勇魔の小唄2~ばとる・つー~
「勇魔の小唄」の続き?日常。まあこの話は単発読み切りなので、載せてみました。
くきゅるぅぅぅ。
「…腹が減った」
むすっとした顔で、メリエルランスは呟いた。
近頃傍らに姿があるのが常となっている青年は、何故かそこに居ない。
「…むう。勇者め、遅いではないか」
旅路には金と食料がいる。
そして彼らは、路銀はあったが、食物を持たなかった。
購入しようにも、現在地は鬱蒼とした森の中。
当然村や店、まして宿などあるわけがなく、買い物以前に野宿だった。
故に、金はあっても使用不可能。
自力でどうにかするしかないと言うわけで。
「俺が何か食べれる物を探してくるから、お前はここから動くなよ」
「何ぃ?命令するでない!誰がお前の言うことなど聞く――」
「…そうか、じゃあメルのご飯はそこに生えてる怪しげな斑模様のキノコで…」
「何をしておる!さっさと行くがいい!」
――という会話を交わして、ウィルが茂みの中に入っていったのはかれこれ三時間前だ。
幸いにも今日の寝床は少し開けた場所で、天気が崩れる様子もない。
荷物番をしながらメリエルランスはウィルの帰りをずーっと待っていたのだけれど。
「…ええい、暇だ!」
草の上を転げ回ったり――木の幹に頭をぶつけて痛い目にあった――、木の枝に登ってみたり――危うく降りられなくなるところだった――、その辺を走り回ったり――盛大に転けて擦り傷をこしらえたので、後で叱られるのではないかと実はびくびく――と、他にも色々して待ってみたが、一向にウィルが戻ってこない。
暇を持て余し痺れを切らしたメリエルランスは、空腹だし腹が立ったので、取り敢えずウィルの外套を下敷きにして横たわった。
思いがけず、それは感触が良かった。
「ぬ…」
あやつこんないい服を持っておったのか、とかなんとか呟きつつ、ごろりと寝返りを打つ。
視線の先は、ウィルが消えていった方角。
ひどく、静かだった。
他に人の気配など全くしない。
拗ねたような口調で、メリエルランスはぽつりと言った。
「…馬鹿者が…」
早く、帰ってこい。
何やら、香ばしい匂いがした。
ぱちりと大きな目を開いて自分が眠っていたことを知ったメリエルランスは、小さな手で眠い目を擦ってから、何度か瞬きを繰り返し、視界を透明にさせてから、きょろきょろと辺りを見渡す。
「おー、メル。起きたのか」
後ろを向くと、薪を持ったウィルがこちらに来ている。
すたすたと歩いて、ウィルはいつの間にか焚かれていた火に薪を足した。
先程の匂いはそこからしていたようだ。
くぅ、とお腹が抗議する音を聞いて、寝起きだったこともありぽかんとしていたメリエルランスは、はっと我に返り、
「お…遅かったではないか!貴様、私を此れ程待たすとは、なんと無神経な輩だ!」
憤慨する少女を余所に、勇者の青年は薪をいじりつつ生返事をした。
「はいはい、ごめんごめん」
いかにも適当な謝罪に、魔王様はぷっつんする。
「何だその言い方は!…貴様など、貴様など、丸焦げにしてやるー!!」
小さな手を掲げる。
その周りでは、歪んだ空気が渦巻いていた。
「私を馬鹿にしたことを後悔するがいい!!」
何ともセオリー通りの悪役台詞を吐いて、勇者に向けて炎の魔術を――
ぽひゅん。
「……………あれ?」
――食らわせられなかった。
一瞬だけ赤く灯った小さな火は、非常に情けない音を立てて不発に終わったのだ。
信じられない物を見る目で己の手を凝視するメリエルランス。
ウィルは、震えていた。
必死で溢れる感情を抑えようとして。
しかし、
「は…は、ははははは!!おま、お前…偉そうなこと言っといて失敗って、あはははは!!」
堪え切れずに腹を抱えて笑いだした。
メリエルランスは射殺すような眼差しでウィルを睨み付けた。
「笑うな!笑うなと言っておろうが!!」
叫び、ぽかぽかと両手でウィルを叩いても効果は無し。
その後も、ウィルは暫くの間笑い続けたのだった…。
むっすー。
そんな効果音が聞こえてきそうなほど、メリエルランスは立腹していた。
「メル、悪かったって」
ウィルが謝っても、少女はますます顔を背けるだけ。
愚か者が、私は今魔力が足りないだけだ、本来の身体であったら、あっという間に消滅させてやるものを、今に見ておれ…などとぶつぶつ言いながら膝を抱えて意地でもウィルの方を向かない、という態度をとっているので、彼は嘆息した。
「…ほら」
メリエルランスの目の前に、焼いた茸や木の実などを差し出す。
それはとても、食欲をそそる香りがした。
「う…」
ごくりと唾を飲み込む少女。
お腹は、物凄く空いていた。
しかしここで素直に受け取れば侮られるのは確実と葛藤している彼女に、ウィルは真面目な顔で、
「ごめんな?遅くなって」
「……」
メリエルランスはぷいとそっぽを向く。
やっぱり駄目かと思ったが、食物は奪われていった。
おや、と目を見張るウィルに背を向けながら、メリエルランスは言う。
「こ、今回は許してやろう。私は心が広いからな!だが、次はないぞ!」
そう言って、貪るように食べ始める。
ウィルはくすりと笑って、
「…おーよしよし、寂しかったのか」
とメリエルランスの頭を撫でた。
当たり前に激昂した魔王少女が文句を言うが、口に物を詰めているせいで言葉は不明瞭。
それで、口に物を入れたまま話さない!とまたウィルに叱られることになり、釈然としないものを感じつつ、彼女は反省させられることになるのだった…。
彼らの旅は、まだまだつづく。
みじかーい。まあHPから持ってきただけなので。この二人の話はある意味一番ほのぼのしてると思うんですよね。個人的に気に入ってるペアなんですが。
文章改稿してません。