らっきー×あんらっきー(転生トリップ)
『あなたは運が良いのね』
何度も何度も、繰り返し聞いてきた言葉だった。
そうなんだろうと漠然と思いながらも、あまり嬉しくはないこと。
今まで、赤信号に捕まったことなどほぼない。天気も晴れて欲しい時は晴れているし、外出したくない時は台風やらなんやらで都合よく済んできた。
気紛れに応募してみれば懸賞は毎回当選するし、無理矢理買わせられた宝くじは見事当たった。
――人の幸運というものは他人からすればやっかみの対象でしかない。
物的な幸運はあっても、その代わり、人的な運は皆無に近かったらしい。
他人とのあたたかな関わりを知らないままに、憎悪に満ちた凶刃に倒れ、私は早々に人生の幕を降ろした。
そこで命を終えることを望んでいなければ、多分また、『運が良かった』で助かっていたのだろうけれど――自分の死は、対人的な運よりも物的な運の方に重心が傾いていたのだろう。
そこで助かることを望まなかったから、私は一度、死んだ。
――そして、何の因果か生まれ変わったのは、日本どころか地球という惑星でもなく。
またもや対人的な運に恵まれなかったのだが、前世に比べて物的運が減少しており、代わりに違う運が足されたようだった。
何と、今度は人外にもてもてらしい。
「こっちにおいで」
「何言ってる、俺の所に」
「いやいや、俺だろう」
力の強い男性が三名、異様な雰囲気で私を呼んでいる。
おろおろと困っていると、優しく頭を撫でられた。
「あやつらの戯言は気にしなくていい。お茶でもしようか」
ふわりと優しい笑顔。
「うん!」
きゅ、と抱き着いた体から漂う柔らかな香りも、長い白銀の髪も、暁色をした切れ長の目も全部全部、大好きだった。
――例え、相手が人間じゃなくても。
生まれ変わった世界には、人間とは別に「魔人」という種族がいた。
人に比べて数は非常に少ないが、魔法を扱える力ある者たちだ。人間のことは特に何とも思っていないのだが、人間は彼らのことを怖がっているらしい。
前世では、生まれてすぐに事故に巻き込まれて私一人生き残り、両親は亡くなって天涯孤独だったのだが、現世では、母子家庭に生まれて、しかも望まない子どもだったらしく捨てられてしまったそうだった。
前世では、大人達に何かと利用されてきた。今回もそうなるのだろうかと考えていただけに、魔人の中でも力ある白銀の君に拾ってもらったことは、降って沸いた一番の幸運だった。
前世の半分程しか運はついてないが、今回は妙に魔人に好かれる何かを持って生まれたらしく、よくよく求婚者がやってくる。先程の青年達はその代表格だった。
養い親と仲良くティータイムを過ごしながら、初めて他人の温もりを得た幸せを噛み締めつつ思う。
私はまだ五歳なんですが、色恋沙汰はあと十年位後にしてくれませんか、と。
何はともあれ、人間との触れ合いはなくても、幸せに暮らしています。
それからも日々口説かれ続け、十年も経った頃には求婚者が後を絶たず、夜も安心してなかなか眠れなくなるだなんて、その時の彼女には知る由もなく。
結局はとある魔人と婚姻を結ぶことになるのだけど――それはまた、別の話。
物的には運が良いのに人に関する運はない少女の話。トリップ書こうと思ったらこんな話に。