、鋭い歯を剥き出しにしてこちらへ寄ってくる……しかし。


「…………小さっ」


思わずウィルは口走った。

――その狼は、何と子犬程の大きさしかなかったのだ。

一瞬、犬と見間違えた程だった。


「……何?」


ウィルの後ろから顔を出したメリエルランスが、狼を視認する。


「…あっ!」


息を呑んで、次の瞬間、その瞳を輝かせた。

まずい、とウィルは思う。

小さな子供は概して小さな生き物が好きだ。

メリエルランスもその例外ではないらしい。

手を伸ばして近寄ろうとしている。


「…!」


例えいくら外見が愛らしかろうとも、害が無いとは言いきれない。

ウィルは慌ててメリエルランスを引き戻そうと――、


「メ――」

「フェンリル?フェンリルではないか!無事だったのだな!」


――クーン。


「………………はい?」


嬉々としてその毛を撫でるメリエルランスの顔を、甘えたような声を出して狼は舐めていた。


「こら、フェン!くすぐったいではないか!」

「……えーと」


状況はよく理解できないが、少女を守ろうと伸ばした手は無駄だったらしいと、ウィルは脱力した。




「フェンは私の番犬だ!」


どうだ凄かろう、と言いたげに胸を張るメリエルランスにウィルは言う。


「や、それ犬じゃなくて狼」

「…ご、護衛だ!」

「……ふーん、こんなに小さいのに?」

「馬鹿にするでない!フェンも、私を守った為にわけあって小さくなってしまったのだ!」

「へー、そうなんだー」


明らかに信じていないウィルに、メリエルランスは怒りで顔を真っ赤にして怒鳴った。


「貴様、私を愚弄しおって…よかろう、どれだけ優秀な護衛かを見せてやる!フェン、この男を始末せよ!!」


メリエルランスが、びしっとウィルを指差すままに、フェンリルという名の狼は勇者に飛び掛かろうとして、


「…ほーら、餌だぞー」


……ぽい、とウィルが投げた鶏の骨を追い掛けていき、嬉々として噛り付いた。


「…優秀な護衛、ねえ?」

「フェンーっ!!」


はっと正気に返ったらしい狼は戻ってきて、主人に申し訳なさそうな表情を向ける。

そして再びウィルに向かおうとしたが、


「…食うか?」


彼が差し出した鶏肉に喜んで飛び付いたのだった。


「こらーっ!!」


メリエルランスの怒号が森に響き、驚いた鳥が数羽、ばさばさと羽ばたいていった。



森を出た時にはフェンリルはすっかりウィルに懐き、撫でられても嫌がらないどころか、ふさふさの尻尾をぱたぱたと振っていた。

そんな忠実な獣に、裏切り者と言いながらふてくされたメリエルランスのご機嫌は、ウィルがまた与えるお菓子で回復するのだが、それはもう少し後のこと。


こうして二人の旅路に、一匹が加わったのであった。




☆☆☆


  にたものどうし



「…フェン」


真剣な表情で、メリエルランスは忠犬、基忠狼に尋ねた。


「…正直に答えよ」


お座りした狼は、つぶらな瞳で、複雑そうにメリエルランスを見つめている。


「私を主人だと思っているか?」


賢く、言語を解する獣は躊躇い無く頷いた。


「…では」


きっ!と恨めしげに睨み付けてくる主人に、フェンリルは困ったように見えた。


「私とあの男、どちらがより好きだ!?」


――クゥーン。

耳を垂れ下げて上目遣いに主人を伺う獣と、小さな仁王像と化したメリエルランス。

固まってしまった一人と一匹のもとに、丁度話題の主がやってきた。


「ん。フェン、魚焼いたけど食うかー?」


ぱたぱた尻尾を振ってウィルにじゃれつく犬……じゃなく狼。


「フェンリルーっ!まだ話は終わって…」

「メル、桃剥いたけどー?」

「た、食べるっ!」


……こちらもまた、尻尾があったら振っていそうだった。

結局、話は有耶無耶の内に消えてしまった。



一人と一匹を完全に餌付けした勇者は思う。

似たもの同士な主従関係だなあと。

狼っていいですよね。仔狼とか。またもやサイトからの転載です。フェンリルは知人から人気が高いです…私の愛が詰まっているからでしょうか。

結構みなさん活動報告でSSとか書かれてるみたいだし今回はちょっとした番外みたいなのも以前書いたのでそちらで載せてみます。

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